工業簿記2級 シングルプランとパーシャルプラン(標準)とは
記事最終更新日:2023年6月13日
記事公開日:2017年5月17日
前回に引き続き、標準原価計算について。今回はシングルプランとパーシャルプランを解説。
工業簿記2級 シングルプランとパーシャルプラン(標準)とは
目次
種類別の勘定連絡図(個別、総合、標準)
クリックすると、実際個別原価計算、実際総合原価計算、標準原価計算それぞれの勘定連絡図(簿記2級で出題される典型的なケース)が別窓で開きます。
今回の学習はココ
シングルプランとパーシャルプランについて学習します。工業簿記(原価計算)の種類でいうと標準原価計算の手続きに該当します。
<今回の学習ポイント>
- ・シングルプランとパーシャルプランとは
- ・両者の違い
- ・問題(ズボンメーカーを例に)
- ・解説(シングルプランとパーシャルプランの記帳方法と仕訳)
標準原価計算とは、製品を標準原価で計算する原価計算制度をいい、原価管理の目的で採用します。
実際原価計算では把握できない数量差異や能率差異を把握することで、原価活動の能率改善に役立ちます。
シングルプランとは
シングルプランとは、各費目(直接材料費、直接労務費、製造間接費)の勘定科目でそれぞれの原価差異の発生を仕訳処理する方法をいいます。
パーシャルプランとは
パーシャルプランとは、仕掛品勘定で各費目の原価差異の発生を仕訳処理する方法をいいます。
両者の違い
両者の違いは次の通り。
<ポイント:シングルプランとパーシャルプランの違い>
- ・原価差異を処理する勘定科目が異なる
- →原価差異に関する仕訳が異なる
シングルプランは材料勘定、賃金勘定、製造間接費勘定といった勘定科目でそれぞれの原価差異の発生を仕訳するのに対して、パーシャルプランでは仕掛品勘定で原価差異の発生を仕訳します。
<ポイント:原価差異の種類(標準原価計算)>
- ・日商簿記2級(工業簿記)では次の7種類が出題
- ・直接材料費差異→価格差異と数量差異
- ・直接労務費差異→賃率差異と作業時間差異
- ・製造間接費差異→予算差異、操業度差異と能率差異
それぞれの原価差異については下記の記事を参照。
問題例(シングルプランとパーシャルプラン)
設例を用いて解説します(理解するための問題)。
標準原価計算の詳細は下記の記事を参照。
<問題例-標準原価計算(シングルプランとパーシャルプラン)>
- 当社はズボンを生産しており、原価計算方法は標準原価計算を採用している。
- 今月の原価計算の状況と必要なデータは次の通り。
- ・直接材料費は工程の最初に全て投入される。
- (問1)シングルプランによって当月の取引を仕訳しましょう。
- (問2)パーシャルプランによって当月の取引を仕訳しましょう。
- ※勘定科目は「材料 仕掛品 買掛金 価格差異 数量差異 製造間接費」から選択すること
<1.当月の活動>
- (1)直接材料である生地を2,000枚、@124円で掛けで購入した。なお、この工場では実際の購入単価をもって材料勘定への受入記録を行っている。
- (2)上記1~3の通り、直接材料を製造に投入した。
- (3)月末になったので、直接材料費の価格差異と数量差異を計算して仕訳を行った。
2.生産データ
項目 | 本数 |
---|---|
月初仕掛品 | - |
当月投入 | 1,800本 |
合計 | 1,800本 |
月末仕掛品 | 300本 |
完成品 | 1,500本 |
3.原価標準(直接材料費のみ)
項目 | 原価標準 |
---|---|
直接材料費 | 標準価格@120 ×標準消費量1枚=120円 |
4.実際原価データ
項目 | 投入額 |
---|---|
直接材料費 | 225,700円(122円×1,850枚) |
解答
<解答(問1)-仕訳(シングルプラン)>
- (借方)材料 248,000 (貸方)買掛金 248,000
- (借方)仕掛品 216,000 (貸方)材料 216,000
- (借方)価格差異 3,700 (貸方)材料 9,700
- (借方)数量差異 6,000
<解答(問2)-仕訳(パーシャルプラン)>
- (借方)材料 248,000 (貸方)買掛金 248,000
- (借方)仕掛品 225,700 (貸方)材料 225,700
