日商簿記2級 外貨建て取引と仕訳|為替予約、決済、決算評価
更新日:2021年1月5日
公開日:2018年3月20日
前回は、外貨建て取引について換算や直物・先物為替相場といった用語を解説しました。
今回は、外貨建て取引の仕訳(為替予約、決済、決算評価)について説明します。
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- 外貨建て取引と仕訳|為替予約、決済、決算評価 ←今回の解説
外貨建取引(営業取引)の仕訳
日商簿記2級では外貨建て取引は営業取引が試験範囲です。
外貨建て取引(営業取引)の仕訳には、(1)輸出売上、輸入仕入れ時の仕訳、(2)決算時の仕訳、(3)為替予約時の仕訳、(4)決済時の仕訳があります。
それぞれについて解説します。
(1)輸出売上、輸入仕入れ時の仕訳
輸出売上や輸入仕入といった取引が発生した時には、通常は直物為替相場のレートで円に換算して仕訳します。
例えば海外から商品を100ドルで仕入れ、1か月後に代金を支払い、同時に決済する場合、直物為替相場のレートが100円/ドルであれば、100ドル×100円/ドル=1万円で仕訳します。
仕入勘定や売上勘定はこの時に計上して以降、金額が変わることはありません。売掛金勘定や買掛金勘定は金額が変わります。
(2)決算時の仕訳
決算時に外貨建ての売掛金や買掛金が存在する場合には換算替え(かんざんがえ)を行います。
具体的には、外貨建ての売掛金や買掛金を決算時の為替レートで評価します。「評価」とは、ここでは「決算時の金額で計上すること」と考えて差し支えありません。
例えば、輸出売上取引として米ドル建ての売掛金100ドルを100円/ドル換算で1万円で仕訳したとします。
決算時の為替レートが105円/ドルだとすると、この売掛金を100ドル×105円/ドル=1万500円で計上する、ということです。
これまでの計上額1万円と1万500円との差額500円を「為替差損益(かわせさそんえき)勘定(収益と費用に属する勘定科目)」で記帳します。
(3)為替予約時の仕訳
為替予約(かわせよやく)とは、先物為替相場のレートで取引を決済するために、決済前に予め金融機関と先物為替相場のレートを取り決めして、決済に使用する為替レートについて契約することをいいます。
為替予約は売上や仕入れの取引時の契約、取引後の契約どちらも可能です。
為替予約時の仕訳は、為替予約時の先物為替相場の為替レートで売掛金や買掛金を評価替えします。評価替えの方法や使用する勘定科目は決算時の仕訳と同じです。
輸出売上や輸入仕入れ時に為替予約を行った場合には、(1)で説明した直物為替相場ではなく、先物為替相場の為替レートで仕訳します。
いったん、為替予約を行い仕訳したならば、決算時には換算替えを行いません。
なぜならば、為替予約を一度行えば、決済時にも為替予約の為替レートで仕訳するからです。従って、決算時にも換算替えを行う必要はありません。
これに対して為替予約を行わない場合には、次の(4)の通り決済時の為替レートで代金回収または支払いを行います。従って、決算時には決済に最も近い為替レートである決算時の為替レートで換算替えします。
(4)決済時の仕訳
決済とは、外国通貨を自国通貨と交換することをいいます。
営業取引(輸出売上、輸入仕入れ)では、売掛金の代金回収や買掛金の支払い時に決済を行うのが通常です。
決済をする際に使用する為替レートは、決済時の為替レートです。
例えば、100ドルで仕入れた商品を決算時に換算替えして、1万500円で計上しました。
決済時(代金支払い時)の為替レートが110円の場合には、代金は100ドル×110円/ドル=1万1千円です。代金を当座預金から支払うのであれば、「当座預金 11,000」と貸方に記帳します(買掛金の金額は変わらず、1万500円で借方に減少として記入します)。
そして、1万1千円と1万500円の差額400円は為替差損益勘定で記帳します。
しかし、予め決済前に為替予約を行っていた場合には、代金は決済時のレートではなく為替予約のレートを使用して仕訳します。なぜならば、為替予約とは決済する時の為替レートを予め決めたものだからです。
仕訳のまとめ
以上をまとめると次の通り(輸出売上の例)。
出来事 | 為替レート | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
販売取引の発生 | 直物為替相場 | 売掛金 | ××× | 売上 | ××× |
