工業簿記2級 価格・数量差異、賃率・作業時間差異の計算方法(入門)
記事最終更新日:2020年8月28日
記事公開日:2016年12月4日
今回は原価差異のうち、材料費の価格差異、数量差異、そして労務費の賃率差異、作業時間差異に関する解説です。
工業簿記2級 価格・数量差異、賃率・作業時間差異の計算方法(入門)
目次
種類別の勘定連絡図(個別、総合、標準)
クリックすると、実際個別原価計算、実際総合原価計算、標準原価計算それぞれの勘定連絡図(簿記2級で出題される典型的なケース)が別窓で開きます。
今回の学習はココ
原価差異(材料費の価格差異と数量差異、労務費の賃率差異と作業時間差異)について学習します。工業簿記(原価計算)の種類でいうと標準原価計算の手続きに該当します。
<今回の学習ポイント>
- ・問題(ズボンメーカーを例に)
- ・直接材料費差異と直接労務費差異
- ・直接材料費差異(価格差異と数量差異)
- ・直接労務費差異(賃率差異と作業時間差異)
標準原価計算とは、製品を標準原価で計算する原価計算制度をいい、原価管理の目的で採用します。
実際原価計算では把握できない数量差異や能率差異を把握することで、原価活動の能率改善に役立ちます。
標準原価計算(材料費と労務費の原価差異)の計算方法(ズボンメーカーの問題を例に)
設例を用いて、標準原価計算の各論を解説していきます(前回解説した問1の解答を問題に反映させています)。
標準原価計算ではシングルプランとパーシャルプランといった2種類の記帳方法があるので、仕訳は別の回で問題を掲載して解説しています(下記の記事を参照)。
<問題例-標準原価計算(標準原価の計算)>
- 当社はズボンを生産しており、原価計算方法は標準原価計算を採用している。
- 今月の原価計算の状況と必要なデータは次の通り。
- ・直接材料費は各工程の最初に全て投入。
- ・加工費(直接労務費+製造間接費)は各工程の製造の進捗度合いに応じて投入
- ・直接作業時間を操業度として設定している。
- (問1)当月投入原価を標準原価で計算(シングルプラン)した場合の当月投入を求めましょう。また完成品の標準原価を求めましょう。 ←前回の解説
- (問2)当月投入原価を実際原価で計算(パーシャルプラン)した場合、次の通り原価差異の差額分析を行いましょう。
- (1)直接材料費:価格差異と数量差異 ←今回の解説
- (2)直接労務費:賃率差異と作業時間差異 ←今回の解説
- (3)製造間接費:予算差異、操業度差異、および能率差異 ←次回の解説
1.生産データ
仕掛品 | |
---|---|
月初仕掛品 200本(100本) | 完成品 1,500本(1,500本) |
当月投入 1,800本(1,600本) | |
月末仕掛品 500本(200本) | |
2.原価標準
項目 | 原価標準 |
---|---|
直接材料費 | 標準価格@120 × 標準消費数量@1枚 = 120円 |
直接労務費 | 標準賃率@2,000× 標準直接作業時間@0.25時間 = 500円 |
製造間接費 | 標準配賦率@1,440円 × 標準直接作業時間@0.25時間 = 360円 |
合計(完成品) | @980円 |
※月間の基準操業度は450時間。基準操業度の変動費率は@480円 固定費予算額は432,000円である。
3.実際原価データ
項目 | 原価標準 |
---|---|
直接材料費 | 225,700円(122円×1,850枚) |
直接労務費 | 798,000円(1,900円×420時間) |
製造間接費 | 630,000円(実際直接作業時間は420時間であった) |
解答
<解答(問2)-原価差異(直接材料費差異と直接労務費差異)>
- (1)直接材料費差異
- ・価格差異 = △3,700円(不利差異、借方差異)
- ・数量差異 = △6,000円(不利差異、借方差異)
- (2)直接労務費差異
- ・賃率差異 = 42,000円(有利差異、貸方差異)
- ・作業時間差異 = △40,000円(不利差異、借方差異)
解説1-標準原価計算の原価差異と差異分析(実際原価計算との比較)
