継続性の原則とは|現行の会計基準に沿って分かりやすく解説
執筆日:2024年2月18日
※本記事は、2024年2月18日現在に適用されている会計基準等に基づいています。
※本記事には、「入門者対象」と「上級者・実務家対象」の両方のコンテンツが含まれています。
「継続性の原則」は従来から存在する重要な一般原則の1つですが、2009年12月に公表された「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準 (企業会計基準第24号。以下、「変更訂正会計基準」)」の適用によって、関連する論点が変更になった部分があります。
そこで本記事では、「継続性の原則」について、従来から変わらない本質の論点(概要、意義、内容)だけでなく、「変更訂正会計基準」適用後の変更点について条文を引用しながら「表示方法」「会計上の見積り」「誤謬」といった周辺知識を併せて解説します。
継続性の原則とは|現行の会計基準に沿って分かりやすく解説
目次
「継続性の原則」とは
「継続性の原則」とは、「企業会計原則の一般原則」のうちの1つであり、「会計方針」の継続適用を定めた原則をいいます。
引用元:企業会計原則
第一 一般原則「五 企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。」
<「会計方針」の定義と例>
- 「会計方針」:財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続
- (例)
- (1)有価証券の評価基準及び評価方法
- (2)棚卸資産の評価基準及び評価方法
- (3)固定資産の減価償却の方法
- (4)繰延資産の処理方法
- (5)外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準
- (6)引当金の計上基準
- (7)収益及び費用の計上基準
- 引用元:変更訂正会計基準
意義
「継続性の原則」は、複数の中から企業が選択適用した会計方針について、原則として毎期の継続適用を要求することで、企業の財務諸表の「期間比較可能性」を担保しています。
また、会計方針の変更を安易に認めてしまうと、経営者にとって決算期毎に都合のよい会計方針を選択するという「恣意性の介入」に繋がり、結果として利益操作の温床となります。従って、「継続性の原則」はこのような経営者による利益操作を排除する効果があります。
引用元:企業会計原則
注解〔注3〕継続性の原則について(一般原則五)
「 企業会計上継続性が問題とされるのは、一つの会計事実について二つ以上の会計処理の原則又は手続の選択適用が認められている場合である。
このような場合に、企業が選択した会計処理の原則及び手続を毎期継続して適用しないときは、同一の会計事実について異なる利益額が算出されることになり、財務諸表の期間比較を困難ならしめ、この結果、企業の財務内容に関する利害関係者の判断を誤らしめることになる。
従って、いったん採用した会計処理の原則又は手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各時期を通じて継続して適用しなければならない。(以下、省略)」
内容
「継続性の原則」を特徴づける内容は次の通りです。
「会計方針の変更」と適用範囲
例えば、次の4つの会計方針(A,B,甲,乙)があるとします。
<会計方針の例>
- AとB:一般に公正妥当と認められる会計方針(以下、「○」)
- 甲と乙:一般に公正妥当とは認められない会計方針(以下、「×」)
この4つの中で会計方針を変更した場合、「AからB」及び「BからA」のように「○から○の変更」のみが「継続性の原則」の適用範囲となり、その他の変更は適用範囲外となります。
具体的には、「Aから甲」及び「甲から乙」のように「○から×への変更」及び「×から×への変更」の場合には、「会計基準の準拠性違反」になるため、「継続性の原則」を適用するまでもなく当然に認められません。
また、「甲からA」のように「×から○」の場合には、「過去の会計基準の準拠性違反」であることから、現行の会計基準である「変更訂正会計基準」では、「過去の誤謬」として「修正再表示」という取り扱いになります。
正当な理由と注記
「継続性の原則」では、「正当な理由」が存在する場合には「会計方針の変更」を認めています。従って、上記の「AからB」及び「BからA」のように「○から○の変更」の場合で、かつ「正当な理由に基づいて変更する場合」には、「会計方針」の変更が認められます。
ただし、会計方針を変更した場合には、財務諸表に注記しなければなりません。
引用元:企業会計原則
注解〔注3〕継続性の原則について(一般原則五)
