10-2 外貨建て取引の仕訳
外貨建取引(営業取引)の仕訳
簿記2級では、外貨建て取引は、営業取引が試験範囲になっています。
外貨建て取引(営業取引)の仕訳には、(1)輸出売上、輸入仕入れ時の仕訳、(2)決算時の仕訳、(3)為替予約時の仕訳、(4)決済時の仕訳があります。
それぞれについて、解説します。
(1)輸出売上、輸入仕入れ時の仕訳
輸出売上や輸入仕入といった取引が発生した時には、通常は直物為替相場のレートで円に換算して仕訳します。
例えば、海外から商品を100ドルで仕入れ、1ヶ月後に代金を支払い、同時に決済する場合、直物為替相場のレートが100円/ドルであれば、100ドル×100円/ドル=1万円で仕訳します。
「仕入」や「売上」は、この時に計上して以降、金額が変わることはありません。「売掛金」や「買掛金」は金額が変わります。
取引 | 為替レート | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
販売取引の発生 | 直物為替相場 | 売掛金 | ××× | 売上 | ××× |
<例題>
- 商品100個を@10ドルで掛けで輸出した。この日の為替相場は100円/ドルであった。
- (仕訳)
- 売掛金 100,000 / 売上 100,000
(2)決算時の仕訳
決算時に、外貨建ての売掛金や買掛金が存在する場合には、換算替えを行います。
具体的には、外貨建ての売掛金や買掛金を、決算時の為替レートで評価します。「評価」とは、ここでは「決算時の金額で計上すること」と考えて差し支えありません。
例えば、輸出売上取引として、米ドル建ての売掛金100ドルを100円/ドル換算で1万円で仕訳したとします。
決算時の為替レートが105円/ドルだとすると、この売掛金を100ドル×105円/ドル=1万500円で計上する、ということです。
これまでの計上額1万円と1万500円との差額500円を、「為替差損益(かわせさそんえき)(収益・費用に属する勘定科目)」で記帳します。
取引 | 為替レート | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
決算 | 直物為替相場 ( < 決算日レート ) | 売掛金 | ××× | 為替差損益 | ××× |
直物為替相場 ( > 決算日レート ) | 為替差損益 | ××× | 売掛金 | ××× |
<例題>
- 決算を迎えた。外貨建て売掛金残高1,000ドル(100,000円)。決算日の為替相場90円/ドル
- (仕訳)
- 為替差損益 10,000※ / 売掛金 10,000
- ※帳簿価額100,000円 - (1,000ドル × 90円/ドル) = 10,000円
(3)為替予約時の仕訳
為替予約とは、先物為替相場のレートで取引を決済するために、決済前に、予め金融機関と先物為替相場のレートを取り決めして、決済に使用する為替レートについて、契約することをいいます。
為替予約は、売上や仕入れの取引時の契約、取引後の契約どちらも可能です。
為替予約時の仕訳は、為替予約時の先物為替相場の為替レートで、売掛金や買掛金を評価替えします。評価替えの方法や使用する勘定科目は、決算時の仕訳と同じです。
輸出売上や輸入仕入れ時に為替予約を行った場合には、(1)で説明した直物為替相場ではなく、先物為替相場の為替レートで仕訳します。
取引 | 為替レート | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
販売取引の発生 | 先物為替相場 | 売掛金 | ××× | 売上 | ××× |
販売取引後に 為替予約を契約 | 先物為替相場 ( > 直物為替相場) | 売掛金 | ××× | 為替差損益 | ××× |
先物為替相場 ( < 直物為替相場) | 為替差損益 | ××× | 売掛金 | ××× |
<例題>
- 以前の輸出取引の掛代金1,000ドル(輸出時の為替相場100円/ドル)について、将来のドル高のリスクを回避するため、先物為替相場95円/ドルで為替予約を行った。
- (仕訳)
- 為替差損益 5,000※ / 売掛金 5,000
- ※(100円/ドル - 95円/ドル) × 1,000ドル = 5,000円
- <補足>5,000円の損になりますが、将来のさらなるドル高を予想しており、、より大きな損失の可能性が高いと判断したケースを想定しています。
<例題>
- 商品100個を@10ドルで掛けで輸出した。同時に先物為替相場110円/ドルで為替予約を行った。
- (仕訳)
- 売掛金 110,000 / 売上 110,000
いったん、為替予約を行い仕訳したならば、決算時には換算替えを行いません。
なぜならば、為替予約を一度行えば、決済時にも為替予約の為替レートで仕訳するからです。従って、決算時にも換算替えを行う必要はありません。
取引 | 為替レート | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
決算 | 先物為替相場 | 仕訳なし |
<例題>
- 決算を迎えた。外貨建て売掛金残高1,000ドル(95円/ドルで為替予約を行っている)。決算日の為替相場90円/ドル
- (仕訳)
- 仕訳なし
(4)決済時の仕訳
決済とは、外国通貨を自国通貨と交換することをいいます。
営業取引(輸出売上、輸入仕入れ)では、売掛金の代金回収や買掛金の支払い時に、決済を行うのが通常です。
決済をする際に使用する為替レートは、決済時の為替レートです。
例えば、100ドルで仕入れた商品を決算時に換算替えして、1万500円で計上しました。
決済時(代金支払い時)の為替レートが110円の場合には、代金は100ドル×110円/ドル=1万1千円です。代金を当座預金から支払うのであれば、「当座預金 11,000」と貸方に記帳します(買掛金の金額は変わらず、1万500円で借方に減少として記入します)。
そして、1万1千円と1万500円の差額500円は、「為替差損益」で仕訳します。
