手形の裏書譲渡|仕訳と勘定科目を解説(簿記2級・上級)

記事最終更新日:2024年5月19日
記事公開日:2017年11月12日

対象:簿記2級、上級者・実務家

簿記2級と上級論点で出題される手形の裏書譲渡について、勘定科目と各種の仕訳方法、及び表示や注記などに関する実務上の留意点を解説します。

1.手形の裏書譲渡とは

手形の裏書譲渡」とは、受け取った手形を支払期日(満期日)まで保有せず、他社に譲渡することをいいます。

手形の裏面に必要事項を記入して譲渡することから、「裏書き」といい、当該手形を「裏書手形」といいます。

2.取引の特徴

受取手形を裏書き譲渡で渡した後、満期日に決済されない場合があります。これを「手形の不渡り」といいます。

手形が不渡りになった場合、代金回収できなかった取引先は当社に対して代金請求する権利(償還請求)を有するため、代金を支払う義務が当社に生じます。

3.裏書手形の仕訳

はじめに簿記2級で出題される仕訳を解説した後に、上級者・実務家向けの仕訳方法を解説します。

3-1.基本となる仕訳(簿記2級)

取引の時系列に従って解説すると次の通り。

3-1-1.手形を裏書譲渡した時の仕訳

商品販売などで取引先から受け取った手形を裏書きして譲渡するため、受取手形が減少します。従って、貸方に「受取手形」を記入します。

<仕訳例>
1.商品100をA社に販売し、代金としてA社振出しの約束手形を受け取った。
2.商品100をB社から仕入れ、代金として上記1の手形を裏書きしB社に渡した。

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1受取手形100売上100
2仕入100受取手形100

3-1-2.手形代金が支払われた場合

裏書手形を受け取った取引先は代金を回収できたため、当社は代金請求されません。従って、簿記2級の出題範囲では「仕訳なし」です。

3-1-3.不渡りになった場合

取引先より償還請求された場合、当社は償還請求手続きに要した費用を含めて取引先に支払います。当該代金は当社も手形の振出先(又は当社の前の裏書譲渡人)に請求するため「不渡手形」で仕訳します。

<仕訳例>
B社に裏書き譲渡した手形が満期日に支払われず不渡りとなった。当社はB社より償還請求を受け、手形代金及び諸費用の合計103を当座預金から支払った。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
不渡手形103当座預金103

3-2.会計基準に基づく実務上の仕訳処理(上級)

※以降、上級者・実務家対象

追加で学習する点は次の通り 。

3-2-1.保証債務の計上

裏書譲渡した場合、当社には当該手形が不渡りになった場合に代金を支払う「二次的責任」が新たな負債として発生します。

そこで当該債務を「保証債務」として、時価評価して負債計上するとともに「保証債務費用」を計上します(金融商品会計に関する実務指針136項、137項、45項参照)。

3-2-2.仕訳方法(直接控除法、対照勘定法、評価勘定法)

次の通り。

<仕訳例>
1.商品100をB社から仕入れ、代金として得意先であるA社が振出した手形を裏書き譲渡し、保証債務として時価評価額を3と見積った。
2.上記1の手形が無事決済された。

<直接控除法>

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1仕入100受取手形100
保証債務費用3保証債務3
2保証債務3保証債務取崩益3

<対照勘定法>

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1仕入100受取手形100
手形裏書義務見返100手形裏書義務100
保証債務費用3保証債務3
2保証債務3保証債務取崩益3
手形裏書義務100手形裏書義務見返100

<評価勘定法>

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1仕入100裏書手形100
保証債務費用3保証債務3
2裏書手形100受取手形100
保証債務3 保証債務取崩益3

4.その他の留意点

本記事では、B/S・P/L表示、偶発債務の注記事項、及び引当金計上の3点について言及します。

4-1.B/S表示

受取手形は裏書譲渡した時に消滅を認識します(金融商品会計に関する実務指針 34項)。従って、裏書手形は受取手形の貸借対照表価額に含めません。

裏書譲渡に伴い計上した保証債務について、時価評価は裏書譲渡時のみ行い、評価替えは行いません(金融商品会計に関する実務指針 137項、45項参照)。

4-2.P/L表示

「保証債務費用」は、裏書き譲渡した手形に対する貸倒引当金の取崩益と相殺します。

例えば、裏書譲渡日と手形決済日の間(上記の1と2の間)に決算日が存在した場合には、次の決算整理仕訳を記帳します。

項目借方科目借方金額貸方科目貸方金額
裏書手形に対する貸倒引当金の取り崩し貸倒引当金3貸倒引当金戻入3
科目の相殺貸倒引当金戻入3保証債務費用3
※仕訳ではなく会計ソフト外での「表示科目の組替」による相殺でも可

以上の通り、「保証債務の計上」と「貸倒引当金の取崩し」を一連の会計処理と考えて相殺処理します(金融商品会計に関する実務指針 設例16、債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い 4(4)④参照)。

4-3.偶発債務の注記

裏書手形は将来発生する可能性のある損失として「偶発債務」に該当するため、B/Sに保証債務の時価評価額を表示するだけでなく、「裏書譲渡高」として注記します(財務諸表等規則58条、同ガイドライン58の2、会社計算規則103条5号)。

4-4.債務保証損失引当金の計上

当該保証債務について損失の発生する可能性が高くなり、かつ損失額を見積れる場合には引当金の要件を満たすため、「債務保証損失引当金」を計上する必要があります(債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い 4(1)から(3)参照)。

会計基準等

※2024年5月17日現在(公開草案は対象外)。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

金融商品会計に関する実務指針(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号)
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について (財務諸表等規則ガイドライン)
会社計算規則(平成十八年法務省令第十三号)
債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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