「(省略)なお、正当な理由によって、会計処理の原則又は手続に重要な変更を加えたときは、これを当該財務諸表に注記しなければならない。」
※「正当な理由」や「注記」の詳細については、下記の記事で解説しています。
「真実性の原則」との関係
「真実性の原則」が要求する「真実な報告」とは「相対的な真実性」であり、時や場所、状況に応じて真実は変化することを認めています。
従って、「継続性の原則」が定める「正当な理由」が存在する場合に認める「会計方針の変更」は、「相対的な真実性」に矛盾することなく、むしろ「真実性の原則」を裏付けていると考えることができます。
(上級)現在の会計基準(従来からの変更点)
※↓以下、上級者・実務家対象
「継続性の原則」の具体的な企業会計上の取り扱いについて、従来の「企業会計原則」と、「変更訂正会計基準」適用後の現在との違い(変更点)を比較すると次の通り。
「会計方針」の定義
下記の通り、「企業会計原則」では「会計方針」に「表示方法」が含まれていましたが、「変更訂正会計基準」では、冒頭に掲載した通り「会計方針」に表示方法は含めていません。
引用元:企業会計原則
注解〔注1-2〕重要な会計方針の開示について(一般原則四及び五)
「(省略)会計方針とは、企業が損益計算書及び貸借対照表の作成に当たって、その財政状態及び経営成績を正しく示すために採用した会計処理の原則及び手続並びに表示の方法をいう。」
この変更は国際会計基準とのコンバージェンスを図る観点から行われました(変更訂正会計基準 36項、37項参照)。
(参考)「表示方法」は「継続性の原則」に含まれるかどうか
「企業会計原則」の制定後、この点については両方の説が存在していました。すなわち、冒頭に掲げた「継続性の原則」の引用文では「その処理の原則及び手続を」としており、「表示方法」を含んでいないため文言通り「表示方法を含めない」とする説と、「企業会計原則」上の「会計方針」の定義には「表示方法」が含まれており、また、「財務諸表等規則」では、正当な理由がある場合を除き、表示方法の変更を継続適用するといった旨の定めがあることから、「表示方法も含める」とする説がありました。
この点については、「変更訂正会計基準」でも明記を避けていることから、どちらの説も支持していないスタンスを取っているように見受けられます。
その上で、「表示方法の変更」について、「正当な理由」と同様の理由に該当する場合には注記するよう定めています(ただし、「正当な理由」という文言は使用していません。この点についても、どちらにも依っていないというスタンスを貫いているように私には読み取れます)。
「会計方針」の変更と「遡及適用」
「企業会計原則」では、「会計方針」を変更した場合であっても、過年度の比較財務諸表の情報は「変更前の会計方針のまま」でしたが、国際会計基準では「遡及適用」を採用いること、及び期間比較性を確保することで情報の有用性が高まることから、「変更訂正会計基準」上では原則として「遡及適用」を採用しています。
(補足)「会計上の見積り」の変更と「過去の誤謬」の「修正再表示」
「会計上の見積りの変更」については「企業会計原則」では定めがないため、従来は「追加情報」として注記することになっていましたが、「変更訂正会計基準」では注記の内容を具体的に定めています。
また「企業会計原則」では、「前期損益修正」として、特別損益の区分に表示するよう定めがあり、さらに「金融商品取引法」上の事由に該当する場合に「訂正報告書」として財務諸表を訂正していました。
この点、「変更訂正会計基準」では「金融商品取引法」上の訂正事由に該当するかどうかに関係なく、「修正再表示」として「誤謬」の訂正内容を財務諸表に反映するよう定めています。
まとめ
以上、現行の会計基準を踏まえて、「継続性の原則」について解説しました。概要や意義など、大きな論点は従来通りですが、周辺知識が変更しているため、知識を再整理しておく必要があります。
会計基準等・参考文献
※2024年2月18日現在。リンク先の会計基準等・参考文献は最新版でない場合があります。
会計基準等
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
・会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
参考文献
・飯野利夫 財務会計論[3訂版] 同文館 1993年
・武田隆二 最新財務諸表論〈第5版〉中央経済社 1995年
・スタンダードテキスト財務会計論I(基本論点編)(第9版) 中央経済社 2015年
・宇南山英夫 企業会計原則精解 中央経済社 1969年
・桜井久勝 財務会計講義(第12版) 中央経済社 2011年
簿記1級の穴埋め問題や公認会計士試験(短答式)を中心に出題されます。経理実務では開示担当者として活躍したい人が押さえておくべき論点です。