しかし、予め、決済前に為替予約を行っていた場合には、代金は決済時のレートではなく、為替予約のレートを使用して仕訳します。なぜならば、為替予約とは、決済する時の為替レートを予め決めたものだからです。
取引 | 為替レート | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
代金回収 (決済) | 決済時の為替レート ( 売掛金 < 代金回収額 ) | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× |
為替差損益 | ××× | ||||
決済時の為替レート ( 売掛金 > 代金回収額 ) | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× | |
為替差損益 | ××× | ||||
先物為替相場 | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× |
<例題>
- 外貨建て売掛金1,000ドル(帳簿価額90,000円)の決済日が到来し当座預金に代金が振り込まれた。この日の為替相場93円/ドル
- (仕訳)
- 当座預金 93,000 / 売掛金 90,000
- / 為替差損益 3,000
<例題>
- 外貨建て売掛金1,000ドル(95円/ドルで為替予約を行っている)の決済日が到来し当座預金に代金が振り込まれた。この日の為替相場93円/ドル
- (仕訳)
- 当座預金 95,000※ / 売掛金 95,000
- ※為替予約の為替相場95円/ドルで入金
仕訳のまとめ
以上をまとめると、次の通り(輸出売上の例)。
取引 | 為替レート | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
販売取引の発生 | 直物為替相場 | 売掛金 | ××× | 売上 | ××× |
先物為替相場 | 売掛金 | ××× | 売上 | ××× | |
販売取引後に 為替予約を契約 | 先物為替相場 ( > 直物為替相場) | 売掛金 | ××× | 為替差損益 | ××× |
先物為替相場 ( < 直物為替相場) | 為替差損益 | ××× | 売掛金 | ××× | |
決算 | 直物為替相場 ( < 決算日レート ) | 売掛金 | ××× | 為替差損益 | ××× |
直物為替相場 ( > 決算日レート ) | 為替差損益 | ××× | 売掛金 | ××× | |
先物為替相場 | 仕訳なし | ||||
代金回収 (決済) | 決済時の為替レート ( 売掛金 < 代金回収額 ) | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× |
為替差損益 | ××× | ||||
決済時の為替レート ( 売掛金 > 代金回収額 ) | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× | |
為替差損益 | ××× | ||||
先物為替相場 | 現金預金など | ××× | 売掛金 | ××× |
仕訳問題
- 1.A社は海外のB社へ100ドルの商品を販売した。代金は掛けとして6ヶ月後に回収する。この日の為替相場は100円/ドルであった。
- 2.A社は海外のC社より50ドルの商品を仕入れた。この日の為替相場は110円/ドルであった。代金は掛けとして3ヶ月後に支払う。為替リスクを回避するため、為替予約を銀行と契約した。3ヶ月後の先物為替レートは95円/ドルである。
- 3.上記1.の売上取引のうち40ドルについて為替予約を銀行と契約した。決済時の先物為替レートは105円/ドルである。
- 4.決算日を迎えた。この日の為替レートは98円である。
- 5.上記2.の支払日になったため、C社への支払代金を当座預金より支払った。この日の為替レートは100円/ドルである。
- 6.上記1.の回収日になりB社から売上代金が当座預金に振り込まれた。この日の為替レートは110円/ドルである。
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 売掛金 | 10,000 | 売上 | 10,000 |
2 | 仕入 | 4,750 | 買掛金 | 4,750 |
3 | 売掛金 | 200 | 為替差損益 | 200 |
4 | 為替差損益 | 120 | 売掛金 | 120 |
5 | 買掛金 | 4,750 | 当座預金 | 4,750 |
6 | 当座預金 | 10,800 | 売掛金 | 10,080 |
為替差損益 | 720 |
解説
問題1.
・売上金額 = 100ドル×100円/ドル(直物為替相場) = 1万円
問題2.
・仕入金額 = 50ドル×95円/ドル(先物為替相場) = 4,750円
※仕入れ時や販売時に同時に為替予約を行なった場合、先物為替相場のレートを使って取引額を計算します。
問題3.
・為替差損益 = (先物為替相場105円/ドル - 直物為替相場100円/ドル) × 40ドル = 200円
問題4.
・為替差損益 = ( 直物為替相場100円/ドル - 決算日の為替レート98円/ドル) × 60ドル = 120円(借方計上)
※決算日の為替レートで換算替えをするのは、売掛金のうち、為替予約を行っていない60ドルだけです。
問題5.
・買掛金 = 問題2.より4,750円
・支払代金 = 買掛金と同じ。4,750円
※仕入時に為替予約を行っているため、支払代金も為替予約の為替レート95円/ドルで計算します(つまり問題2.の金額を支払う)。
問題6.
・売掛金 = 問題1.より10,000円 + 問題3.より200円 - 問題4.より120円 = 10,080円
・回収代金 = 40ドル(為替予約分)× 105円/ドル + 60ドル(直物為替相場分)× 決済日為替レート110円/ドル = 10,800円
・為替差損益:貸借差額
※上記3.で40ドルだけ為替予約を行っています。この部分は回収代金も為替予約の為替レート105円/ドルで計算します。
残りの60ドルの回収代金は、決済時の為替レート110円/ドルで計算します。