先物為替相場 | 売掛金 | ××× | 売上 | ××× | |
販売取引後に 為替予約を契約 | 先物為替相場 ( > 直物為替相場) | 売掛金 | ××× | 為替差損益 | ××× |
先物為替相場 ( < 直物為替相場) | 為替差損益 | ××× | 売掛金 | ××× | |
決算 | 直物為替相場 ( < 決算日レート ) | 売掛金 | ××× | 為替差損益 | ××× |
直物為替相場 ( > 決算日レート ) | 為替差損益 | ××× | 売掛金 | ××× | |
先物為替相場 | 仕訳なし | ||||
代金回収 (決済) | 決済時の為替レート ( 売掛金 < 代金回収額 ) | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× |
為替差損益 | ××× | ||||
決済時の為替レート ( 売掛金 > 代金回収額 ) | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× | |
為替差損益 | ××× | ||||
先物為替相場 | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× |
仕訳例
- 【問題】
- 1.A社は海外のB社へ100ドルの商品を販売した。代金は掛けとして6か月後に回収する。この日の為替相場は100円/ドルであった。
- 2.A社は海外のC社より50ドルの商品を仕入れた。代金は掛けとして3か月後に支払う。為替リスクを回避するため、為替予約を銀行と契約した。3か月後の先物為替レートは95円/ドルである。
- 3.A社は上述1.の売上取引のうち50ドルについて為替予約を銀行と契約した。決済時の先物為替レートは105円/ドルである。
- 4.A社は決算日を迎えた。この日の為替レートは98円である。
- 5.A社は上述2.の支払日になったため、C社への支払代金を当座預金より支払った。この日の為替レートは100円/ドルである。
- 6.A社は上述1.の回収日になりB社から売上代金が当座預金に振り込まれた。この日の為替レートは110円/ドルである。
【解答】
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 売掛金 | 10,000 | 売上 | 10,000 |
2 | 仕入 | 4,750 | 買掛金 | 4,750 |
3 | 売掛金 | 250 | 為替差損益 | 250 |
4 | 為替差損益 | 100 | 売掛金 | 100 |
5 | 買掛金 | 4,750 | 当座預金 | 4,750 |
6 | 当座預金 | 10,750 | 売掛金 | 10,150 |
為替差損益 | 600 |
【解説】
売掛金の取引は応用問題にしてみました。
- 1.売上金額:100ドル×100円/ドル(直物為替相場) = 1万円
- 2.仕入金額:50ドル×95円/ドル(先物為替相場) = 4,750円
- 3.為替差損益:( 先物為替相場105円/ドル - 直物為替相場100円/ドル ) × 50ドル = 250円
- 4.決算日の為替レートで換算替えをするのは、売掛金のうち、為替予約を行っていない50ドルだけです。
- 為替差損益:( 直物為替相場100円/ドル - 決算日の為替レート98円/ドル ) × 50ドル = 100円(借方計上)
- 5.仕入時に為替予約を行っているため、支払代金も為替予約の為替レート95円/ドルで計算します。
- 買掛金:上述2より4,750円
- 支払代金:買掛金と同じ。4,750円
- 6.上述3.で半分の50ドルだけ為替予約を行っています。この部分は回収代金も為替予約の為替レート105円/ドルで計算します。
- 残りの50ドルの回収代金は、決済時の為替レート110円/ドルで計算します。
- 売掛金:上述1より10,000円 + 上述3より250円 - 上述4より100円 = 10,150円
- 回収代金:50ドル(為替予約分)× 105円/ドル + 50ドル(直物為替相場分)× 決済日為替レート110円/ドル = 10,750円
- 為替差損益:貸借差額
まとめ
今回は外国建て取引の仕訳を解説しました。様々な仕訳パターンがあるので、暗記に頼らずに理解+反復演習で覚えていきましょう。
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