労務費(賃金)の仕訳・勘定科目・計算方法を例題で詳しく解説
記事最終更新日:2025年1月6日
記事公開日:2020年5月19日
本記事では、労務費の仕訳を中心に勘定科目や計算方法について取引例を示して解説します。
※本記事は原価計算基準に基づき文章中心で解説しています。
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目次
労務費とは
製品の製造に関わる労働者(工員)に対する支払いを賃金といいます。
そして、当月の製造に消費した労働を賃金をベースに計算・集計した金額を労務費といいます。
労務費の内訳
工業簿記では、労務費を次の4種類に分類して計算します。
労務費の内訳
- ①直接工賃金
- ②間接工賃金
- ③給料・雑給
- ④従業員賞与・退職給付・法定福利費
労務費の計算方法
上記の内訳毎に直接労務費と間接労務費を計算します。
①直接工賃金の労務費の計算方法
直接工賃金については、賃率(1時間当たりの賃金。つまり時給)に月間の作業時間を乗じて労務費を計算します。直接工賃金のうち直接作業時間は直接労務費、それ以外の時間(間接作業時間と手待ち時間)は間接労務費のため、それぞれ計算して仕訳します。
直接工賃金の労務費
- 直接労務費=賃率✕直接作業時間
- 間接労務費=賃率✕(間接作業時間+手待ち時間)
- ※手待ち時間:前の工程作業の待ち時間や機械故障による待機時間など
<例題>
当月の直接工の賃率@1,500円、直接作業時間1,000h、間接作業時間200h、手待ち時間20hであった。当該数値に基づいて直接労務費と間接労務費を計算しなさい。
<解答>
直接労務費=@1,500円✕1,000h=150万円
間接労務費=@1,500円✕(200h+20h)=33万円
引用元:原価計算基準
「(一) 直接賃金等であって、作業時間又は作業量の測定を行なう労務費は、実際の作業時間又は作業量に賃率を乗じて計算する。賃率は、実際の個別賃率又は、職場もしくは作業区分ごとの平均賃率による。平均賃率は、必要ある場合には、予定平均賃率をもって計算することができる。」
予定賃率を採用した場合には賃率差異が発生します。
②間接工賃金の労務費の計算方法
間接工賃金については、要支払額で労務費を計算します。要支払額とは当月に発生した労務費であり、具体的には当月に支払った賃金に前月と当月の未払賃金を加減して求めます。
そして計算した労務費は全て間接労務費になります(間接工は製品の製造に直接は関わらないため)。
間接工賃金の労務費
- 間接労務費=要支払額=当月支払賃金+当月未払賃金−前月未払賃金
<例題>
間接工の賃金について、当社は20日締め月末払いとしている。下記の取引データに基づいて5月の労務費を計算しなさい。
・4/30:未払賃金(4/21-4/30)15万円を計上
・5/31:賃金(4/21-5/20分)50万円を支払い
・5/31:未払賃金(5/21-5/31)20万円を計上
<解答>
間接労務費=50万円+20万円−15万円=55万円
(補足)要支払額とは?