実際原価計算の差異分析は、予算差異と操業度差異を計算して差異分析を行いました。
具体的には製造間接費の差異分析では予定配賦率と基準操業度から予定原価を計算し、さらに予算許容額を求め、実際原価との差額から予算差異や操業度差異を計算しました。
標準原価計算では、「標準原価」と「標準操業度」も加わって原価差異分析を行います。
標準原価計算と実際原価計算の差異分析を比較すると次の通り。
項目 | 実際原価計算による差異分析 | 標準原価計算による差異分析 |
---|---|---|
直接材料費 | 価格差異 | 価格差異、数量差異 |
直接労務費 | 賃率差異 | 賃率差異、作業時間差異 |
製造間接費 | 予算差異、操業度差異 | 予算差異、操業度差異、能率差異 |
製造間接費の差異分析は下記の記事を参照(問題例+詳細解説)。
解説2-直接材料費差異(価格差異、数量差異)
直接材料費差異は次の通り計算。直接材料費差異は、価格差異と数量差異に分けることができます。
<ポイント>直接材料費差異(価格差異と数量差異)の計算式
- 直接材料費差異 = 標準直接材料費 - 実際直接材料費
= 価格差異 + 数量差異 - 価格差異 =(標準価格 - 実際価格)× 実際消費量
- 数量差異 = 標準価格 ×(標準消費量 - 実際消費量)
- ※(標準 - 実際)必ず標準から実際を引き算します。
結果がマイナス(△)になった場合には不利差異(借方差異)、プラス(+)になった場合は有利差異(貸方差異)といいます。
※結果がプラス→「標準 > 実際」→原価(コスト)は標準(目標)よりも抑えることができた→有利差異
とイメージします。
計算式よりも次の図を描くと簡単に問題が解けます。
※点線で囲んだ部分は価格差異に含まれます。計算式よりも図の方が覚えやすいです。
<解説>直接材料費差異の計算
- 価格差異 =(標準価格120円 - 実際価格122円)× 実際数量1,850枚 = △3,700円(不利差異・借方差異)←(問2)(1)の解答
- 数量差異 = 標準価格120円 ×(標準消費数量1,800枚(※)-実際数量1,850枚)= △6,000円(不利差異・借方差異)←(問2)(1)の解答
- (※)標準消費数量 = 当月投入生産量(直接材料費)1,800本 × 標準消費量@1枚 = 1,800枚
解説3-直接労務費差異(賃率差異と作業時間差異)
直接労務費差異は次の通り計算。直接労務費差異は、賃率差異と作業時間差異に分けることができます。
<ポイント>直接労務費差異(賃率差異と作業時間差異)の計算式
- 直接労務費差異 = 標準直接労務費 - 実際直接労務費
= 賃率差異 + 作業時間差異 - 賃率差異 =(標準賃率 - 実際賃率)× 実際作業時間
- 作業時間差異 = 標準賃率 ×(標準作業時間 - 実際作業時間)
結果がマイナス(△)になった場合には不利差異(借方差異)、プラス(+)になった場合は有利差異(貸方差異)といいます。
※結果がプラス→「標準 > 実際」→原価(コスト)は標準(目標)よりも抑えることができた→有利差異
とイメージします。
計算式よりも次の図を描くと簡単に問題が解けます。
※点線で囲んだ部分は賃率差異に含まれます。計算式よりも図の方が覚えやすいです。
<解説>直接労務費差異の計算
- 賃率差異 =(標準賃率2,000円 - 実際賃率1,900円)× 実際作業時間420時間 = 42,000円(有利差異・貸方差異) ←(問2)(1)の解説
- 作業時間差異 = 標準賃率2,000円 ×(標準作業時間400時間(※) - 実際作業時間420時間)= △40,000円(不利差異・借方差異) ←(問2)(1)の解説
- (※)標準賃率 = 当月投入生産量(加工費)1,600本 × 標準作業時間@0.25時間 = 400時間
次の問題と解説
今回の問題の続きです。原価差異のうち、材料費の価格差異と数量差異、および労務費の賃率差異と作業時間差異について解説します。
実際原価計算でも製造間接費の差異分析とは能率差異を計算する点が異なります。標準が加わるため公式も複雑になり、シュラッター図も標準操業度が加わる点がポイント。