7-5 製造間接費配賦差異(能率差異、予算差異、操業度差異)
<出題可能性・重要度>★★★☆☆
「製造間接費差異」も実際原価計算で登場しました。シュラッター図を描いて求める点も同じですが、標準原価計算では、新たに「能率差異」が加わり、シュラッター図も少しだけ覚えることが多くなります。
製造間接費配賦差異とは
標準原価計算の製造間接費差異とは、標準原価による製造間接費と製造間接費の実際発生額との差額をいい、「予算差異」「操業度差異」「能率差異」とに分けることができます。
標準原価計算のシュラッター図と書き方
図を使った方が分かりやすいので、はじめにシュラッター図を示して書き方を解説します。その次に、シュラッター図で登場する用語を順番に解説していきます。
実際原価計算と比較できるように、2ページ続けてシュラッター図を掲載します(最初が実際原価計算で次に標準原価計算)。
標準原価計算のシュラッター図で、「緑色の部分」が新しく追加された部分です。
標準原価計算のシュラッター図は実際原価計算のシュラッター図のままで、新たに「緑色の部分」を追加したたけです(位置関係の調整やスペースが足りない理由で、横にシフトしたり用語を削除している部分はあります)。
描き方
実際原価計算のシュラッター図に「標準操業度」を追加します。
操業度は基準・実際・標準の3種類になります。必ず、「標準操業度 < 実際操業度 < 基準操業度」の位置関係になるように描きます。
次に予定配賦額を削除し、新たに「標準配賦額」と「能率差異」を追加すれば完成です。
以下、順番に用語を解説していきます。
標準操業度
標準操業度とは、「原価管理の目標」として設定した原価の標準に基づく操業度をいいます。
標準原価カードを再掲します。
「操業度」とは生産設備の利用度を表し、配賦基準の数量を決めます(第3章の「3-3.操業度」を参照)。
この標準原価カードでは、「製造間接費はズボン1本当たり直接作業時間0.25時間で製造する」と、原価管理上の作業能率の目標を設定しているので、製造間接費の配賦基準は「直接作業時間」であり、操業度の設定は「0.25時間/本」です。
この数字から、「標準操業度」を計算します。「操業度」とは生産設備の利用度であり、具体的には当月投入数量を計算に使用します。
ただし製造間接費なので、必ず「加工費の当月投入数量」を用います。間違えやすいので注意。
例えば、生産量データのうち、当月投入数量(加工費)が1,600本であれば、標準操業度は次の通り計算できます。
「標準操業度 = ズボン1本当たり直接作業時間0.25時間/本 × 当月投入数量(加工費)1,600本 = 400時間」
これに対して、実際操業度は当月の実際に働いた直接作業時間です。次に、基準操業度は、例えば予定操業度で設定し、「年間予算(計画)上、予め設定した1年間の直接作業時間を12か月で除したもの」をいいます。
<Check>標準操業度の計算方法
- ・標準操業度 = (標準原価カード上の製造間接費の製品1単位当たり配賦基準) × 当月投入生産数量(加工費)
<Check>標準操業度、実際操業度、基準操業度の比較
- ・標準操業度 = 実際の当月投入生産量に作業能率を加味して計算した直接作業時間
- ・実際操業度 = 実際の当月直接作業時間
- ・基準操業度 = 年間予算(計画)を立てる際に定めた年間直接作業時間を12で割ったもの
- ※直接作業時間を操業度とした場合
<Check>例題-標準操業度の計算
- (設定)
- ・標準原価カード上のズボン1本当たり製造間接費 = 標準配賦率1,440円/時間 × 直接作業時間0.25時間/本 = 360円/本
- ・当月投入数量(加工費)= 1,600本
- (計算)
- ・標準操業度 = ズボン1本当たり直接作業時間0.25時間/本 × 当月投入数量(加工費)1,600本 = 400時間
標準配賦率と変動費率・固定費率
標準配賦率とは、「原価管理の目標」として設定した、原価の標準に基づく配賦率をいいます。
再度、標準原価カードを再掲します。
この標準原価カード上の標準配賦率1,440円/時間は、「原価管理上の目標として設定した、直接作業時間1時間当たりの製造間接費配賦額」を意味します。
これに対して、実際原価計算の予定配賦率は「製造間接費年間予算を年間配賦基準(例では直接作業時間)で除したもの」でした。
両者とも、同じ製造間接費の配賦率ですが、「標準配賦率は原価管理の目標として設定されたもの」であるので、実際原価計算の年間予算よりも厳しめに低く設定する傾向があります。
「第3章 製造間接費」で学習したシュラッター図では、年間製造間接費予算を「年間変動費予算」と「年間固定費予算」に分けることができます。そして、そこから変動費率と固定費率を計算しましたが、標準原価計算でも同じです。
年間製造間接費予算を設定して「年間変動費予算」と「年間固定費予算」に分けるので、そこからシュラッター図上の変動費率と固定費率を計算します。
ただし標準原価計算のため、年間予算は原価管理の目標でもあります。従って、標準原価計算上の年間製造間接費予算を基準操業度で除したものを、標準原価計算では「標準配賦率」といいます。
標準配賦率の性質
「年間製造間接費予算を、基準操業度ではなく、標準操業度で除したもの」ではないの?