- ・今回の例では、「5月に発生した労務費」をいいます。
- ・つまり、「5/1-5/31の賃金」です。この金額を支払額と前月・当月の未払額から計算します。
引用元:原価計算基準
「(二) 間接労務費であって、間接工賃金、給料、賞与手当等は、原則として当該原価計算期間の負担に属する要支払額をもって計算する。」
取引例と仕訳
労務費は「賃金」や「賃金・給料」といった勘定科目で仕訳します。
1.賃金の支払い
賃金の支払日に総額を「賃金・給料」で借方計上し、当座預金などを貸方に記入します。
<取引例>
5/31 当月支払い分(4/21-5/20分)の賃金3百万円を当座預金から従業員の銀行口座に振り込んだ。
<仕訳>
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
5/31 | 賃金・給料 | 3,000,000 | 当座預金 | 3,000,000 |
未払賃金の計上
月末に当月未払分の賃金について賃金・給料勘定で借方記入するとともに、未払費用を貸方に計上します。
翌月1日には、上記仕訳の再振替仕訳を記帳します。つまり当月の1日には前月末に計上した未払賃金について再振替仕訳を行います。
当該処理と支払日の賃金計上によって、「賃金・給料」勘定で当月の労務費(上記で説明した要支払額)が集計されます。
<取引例>
5/1 前月に未払計上した80万円(4/21-4/30分)について再振替仕訳を記帳する。
5/31 今月の未払賃金(5/21-5/31分)として105万円を計上する。
<仕訳>
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
5/1 | 未払費用 | 850,000 | 賃金・給料 | 850,000 |
5/31 | 賃金・給料 | 1,050,000 | 未払費用 | 1,050,000 |
3.直接工・間接工に関する労務費の計算と計上
賃金の支払いと未払賃金から当月の労務費(要支払額)を計算します。
労務費の計算
- 上記1.と2.の取引と合わせると、「賃金・給料」勘定の残高は320万円となり、これが当月の労務費(直接工と間接工の合計)になります。
- 労務費=当月支払300万円+当月未払105万円−前月未払85万円=320万円
- ・労務費としてはその他、後述する「給料・雑給」と「賞与・退職給付・法定福利費」を別途記帳します。
次に、労務費(賃金・給料勘定の残高)を直接工・間接工それぞれで直接労務費と間接労務費に分けて集計し、前者は「仕掛品」、後者は「製造間接費」に振り替えます。
(前述の確認)直接労務費の範囲
- ・上記「①直接工賃金の労務費の計算方法」で説明した通り、直接工の直接作業時間に対応する労務費だけが直接労務費となります。
- ・それ以外は全て間接労務費です。
<取引例>
5/31 賃金・給料勘定の残高320万円を次の通り、直接工と間接工に分けて検討し、労務費として計上する。
①直接工の予定賃率1,500円、直接作業時間1,000h、間接作業時間200h、手待ち時間50h
②間接工の要支払額は1,300,000円である。
<計算-直接工>
直接労務費=@1,500円✕1,000h=150万円
間接労務費=@1,500円✕(200h+50h)=37万5千円
<仕訳-直接工>
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
5/31① | 仕掛品 | 1,500,000 | 賃金・給料 | 1,875,000 |
5/31 | 製造間接費 | 375,000 |
<仕訳-間接工>
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
5/31 | 製造間接費 | 1,300,000 | 賃金・給料 | 1,300,000 |
賃金・給料勘定の残高は?
- ・上記仕訳の結果、賃金・給料勘定の残高は2万5千円になります。
- ・本問では実際原価計算を仮定しているため、当該差額は「賃率差異」です。
4.給料・雑給
工場の事務員(経理総務など)やパート・アルバイトの給料(雑給)は間接工と同様に要支払額で労務費を計算し、全額を間接労務費として製造間接費勘定に振り替えます。
<取引例>
5/31 事務員やパート・アルバイトの給料・雑給に関する当月の要支払額は300,000円となった。
※支払の取引は省略
<仕訳>
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
5/31 | 製造間接費 | 300,000 | 賃金・給料 | 300,000 |
5.賞与・退職給付・法定福利費
全ての従業員の賞与・退職給付・法定福利費(従業員の社会保険料のうち会社が負担する額)は間接労務費として処理します。
<取引例>
①賞与50万円を引当計上する。
②退職給付引当金として20万円を繰り入れ計上する。
③給与計算の結果、当月の法定福利費は25万円となった。
<仕訳>
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
① | 製造間接費 | 500,000 | 賞与引当金 | 500,000 |
② | 製造間接費 | 200,000 | 退職給付引当金 | 200,000 |
③ | 製造間接費 | 250,000 | 未払費用 | 250,000 |
6.賃率差異
上記「3.直接工・間接工に関する労務費の計算と計上」でコメントした通り、実際原価計算を採用した場合で労務費を計上した後の賃金・給与勘定の残高(本問では2万5千円の借方残)は「賃率差異(不利差異)」です。
賃率差異とは
- ・予定賃率と実際賃率との差額
- ・賃金・給料勘定の残高が借方残の場合→
- 借方残の場合→不利差異として原価差異の計上
- 借方残の場合→有理差異として原価差異のマイナス計上
<取引例>
5/31 賃金・給料勘定の借方残高2万5千円を賃率差異として適切に処理する。
<仕訳>
日付 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
5/31 | 原価差異 | 25,000 | 賃金・給料 | 25,000 |
賃率差異の処理を行った結果、賃金・給料勘定の残高はゼロになります。
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