- (借方)価格差異 3,700 (貸方)仕掛品 9,700
- (借方)数量差異 6,000
解説1-勘定科目の記帳方法
両者の違いは「原価差異の発生」に関する記帳(仕訳)です。上述の違いをまとめると次の通り。
項目 | 説明 |
---|---|
シングルプラン | 各費目(直接材料費、直接労務費、製造間接費)で原価差異を把握する方法 |
パーシャルプラン | 仕掛品勘定で原価差異を把握する方法 |
従って、原価差異の計上の前段階である(1)材料の購入取引はどちらも同じ記帳です(材料勘定の借方に記入)。
次に(2)直接材料の製造投入については、勘定科目は同じですが金額が異なります。なぜならばシングルプランは材料勘定で原価差異を把握しますが、パーシャルプランでは仕掛品勘定で原価差異を把握するからです。
すなわち、(2)で記帳する金額はシングルプランは「標準原価」であるのに対して、パーシャルプランでは「実際原価」になります。
<解説ポイント:標準原価と実際原価>
- 標準原価(当月投入)= 原価標準@120円 × 当月投入1,800本 = 216,000円
- 実際原価(当月投入)= 225,700円(※「4.実際原価データ」より)
次に(3)の価格差異と数量差異は次の通り。シングルプランでは材料勘定から価格差異勘定・数量差異勘定へ振り替え、パーシャルプランでは仕掛品勘定から振り替えます。
<解説ポイント:価格差異と数量差異>
- 価格差異 =(原価標準@120円 - 実際消費価格@122円)× 当月実際消費量1,850枚 = △3,700円(借方差異・不利差異)
- 当月標準消費量 = 1本当たり消費数量@1枚 × 当月投入1,800本 = 1,800枚
- 数量差異 =(標準消費量1,800枚 - 実際消費量1,850枚)× 標準価格@120円 = △6,000円(借方差異・不利差異)
以上をまとめると、それぞれの材料勘定と仕掛品勘定は次の通り。
<シングルプラン>
材料勘定(シングルプラン) | |
---|---|
(月初材料) (省略) | (当月投入) 仕掛品 216,000円 |
(購入) 買掛金 248,000円 | (原価差異) 価格差異 3,700円 |
(原価差異) 数量差異 6,000円 | |
(月末材料) (省略) |
仕掛品勘定(シングルプラン) | |
---|---|
(当月投入) 材料 216,000円 | (完成) 製品 180,000 |
(月末仕掛品) 36,000円 |
<パーシャルプラン>
材料勘定(パーシャルプラン) | |
---|---|
(月初材料) (省略) | (当月投入) 仕掛品 225,700円 |
(購入) 買掛金 248,000円 | (月末材料) (省略) |
仕掛品勘定(パーシャルプラン) | |
---|---|
(当月投入) 材料 225,700円 | (完成) 製品 180,000 |
(原価差異) 価格差異 3,700円 | |
(原価差異) 数量差異 6,000円 | |
(月末仕掛品) 36,000円 |
<補足:完成品(製品)と月末仕掛品の計算(どちらも同じ)>
- 完成品原価 = 原価標準@120円 × 完成品数量1,500本 = 180,000円
- 月末仕掛品原価 = 原価標準@120円 × 月末仕掛品数量300本 = 36,000円
解説2-仕訳
上記の材料勘定と仕掛品勘定の記帳を仕訳にすれば解答になります。
解答を再掲します。
<解答(問1)-仕訳(シングルプラン)>
- (借方)材料 248,000 (貸方)買掛金 248,000
- (借方)仕掛品 216,000 (貸方)材料 216,000
- (借方)価格差異 3,700 (貸方)材料 9,700
- (借方)数量差異 6,000
<解答(問2)-仕訳(パーシャルプラン)>
- (借方)材料 248,000 (貸方)買掛金 248,000
- (借方)仕掛品 225,700 (貸方)材料 225,700
- (借方)価格差異 3,700 (貸方)仕掛品 9,700
- (借方)数量差異 6,000
次の問題と解説
CVP分析(損益分岐点の計算)について解説します。図を描いて変動利益率や貢献利益率を計算して損益分岐点の売上高や販売数量を求めることができるかどうかがポイント。