と思う方もいるかもしれませんが違います。「基準操業度」で間違いありません。
標準操業度は、あくまでも「実際の当月投入量に基づいた操業度」です。
これに対して、「標準配賦率」は、予め設定した年間予算の製造間接費に基づいて計算します。予算とは、実際に製造する前の段階で決めるものです。
標準操業度は、あくまでも「実際の当月投入量に基づいた操業度」であるので、予算設定段階では標準操業度は計算できないので使用できません。予算計画段階の操業度は、標準原価計算であっても「基準操業度」を使用します。
以上の理由から、標準配賦率は年間製造間接費予算を基準操業度で除したものといえます。そして、標準配賦率は変動費率と固定費率に分けることができます。
<Check>標準配賦率と変動費率・固定費率の計算方法
- 標準配賦率 = 年間製造間接費予算 ÷ 基準操業度 = 標準原価カード上の標準配賦率
- = 変動費率 + 固定費率
<Check>例題-標準配賦率と変動費率・固定費率
- (設定)
- ・直接作業時間を操業度として設定している。
- ・年間予算から計算した月間の基準操業度は450時間。基準操業度の変動費率は@480円 固定費予算額は432,000円である。
- (計算)
- ・変動費率 = @480円
- ・固定費率 = 月間固定費予算432,000円 ÷ 基準操業度450時間 = @960円
- ・標準配賦率 = 変動費率@480円 + 固定費率@960円 = @1,440円
予算差異と操業度差異
「予算差異」と「操業度差異」は、「第3章 製造間接費」で解説しました。
標準原価計算の予算差異と操業度差異も全く同じです。そして、これらの差異を計算するために求める「予算許容額」も同じです。用語と計算式を再掲します。
<用語>(再掲)予算差異・操業度差異
- ・予算差異 = 製造間接費配賦差異のうち、実際操業度を使用した場合の予定額と実際発生額との差異
- ・操業度差異 = 製造間接費配賦差異のうち、実際と予定の操業度の違いによる固定費の差異
<Check>(再掲)予算差異と操業度差異の計算
- ・予算差異 = 予算許容額(※1)- 実際発生額
- ・操業度差異 = 予定配賦額 - 予算許容額(※1)=(実際操業度 - 基準操業度)(※2)× 固定費率
- (※1)予算許容額 = 変動費率 × 実際操業度 + 固定費率 × 基準操業度
- = 変動費率 × 実際操業度 + 固定費予算 ÷ 12ヶ月
- (※2)注意!!操業度差異の場合は実際から基準(予定)を差し引きます。
<Check>(再掲)予算許容額と実際発生額・予定配賦額の計算式の比較
- (a)実際発生額 = ①変動費率(実)× ②実際操業度(実)+ ③固定費率(実)× ④実際操業度(実)
- (b)予算許容額 = ①変動費率(予)× ②実際操業度(実)+ ③固定費率(予)× ④基準操業度(予)
- (c)予定配賦額 = ①変動費率(予)× ②実際操業度(実)+ ③固定費率(予)× ④実際操業度(実)
<Check>(再掲)予算差異と操業度差異の意味
- ・予算差異がマイナス(不利差異) → 生産効率が悪い(または予算設定がよくない)
- ・操業度差異がプラス(有利差異) → 固定費は操業度の大きさに関係なく一定 = 実際の方が操業度が多かったため、固定費をより有効に活用できた
能率差異
能率差異とは、製造間接費配賦差異のうち、標準と実際の操業度の違いによる能率の尺度を表す差異をいいます。
<用語>能率差異
- ・能率差異 = 製造間接費配賦差異のうち、標準と実際の操業度の違いによる能率の尺度を表す差異。
シュラッター図を再掲します。
図の通り、「能率差異」は、「変動費部分」と「固定費部分」の2種類存在します。それぞれ、「標準操業度 - 実際操業度」に変動費率、固定費率を乗じて計算します。
<Check>能率差異の計算
- 能率差異 = 標準配賦率 ×(標準操業度 - 実際操業度)(※1)
= 変動費率 ×(標準操業度 - 実際操業度)(※1) + 固定費率 ×(標準操業度 - 実際操業度)(※1)(※2) - (※1)注意!!能率差異の場合は標準から実際を差し引きます。
- (※2)出題によっては能率差異(固定費)は操業度に含める場合があります。
4分法と3分法
