3-1 現金の範囲1-通貨と小切手
この項から、勘定科目や仕訳について具体的に解説していきます。
本章では、現金について解説します。
はじめに-勘定科目と仕訳の学習を継続できるように伝えたいこと
現金から1つずつ解説していきますが、解説の仕訳では、まだ習っていない勘定科目や仕訳、解き方のテクニックが登場してきます。
従って、最初の1周目の学習では、未学習の勘定科目は考えず、学習済みや学習中の勘定科目に注力して学習するよう進めましょう。
<ポイント:勘定科目・仕訳学習の進め方>
- ・未学習の部分は考えない
- ・学習済み・学習中の部分に注力して学習する
「第4章 売掛金と買掛金」を習得すれば、学習済みの勘定科目が増えます。
現金
現金とは、普段皆さんが利用している、財布に入っている100円硬貨や10円硬貨といった硬貨(こうか)、及び千円札や1万円札といった紙幣(しへい)をいいます。
硬貨と紙幣を合わせて通貨(つうか)といいます。
通貨の仕訳
通貨は現金です。そして現金は資産に属します。
従って、通貨は「現金(資産に属する勘定科目)」で仕訳します。
通貨が増加する取引は、借方に「現金」を記入します。反対に通貨が減少する取引は、貸方に「現金」を記入します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
通貨の増加 | 現金 | ××× | 相手科目 | ××× |
通貨の減少 | 相手科目 | ××× | 現金 | ××× |
例えば、5/15に普通預金から1万円の紙幣を引き出した場合には、現金が増加するので、借方に「現金」と10,000を記帳します(貸方は「普通預金」と10,000)。
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
5/15 | 現金 | 10,000 | 普通預金 | 10,000 |
6/10に5万7,500円の会社用の机(備品)を通貨(硬貨と紙幣)で購入した場合には、現金が減少するので、貸方に「現金」と57,500を記帳します(借方は「備品」と57,500)。
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
6/10 | 備品 | 57,500 | 現金 | 57,500 |
現金の範囲
簿記で取り扱う現金の範囲は、普段皆さんが利用している通貨以外にも、様々なものが存在します。
簿記で取り扱う現金の範囲について、下にまとめました。
※配当金領収証と期限到来公社債利札は日商簿記2級の出題範囲
このように簿記で現金といった場合には、通貨の他に通貨代用証券(つうかだいようしょうけん。簿記3級では覚える必要はありません)も現金の範囲に含まれます。
通貨代用証券にはいくつか種類があります。馴染みのないものがほとんどだと思いますので、小切手から順番に解説します。
小切手
小切手(こぎって)とは、通貨代用証券の1つで小切手法に基づいて作成される有価証券をいいます。
まずは実際の小切手を見てみましょう。下にサンプルを用意しました。
※小切手の詳細は簿記3級の範囲外。サンプルの記載を覚える必要はありません。
【引用元】手形・小切手の振出 - 全国銀行協会 PDF文書
このサンプルの小切手だと、『りす山太郎が「この小切手を所持している人に対して、250万円を全国ペンギン銀行動物の森支店から支払います」ということを約束する証書(小切手)を平成24年4月12日に振り出した(作成した)』ということです。
小切手の見方
その他、小切手の見方は次の通り。
※日商簿記3級の範囲外。覚える必要はありませんが「小切手の振り出し」という言葉は試験に登場するため覚えましょう。
1.記載事項
小切手は小切手法に基づいて作成されますが、上記サンプルのように必ず記載する事項があります。記載方法も定まっています。
2.当座預金の開設
小切手を振り出すには、銀行と取引して当座預金の口座を開設しなければいけません。
3.小切手帳
小切手を振り出す(作成する、発行する)には、小切手帳から作成します。
<ポイント:小切手の振出>
- 小切手帳に必要事項を記入・署名・押印して、法律的に有効な小切手を作成することを「小切手の振り出し(ふりだし。振出とも)」といいます。
小切手帳は未記入の小切手が束になったものです。
サンプルには「A193377」という小切手番号が記載されていますが、全て連番で同様に番号が印字されています。
4.管理
小切手を振り出すには、必要事項を自署(または記名捺印)して、点線部分より切り離します。
左側の白地の部分は「ミミ」と呼ばれ、控えになります。
振り出した小切手情報を後に確認できるように、ミミには必要な情報を記入しておきます。
5.保管
小切手は勝手に使用されると、会社のお金の横領につながります。
従って、小切手帳や発行済みでまだ渡していない小切手は、金庫などで厳重に施錠管理します。
6.支払のための呈示
他の会社から小切手を受け取った場合ですが、自社が取引している銀行に持っていけば(支払のための呈示(ていじ)といいます)、取引銀行が取り立ててくれます。
【参考(外部リンク)】
お金に代わる働きをする手形・小切手 - 全国銀行協会 PDF文書
手形・小切手の振出 - 全国銀行協会 PDF文書
他人振出小切手と送金小切手
他人振出小切手(たにんふりだしこぎって)とは、当社以外の他の会社が振出人となっている小切手をいいます。
送金小切手(そうきんこぎって)とは、遠隔地の他人に送金するために銀行に依頼して、銀行が振出人となって発行した小切手のことをいいます。
送金小切手は、当座預金口座を開設しなくても発行してもらえますが、銀行には送金額だけでなく、手数料も支払う必要があります。
他人振出小切手は、銀行に持っていき、支払のための呈示を行えば、銀行が取り立てを行った結果、自社の預金口座にお金が振り込まれます。
このように銀行へ呈示すれば現金に換金できることから、他人振出小切手は現金として扱います。他人振出小切手を受け取った時点で、簿記では現金の増加として仕訳します。
送金小切手も同様に現金として取り扱います。受け取った時点で現金の増加として仕訳します。
以上の通り、小切手は現金の範囲になりますが、現金ではなく別の科目で処理する場合もあります。
例えば、自社が小切手を受け取るのではなく、振り出した場合には、現金ではなく当座預金の減少として仕訳します(「3-5 普通預金・定期預金・当座預金」で解説)。
受取小切手の仕訳
受け取った他人振出小切手や送金小切手は現金として取り扱います。そして現金は資産に属します。
従って、他人振出小切手や送金小切手を受け取った場合には、現金が増加するため、借方に「現金」を記入します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
他人振出小切手・送金小切手の受け取り | 現金 | ××× | 相手科目 | ××× |
仕訳問題
※現金以外の勘定科目は後の章で解説します。
- 1.A社の従業員は交通費(「旅費交通費」を使用)750円を現金で支払った。
- 2.A社は売掛金の回収(「売掛金」を使用)として、B社より小切手10万円を受け取った。振出人はB社である。
- 3.A社は売上代金(「売上」を使用)として、C社が郵送した小切手5万円を受け取った。振出人は甲銀行である。
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 旅費交通費 | 750 | 現金 | 750 |
2 | 現金 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
3 | 現金 | 50,000 | 売上 | 50,000 |
(解説)
1.は通貨、2.は他人振出小切手、3.は送金小切手に関する問題です。
現金以外の勘定科目はまだ解説していないため、1周目の学習では、「現金」を借方・貸方どちらに記帳するのか、を理解することを念頭に置いて解きましょう。