3-4 現金過不足
ここでは現金過不足を解説します。
現金過不足とは
現金過不足(げんきんかぶそく)とは、帳簿上の現金残高と実際の現金有高に差異があることをいいます。
実務上で現金過不足が発生した場合には、一時的に「現金過不足」で仕訳します。
帳簿上と実際の違い
「帳簿上の現金残高」とは、仕訳帳と総勘定元帳に記帳した現金勘定の残高をいいます。
例えば、4/10に普通預金から現金を10万円引き出した場合には、次の通り、仕訳します。
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
4/10 | 現金 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 |
この結果、帳簿上の現金残高は10万円の増加。実際の現金有高(残高)も10万円の増加です。
しかし、もし現金を引き出したにも関わらず、仕訳帳への記帳を忘れたとしたら実際の現金は10万円の増加ですが、帳簿上の現金は「増減なし」です。
このように、帳簿への記帳忘れや記帳したとしても金額・勘定科目の間違い、または記帳は正しいとしても実際の現金の紛失や盗難などが発生した結果、
帳簿上の現金残高と実際の現金有高との間に差異が生じる
ことになります。
この差異がどれだけ生じているのかを把握するために現金過不足勘定を使います。
現金過不足が発生した時の仕訳
「実際の現金有高が正しい」と考えて、帳簿上の現金残高を実際の現金有高に合わせるように、仕訳します。
仕訳ですが、借方、貸方のどちらかに「現金」を使用し、もう一方には「現金過不足」を使用します。
より具体的に、ケースに分けて説明します。
(ケース1)帳簿上の現金残高 > 実際の現金有高の場合
→実際の現金有高の方が少ないので、帳簿上の現金残高を減らします(現金の減少)。現金は資産に属する勘定科目であり、現金の減少は貸方に記録します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
帳簿 > 実際 | 現金過不足 | ××× | 現金 | ××× |
(ケース2)帳簿上の現金残高 < 実際の現金有高の場合
→実際の現金有高の方が多いので、帳簿上の残高を増やします(現金の増加)。現金は資産に属する勘定科目であり、現金の増加は借方に記録します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
帳簿 < 実際 | 現金 | ××× | 現金過不足 | ××× |
<補足>現金過不足勘定の性質
現金過不足勘定は、帳簿上の現金残高を実際の現金有高に一致させるために使用する、「現金勘定の相手勘定」です。
また、一時的な不明残を扱うために存在する勘定科目でもあり、他の勘定科目とは異なる、「特別な勘定科目」とも捉えることができます。
以上から現金過不足勘定は、資産、負債、純資産、収益、費用のどれにも属さず、「取引の8要素」には当てはまらない特別な勘定科目です。
現金過不足の原因が判明した時の仕訳
現金過不足の原因が分かった場合には、原因に合った仕訳を行います。
<例1>帳簿上の現金残高が実際より1,000円多かったが、切手の購入代金だと判明した場合(「通信費」を使用)。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
現金過不足の発生 | 現金過不足 | 1,000 | 現金 | 1,000 |
原因判明 | 通信費 | 1,000 | 現金過不足 | 1,000 |
(解説)
現金過不足の残高をゼロにするために、
現金過不足の発生で計上した借方1,000の現金過不足残高に対して、原因が判明した時に貸方に現金過不足1,000を計上して借方残高と相殺します。
※簿記3級の中では難しい論点。「13-3 決算整理事項等」で解説する「反対仕訳」や「仕訳の訂正」の手法を使います(次の例も同様)。
※仕訳残高の相殺は、「2-3 仕訳の基本と取引の8要素」の「残高の相殺」の解説を参照
<例2>帳簿上の現金残高が実際より5万円少なかったが、金庫に保管していた他人振り出し小切手(掛代金の回収。「売掛金」を使用)を仕訳していなかったことが判明した場合
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
現金過不足の発生 | 現金 | 50,000 | 現金過不足 | 50,000 |
原因判明 | 現金過不足 | 50,000 | 売掛金 | 50,000 |
(解説)
前の例と同じく、現金過不足の残高をゼロにするために、
現金過不足の発生で計上した貸方50,000の現金過不足残高に対して、原因が判明した時に借方に現金過不足50,000を計上して貸方残高と相殺します。
現金過不足の原因が判明しない場合の決算手続きの仕訳
決算日を迎え、さらに決算手続き期間中にも現金過不足の原因が分からない場合、現金過不足勘定の残高をそのままにしておくわけにはいきません。
なぜならば、「<補足>現金過不足勘定の性質」で説明した通り、現金過不足勘定は「一時的な勘定科目」だからです。
ではどうするのかというと、収益または費用の勘定科目に振り替え(ふりかえ。変更・修正と同様の意味)します。具体的には次の通りです。
(ケース1)帳簿上の現金残高 > 実際の現金有高の場合
損したと考え、「現金過不足」を「雑損または雑損失(費用に属する勘定科目)」に振り替えます
(雑損・雑損失どちらの勘定科目でも構いません)。
費用の発生は借方記入のため、「雑損または雑損失」を借方に記入します。
現金の帳簿残高と実際の有高を比較した時に
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
現金過不足 | xxx | 現金 | xxx |
と記帳しているため、この現金過不足の残高をゼロにするために、反対側の貸方に「現金過不足」を記入し、借方には「雑損または雑損失」を記入します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
原因不明(雑損) | 雑損(雑損失) | ××× | 現金過不足 | ××× |
(ケース2)帳簿上の現金残高 < 実際の現金有高の場合
得したと考え、「現金過不足」を「雑益または雑収入(収益に属する勘定科目)」に振り替えます(雑益・雑収入どちらの勘定科目でも構いません)。
収益の発生は貸方記入のため、「雑益または雑収入」を貸方に記入します。
現金の帳簿残高と実際の有高を比較した時に
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
現金 | xxx | 現金過不足 | xxx |
と記帳しているため、この現金過不足の残高をゼロにするために、反対側の借方に「現金過不足」を記入し、貸方に「雑益または雑収入」を記入します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
原因不明(雑益) | 現金過不足 | ××× | 雑益(雑収入) | ××× |
仕訳問題
- 1.期中に現金残高を確認したところ、帳簿残高50,000円に対して実際の現金有高は45,000円であったが原因は不明であった。
- 2.その後、1.の差額のうち、2,000円は交通費の支払い(「旅費交通費」を使用)について未記帳であることが判明した。
- 3.決算を迎えた。原因が判明しないため適切な処理を行う。
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 現金過不足 | 5,000 | 現金 | 5,000 |
2 | 旅費交通費 | 2,000 | 現金過不足 | 2,000 |
3 | 雑損 ※ | 3,000 | 現金過不足 | 3,000 |
※雑損失でも可
(解説)
1.期中の差異は「現金過不足」で仕訳します。
2.差異5,000円のうち、2,000円の原因が判明したため、 現金過不足の借方残高を2,000円減少させるために貸方に「現金過不足」を記入し、借方には「旅費交通費」を記入します。
3.決算手続き時にも原因が判明しない3,000円(借方)の現金過不足は「雑損または雑損失」に振り替えます。