クリーン・サープラス関係とは|定義・意義や成立の可否を解説

会計書類と電卓

執筆日:2023年8月14日

「クリーン・サープラス関係」は最近の会計用語として登場するようになりました。

「その他の包括利益の存在によって、クリーン・サープラス関係は成立しなくなった」といわれることがありますが、関係成立の可否については、いくつかの考えが存在します。

本記事では、「クリーン・サープラス」とは何かについて、定義や意義、現在の会計制度における成立の可否などを解説します。

クリーン・サープラス関係とは

クリーン・サープラス関係」とは、資本取引を除き、損益計算書上の期間損益と貸借対照表の純資産の増減額が一致する関係をいいます。

※「資本取引」と「損益取引」の比較については、下記の記事で解説しています。

意義

「利益」は、企業の収益力を示し、投資家の意思決定に資する重要な財務情報です。

この利益は「収益費用アプローチ視点による損益法」からも、「資産負債アプローチ視点による財産法」からも、どちらからも導くことが可能であり、かつ両者の利益が一致することは、「利益を通じた損益計算書と貸借対照表との連携」を意味します。

経理実務上においても、精算表の作成に見られるように、両者の利益の一致は、貸借対照表と損益計算書の数値の検証手続きとして重要な役割を担っています。

現在の財務諸表

現在の会計制度では、貸借対照表と損益計算書だけでなく「株主資本等変動計算書(S/S)」「(連結)包括利益計算書(C/I)」が存在し、それぞれがB/S、P/Lと連携しています。

この事実によって、現在の財務諸表において、クリーン・サープラス関係の成立の可否が議論されることがあります。

クリーン・サープラス関係の成立の可否

両方の意見が存在します。

1.成立しないとする考え

現在の財務諸表においては、「その他有価証券評価差額金」に代表される「その他の包括利益」が存在し、P/Lの損益計算を経由せずにB/S上の純資産に表示します。

従って、クリーン・サープラス関係の定義をそのまま当てはめて考えるのであれば、P/Lの期間損益とB/Sの純資産増減額は恒久的には一致しないことから、クリーン・サープラス関係は成立しません。

2.成立しているとする考え

2つの考えがあります。

2-1.「利益 = 包括利益」とする考え

日本の財務諸表においては、包括利益の期間増減は、期間損益について「損益計算書」に表示し、その他の包括利益については「包括利益計算書」に表示します。

そこで、「利益= 包括利益」と捉えると、クリーン・サープラス関係はC/Iも含めて考えるべきとします。

この場合には、「損益計算書と包括利益計算書の連携から導かれる包括利益額」と「貸借対照表の純資産の増減額」が一致することから、クリーン・サープラス関係が成立します。

2-2.期間利益と株主資本の増減額との対応を重視する考え

「純資産の部」には、株主に帰属しない「新株予約権」や「評価・換算差額等」が含まれることから、P/Lの期間損益と対応するのは、株主に帰属する部分(連結B/Sにおいては、親会社株主に帰属する部分)である「株主資本」であると考えます。

従って、クリーン・サープラス関係は、「P/Lの期間損益とB/Sの株主資本が一致する関係」と捉えることから、現在の財務諸表上においても成立している、と考えます。

現在の会計基準上の見解

貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(企業会計基準第5号)」の「結論の背景」によると、上記の「2-2.期間利益と株主資本の増減額との対応を重視する考え」を論拠として、現在の財務諸表上においても「クリーン・サープラス関係」は成立するとの立場から記載されています。

会計基準・参考文献

会計基準

貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(企業会計基準第5号)

参考文献

・広瀬義州 財務会計 第10版 中央経済社 2011年
・スタンダードテキスト財務会計論I(基本論点編)(第9版) 中央経済社 2015年

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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