実際原価計算とは|概要と手続き、他の制度との違いを解説

記事最終更新日:2023年7月7日
記事公開日:2016年11月4日

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実際原価計算とは何かについて、概要や他の原価計算との違い、手続きの流れを解説します。

実際原価計算とは

実際原価計算とは、製品を実際原価で計算する原価計算制度をいいます。

実際原価とは

実際原価とは、実際消費量をもって計算した原価をいいます。

間違って覚えやすい点ですが、以上の定義は、実際原価は実際価格ではなく「予定価格」で計算しても構わないことを意味します。

標準原価計算との違い

標準原価計算とは、製品を標準原価で計算する原価計算制度をいいます。

標準原価とは「標準原価 = 原価標準(標準価格 × 標準消費量)×生産量」で計算した原価であり、原価管理の目標となるように科学的、統計的調査に基づき設定した、「能率の尺度」です。

標準原価計算の主な目的は「原価管理」であり、この点、実際消費量により計算する実際原価と異なります。

価格や消費量は異なる数値で計算するため、両者は異なる計算結果になります。また原価差異の項目数や種類も異なります。

一方で、どちらの原価計算制度も、「一般に公正妥当と認められる会計基準」として認められており、財務諸表や商法計算書類といった外部公表用の決算書を作成する目的で採用される原価計算制度である点は同じです。

直接原価計算との違い

直接原価計算とは、原価を変動費と固定費とに分類して計算する原価計算制度をいいます。

直接原価計算は、主に「利益計画の策定」を目的として採用します。

また、直接原価計算によって計算・作成された損益計算書は、「一般に公正妥当と認められる会計基準」と認められません。

この点、標準原価計算や実際原価計算とは異なります。

メリット

原価計算の目的のうち、「損益計算書作成に対して真実の原価を集計する」「正確な価格計算に基づく原価」といった点で実際原価計算は最も役立ちます。

標準原価計算に比べて、手続きが煩雑ではなく、導入しやすい原価計算制度といえます。

原価差異を把握して原価管理したい場合にも、予定価格を用いれば予算差異や操業度差異といった差異分析を行えるので、原価管理にも有効です。

デメリット

原価管理の目的に重点を置く場合には、能率に関する差異分析を行える標準原価計算の方が、より原価管理に資する原価計算制度であるといえます。

手続きの流れ

実際原価計算の手続き流れは次の通りです。

1.費目別計算

<1-1>費目の分類
取引や原価活動を確認して、発生した原価を材料費、労務費、経費に分類します。

<1-2>直接費と間接費の分類
材料費、労務費、経費をそれぞれ、直接費と間接費に分類します。

<1-3>製造間接費への集計

間接材料費、間接労務費、間接経費は全て「製造間接費」に集計します。

以上の手続きによって、最終的には原価を直接材料費、直接労務費、直接経費、製造間接費に集計します。

2.部門別計算

分類した費目のうち、製造間接費についてはさらに「部門別計算」を行う場合があります。

<2-1>部門の設定と各部門への製造間接費の集計
製造部門と補助部門を設定して、各部門毎に部門個別費と部門共通費を集計します。

<2-2>製造部門への製造間接費の集計
各部門の配賦基準に基づき、直接配賦法や相互配賦法といった手法を用いて、最終的には全ての原価を各製造部門に集計させます。

製品部門に集計させた原価は、その製品部門の配賦基準に基づき製品の製造間接費として製造に投入されます。

3.実際原価、予定原価の計算と差異分析

<3-1>実際原価の計算
実際原価を用いて原価を計算します(実際原価 = 実際価格 × 実際数量)。

<3-2>予定原価の計算と差異分析
実際価格の代わりに予定価格を使用して原価を計算できます(実際原価 = 予定価格 × 実際数量)。

予定価格を用いた場合であっても実際原価は集計し、予定価格で計算した予定原価との差異を分析します。

特に、製造間接費の予定価格を「予定配賦率」といい、予定配賦率を用いて計算した製造間接費の予定原価を「予定配賦額」といいます。

製造間接費の予定配賦額は、同じく製造間接費の実際原価と比較して差異分析を行い、「予算差異」「操業度差異」という2種類の差異を計算します。

※予定価格で原価を計算しても、製造原価報告書や損益計算書に表示させる最終的な原価の金額は実際価格による実際原価です。

4.製品別計算

、すでに投入済みの前月仕掛品も含めて、集計した原価を「完成品」と「期末仕掛品」に配分する手続きを行います。

<4-1>各科目から仕掛品勘定への振り替え
直接材料費と直接労務費は費目別計算が終了した段階で、製造間接費は部門別計算が終了した段階で、それぞれ、消費した材料費、消費した労務費、発生した製造間接費が計算されているので、それらを各費目の勘定科目から仕掛品勘定に振り替えます(製造への投入)。

<4-2>個別原価計算と総合原価計算の選択
投入された仕掛品は、製品の生産形態が受注生産(オーダーメード)であれば「個別原価計算」、見込生産であれば「総合原価計算」を採用して完成品原価を求めます。

総合原価計算では、生産形態の違いにより、さらに単純総合原価計算、等級別総合原価計算、組別総合原価計算、工程別総合原価計算に区分して製品別計算を行います。

<4-3>完成品原価と月末仕掛品原価の計算
選択した原価計算方法に基づいて、完成品原価と月末仕掛品原価を計算します。

5.売上原価の計上

<5-1>製品の受け払いと仕訳処理
完成した製品は仕掛品勘定から製品勘定へ振り替え処理を行います。

<5-2>製品の販売と仕訳処理
製品が販売された場合には、売上を計上する仕訳処理を行うのとともに、製品勘定から売上原価勘定への振り替え処理を行います。

6.損益計算書と製造原価報告書の作成

上記1.から5.の手続きは月ごとに行います。

そして1年間手続きを行った後、決算手続きとして損益計算書(P/L)製造原価報告書(C/R)を作成します。

※貸借対照表も作成しますが、原価計算や工業簿記では解説しません。

実際原価計算では、予定価格を用いた場合に原価差異が発生します。

損益計算書や製造原価報告書のどこに原価差異を表示させるのかがポイントです。

関連記事(原価計算の概要)

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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