納品基準・引渡基準・着荷基準とは|違いや実務上の留意点を解説

山積みの会計帳簿

執筆日:2024年2月26日

※本記事は、2024年2月26日現在に公表・適用されている会計基準等を参考にしています。

※本記事には、「入門者対象」と「上級者・実務家対象」の両方のコンテンツが含まれています。

※本記事の一部で、筆者(須藤恵亮)の印象や考察を述べています。

「納品基準」「引渡基準」「着荷基準」は、売上計上基準です。似たような意味合いがありますが、使い方には配慮した方がいいと私は考えています。さらに「出荷基準」よりも厳しい基準のため、実務上留意すべき点も多くなります。

本記事では「納品基準」「引渡基準」「着荷基準」について、用語の違いや実務上の留意点、開示事例などを解説します。

「納品基準」「引渡基準」「着荷基準」とは

「いつ売上を計上するか」という「収益認識基準」に関する会計用語です。

名称売上計上のタイミング
納品基準商品・製品の納品時
引渡基準商品・製品の引き渡し時
着荷基準商品・製品の到着時

どの用語も企業活動の「販売」に含まれますが、「販売」を複数の活動に分けると、下図の通り、一般的には「出荷」「運搬」の後のプロセス、「検収」の前のプロセスに該当します(内容は業種や個別の会社の手続きによって異なります)。

販売プロセス

証憑資料

「納品」「引き渡し」「着荷」の事実は、「納品書控え」「送り状(出荷伝票)控え(追跡No記載)、及び、運送会社の追跡情報」などの証憑資料から判明します(会社によって書類の名称は異なります)。

これらの書類と、「注文書」「出荷指示書」「請求書控え」「売上明細」などの資料とを併せて、売上を計上します。

用語の違い

※↓以降、上級者・実務家対象

私が言及する用語間の違いは次の通りです。

「収益認識会計基準」との関係

「収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号。以下、「適用指針」)」の条文や「設例」では、どの用語も登場しますが、「引き渡し・引渡」の文言が最もよく登場し、使用上「支配の移転」タイミングとして用いられています。

これに対して、「着荷」は「出荷基準等の取り扱い(適用指針 第98項)」の条文に「例えば、出荷時や着荷時」と記載されており「代替的な取り扱い」として登場するのみです。

開示事例より

「EDINET」にて有価証券報告書のうち、「出荷基準」に基づき収益認識している会社では、原則的な収益認識(支配が移転するタイミング)として「引き渡し・引渡」の文言を使用している会社が目立ちました。

私の印象

「引渡基準」及び「納品基準」には、「(顧客に)引き渡し」「(顧客に)品物を納める」「納品書」といったように「顧客が関わった」という意味合いや証憑資料との関係性が含まれています。これに対して「着荷」という文言には、「倉庫などにモノが到着した」の意味合いがあり、顧客が関わった意味合いは感じられません。

例えば、収益認識の基準として「引渡基準」「納品基準」の方が相応しいにも関わらず、IPO準備中の会社が「準備中の開示書類」や「監査法人・証券会社とのミーディング」で「着荷」の文言を使用している場合には、私は「収益認識会計基準を読んでいない」「管理センスがない」と感じます。

(考察)実務上の留意点

私が考える内部統制上の留意点は次の通りです。

支配の移転

一時点で充足される履行義務の場合、原則として「商品・製品に対する支配の移転」時点で収益認識します。

各用語の形式的な違いについて上述しましたが、実質的な収益認識時点の把握がより重要であることは言うまでもありません。

残高確認

もしも、売掛金の残高確認で発生した「確認差異」の原因が、顧客の仕入計上(買掛金認識)の月ズレの場合には、会社が採用した「引渡基準」「納品基準」「着荷基準」は「支配の移転」タイミングではない可能性があります。

事実確認の結果、仮に顧客の仕入計上タイミングが正しい場合、金額の大きさによっては、収益認識会計基準上、「代替的な取り扱い」として開示しなければならない可能性があります。

業務フロー

残高確認の結果、上記原因による確認差異が発生した場合には、該当する取引について、まずは、「業務フロー」を整理し、今後の内部統制活動を検討すべきと考えます。

(参考)開示事例

「EDINET」にて、下記表に掲載した文字列で過去1年間の有価証券報告書を全文検索した結果を示します。

用語文字列件数合計
納品基準納品基準0195
納品時124
納品した時71
引渡基準引渡基準291,111
引き渡し時238
引き渡した時844
着荷基準着荷基準246
着荷時32
着荷した時12

中には「出荷」などの「代替的な取り扱い」の説明(特に引渡基準)や、収益認識会計基準以外の注意事項で上記の文言が使用される場合もありますので、あくまでも参考程度に。

会計基準等

※2024年2月26日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)
収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号)

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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