上記は、「製造間接費配賦差異」を「予算差異」能率差異(変動費)」「能率差異(固定費)」「操業度差異」に分けるので、「4分法」という場合があります。
しかし、問題によっては「能率差異(固定費)」を「操業度差異」に含める場合があります(3分法の1種)。
本試験の出題では、「能率差異は変動費と固定費の両方からなる」「能率差異は変動費のみで計算すること」などと指示があります。従って、「能率差異(固定費)」を「能率差異」に含めるのか、「操業度差異」に含めるのかは、問題の指示に従います。
能率差異の性質
能率差異は、上記の計算式から「標準操業度 > 実際操業度」の場合に有利差異となり、「標準操業度 < 実際操業度」の場合に不利差異となります。
なぜならば、実際操業度が標準操業度を下回った場合には、それだけ「効率よく無駄のない製造活動を行えた」ということを意味するからです。すなわち、能率差異とは文字通り、「能率の尺度である標準」の操業度よりも、どの程度、能率よく製造できたかが分かる原価差異といえます。
<Check>能率差異の意味
- ・能率差異がプラス(有利差異)
- → 効率よく無駄のない製造活動を行えた
例題-製造間接費配賦差異(予算差異、操業度差異と能率差異)
それでは、例題を掲載します。
<Check>例題-標準原価計算(予算差異、操業度差異と能率差異)
- 当社はズボンを生産しており、原価計算方法は標準原価計算を採用している。
- 今月の原価活動の状況と必要な数値資料は次の通り(カッコ内の数字は加工費の進捗度と原価)。
- ・直接作業時間を操業度として設定している。
- ・年間予算から計算した月間の基準操業度は450時間。基準操業度の変動費率は@480円 固定費予算額は432,000円である。
- (問題)製造間接費配賦差異を求め、さらに予算差異、操業度差異、能率差異(変動費と固定費の両方からなる)を求めましょう。
<Check>解答-標準原価計算(予算差異、操業度差異と能率差異)
- ・製造間接費差異 = △54,000円(不利差異、借方差異)
- ・予算差異 = 3,600円(有利差異・貸方差異)
- ・操業度差異 = △28,800円(不利差異、借方差異)
- ・能率差異 = △28,800円(不利差異、借方差異)
<Check>製造間接費配賦差異の計算
- ・製造間接費配賦差異 = 標準配賦率1,440円 × 標準操業度400時間 - 実際製造間接費630,000円 = △54,000円(不利差異、借方差異)
- ・予算許容額 = 変動費率 × 実際操業度 + 固定費予算額
= 変動費率@480円 × 実際操業度420時間 + 固定費予算432,000円 = 633,600円 - ・予算差異 = 予算許容額 - 実際原価 = 予算許容額633,600円 - 実際製造間接費630,000円 = 3,600円(有利差異・貸方差異)
- ・操業度差異 = 固定費率 ×(実際操業度 - 基準操業度)
= 固定費率@960円(※1)×(実際操業度420時間 - 基準操業度450時間)= △28,800円(不利差異・借方差異) - ・能率差異 = 標準配賦率 ×(標準操業度 - 実際操業度)
= 標準配賦率1,440円 ×(標準操業度400時間(※2)- 実際操業度420時間)= △28,800円(不利差異・借方差異) - (別解)能率差異 = 変動費率 ×(標準操業度 - 実際操業度)+ 固定費率 ×(標準操業度 - 実際操業度)
= 変動費率@480円 × (標準操業度400時間(※2)- 実際操業度420時間)+ 固定費率@960円 ×(標準操業度400時間(※2)- 実際操業度420時間)= △28,800円(不利差異・借方差異) - (※1)固定費率 = 固定費予算額432,000円 ÷ 基準操業度450時間 = @960円
- (※2)標準操業度 = 直接作業時間@0.25時間 × 標準労務費(加工費)の当月投入量1,600本(ボックス図より) = 400時間
用語・情報と計算量が多いので、シュラッター図を使って効率よく計算式を覚えます。
実際原価計算の製造間接費差異分析があやふやな場合には、「第3章 製造間接費」の例題が理解できるようになってから、本問を読めば、段階的に理解が進むはずです。
標準原価計算の製造間接費配賦差異の解説は以上です。次に、本章の最後の論点として、「パーシャルプラン」と「シングルプラン」を解説します。
