取替法・取替資産とは|仕訳や開示事例含め具体的に解説
執筆日:2023年11月2日
※本記事は、2023年11月2日現在に公表・適用されている会計基準等を参考にしています。
※対象:上級者・実務家
※本記事の一部では著者の見解を述べています。
「取替法」は、レールや信号機などの構築物(取替資産)に適用できる費用計上方法の1つであり、公会計や鉄道事業会社で採用されています。
本記事では、「取替法」「取替資産」について、概要から会計処理・仕訳、開示事例を中心に具体的に解説します。
取替法・取替資産とは|仕訳や開示事例含め具体的に解説
目次
「取替法」「取替資産」とは
「取替法」とは、固定資産のうち「取替資産」に適用できる費用配分方法の1つであり、取替資産の部分的な取替時の支出額を費用計上する方法をいいます。
「取替資産」とは、固定資産の種類の1つである「構築物」のうち、レールや信号機のように、多数の同種の部品の集合により全体を構成するような固定資産をいいます。
引用元:企業会計原則
〔注20〕減価償却の方法について(貸借対照表原則五の二項)
「(省略)なお、同種の物品が多数集まって一つの全体を構成し、老朽品の部分的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産については、部分的取替に要する費用を収益的支出として処理する方法(取替法)を採用することができる。」
引用元:連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について
七 取替法
「同種の物品が多数集まって、一つの全体を構成し、老朽品の部分的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産に対しては、取替法を適用することができる。」
「取替法は、減価償却法とは全く異なり、減価償却の代りに部分的取替に要する取替費用を収益的支出として処理する方法である。取替法の適用が認められる資産は取替資産と呼ばれ、軌条、信号機、送電線、需要者用ガス計量器、工具器具等がその例である。」
※「軌条」:鉄道のレールのこと
特徴
上記「企業会計原則」「連続意見書」の引用の通り、部品の取り替え毎に取替費用を収益的支出として処理することから、一定の仮定に基づく減価償却方法によって、取得原価を耐用年数期間における各事業年度に費用配分する方法である「減価償却」とは異なります。
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また、取替法は最新の単価で費用処理し、資産価額は取得当初の単価のまま据え置くことから、「後入先出法」との類似性が認められます。
(考察)減価償却との比較
取替法によれば、減価償却のような仮定の計算方法によらずに、「取替え」という取引事実に基づいて費用計上できます。
しかし、必ずしも毎期取替えが発生しない場合においては、取替費が発生する期とそうでない期が存在することになり、また、取替えの時期は会社が任意に決めることができるため、各期に計上した取替費が取替資産の価値の費消を必ずしも適切に表わすわけではありません。
もう1つの取替法の欠点として、取替資産の価値の増加が認められるような「資本的支出」であったとしても収益的支出として費用計上することが挙げられます。
従って、減価償却と比較すると、「適切な期間損益計算」とはならない可能性があると考えられます。
(考察)取替法適用上の内部統制手続き
以上の通り、減価償却と比較すると、取替法は「適切な期間損益計算」とはならず、恣意性が介入する可能性が相対的に高くなるといえます。
従って、会社が取替法を採用する場合には、取替える際の老朽度合いに関する尺度となる基準を設定し、当該基準に基づいて老朽の測定と取替えの判定を行うことが、鉄道の安全や品質管理だけでなく、取替費の「期間帰属の適切性」を担保する会計上の内部統制手続きとしても有効と考えられます。
(考察)取替法の妥当性
「後入先出法」は、2008年9月に改正された「棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準第9号)」より、棚卸資産の評価方法から除外され、併せて法人税法でも2009年度の改正で廃止されました。
後入先出法によれば、最新の単価で費用計上するため、最新の収益との対応という点で意義が認められますが、一方で貸借対照表に表示される棚卸資産価額は、過去の古い単価に基づくことから、決算時の市場単価と乖離します。資産負債アプローチが主流である現在において、国際的なコンバージェンスを図るためにも後入先出法の採用は妥当とはいえません。
にも関わらず、本記事の執筆日現在においても、後入先出法と類似する「取替法」が廃止されずに会計基準及び税務上でも認められ、上場企業で採用されているのは、後述の「開示事例」の通り、取替法の採用企業が鉄道企業などごく一部(38件)に限定され、日本国内の上場企業数に対する割合からすれば、国際企業を含めた内外企業の比較可能性を害する程の影響はないため、国際会計基準とのコンバージェンスの観点からは廃止する必要はない、との見方が理由の1つにあると考えられます。
※後入先出法と類似する「取替法」に対して、取替法と同様に取替資産に適用する費用配分方法として「廃棄法(除外法)」があり、先入先出法との類似性を有します。しかし、制度会計上、認められていません(私の調べた範囲では理由は分からず)。
会計処理と仕訳
取替資産の取得時に取替資産(構築物)として他の有形固定資産と同じ方法で資産計上します。
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その後、老朽化等に伴い取り替えた部品について、当該支出額を「取替費」として費用計上します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
取得 | 取替資産 | xxx | 現金預金など | xxx |
部品の取り替え | 取替費 | xxx | 現金預金など | xxx |
※勘定科目は一例
(参考)取替法の税務処理
取替法の法人税法上の取り扱いについては、「法人税法施行令 第49条(取替資産に係る償却の方法の特例)」に定めがあり、簡単に述べると、「取得原価の50%の達するまで、定額法、定率法等の減価償却方法による計算額」及び「取替時の支出額(損金処理)」の合計額を償却限度額として償却します。
従って、他の有形固定資産と同様に「税効果会計」を適用します。
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開示事例
「EDINET」にて文字列「取替法」を対象とした全文検索で、過去一年間の有価証券報告書を検索した結果、表示された「38件」の上場企業のうち、1社は、その他製品業を営む会社でしたが、残りは全て鉄道事業会社でした。
5社程、閲覧したところ、上記のその他製造業を営む1社は、機械装置の一部に取替法を採用しており、一方で鉄道事業会社では、「鉄道事業取替資産については取替法によっている」「構築物のうち、鉄道事業固定資産の線路設備及び電路設備における取替資産については取替法を採用している」といった旨の会計方針の記載が確認できました。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2023年11月2日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
・連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について(大蔵省企業会計審議会)
・棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準第9号)
・法人税法施行令(昭和四十年政令第九十七号)
参考文献
・新井清光 新版 財務会計論(第4版) 中央経済社 1998年
・武田隆二 最新 財務諸表論(第5版) 中央経済社 1995年
・宇南山英夫 企業会計原則精解(第18版) 中央経済社 1973年