資産説・資本控除説とは|自己株式の論点(会計学 上級)
記事更新日:2024年11月10日
記事公開日:2022年7月2日
※本記事は、2024年11月10日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
自己株式は会社法(旧商法)との関係で過去には資産計上されていたなど、経緯が複雑な科目ですが、その背景には自己株式の性質として「資産説」及び「資本控除説」という2つの考え方が存在しています。
本記事では「資産説」及び「資本控除説」とは何かについて、自己株式の会計処理に関する考え方や会社法(旧商法)の改正といった、これまでの経緯も含めて解説します。
自己株式とは
自己株式とは、取得によって自己が保有する、既発行の自社の株式をいいます。
資産説と資本控除説
自己株式の会計処理には、その性質から「資産」とする考え方(資産説)と「資本の控除」とする考え方(資本控除説)が存在します。
「資産説」とは、自己株式を取得したのみでは失効しておらず、他の有価証券と同様に「換金性のある会社財産」であることを主な論拠とする考え方をいいます。
「資本控除説」とは自己株式の取得は株主との間の資本取引であり、「会社所有者に対する会社財産の払い戻し」の性格を有する点を主な論拠とする考え方をいいます。
会社法及び会計制度との関係
従来の会計基準では旧商法の規制との関係から「資産説」の立場を採り、自己株式を資産として計上していましたが、平成13年の旧商法改正後以降、会計基準を公表し「資本控除説」と整合した会計処理を採用した結果、自己株式を株主資本の控除科目として貸借対照表上に表示することとなり、現行の会計制度に至っています。
経緯
旧商法では、自己株式の取得が一種の資本減少(減資)と同じであり「資本の空洞化」となること、及び株価操作や経営者の地位保全目的で利用されるおそれがあるとして、原則として自己株式の取得を禁止していました(旧商法210条)。自己株式の取得が認められるのは株式の消却や合併により取得した場合など、限られた場合だけでした。
一方で、会計側では自己株式を資本の控除とする考え方は「商法と企業会計原則との調整に関する意見書(1951年9月28日 経済安定本部企業会計基準審議会中間報告)」においても述べられており、会計上は、自己株式は資本を控除とする考え方が当時から存在していました。
さらに、旧商法の対象外である連結財務諸表では、自己株式の表示方法として「資本の部からの控除」を当時から規定していました。国際的な会計基準においても同様であり、会計上では自己株式を資本の控除とする考え方が一般的でした。
しかし、上述の商法の「債権者保護」の見地から、平成13年改正前の旧商法(旧商法計算書類規則)においては、自己株式は流動資産として表示するとしており、金融商品取引法の表示規則である「財務諸表等規則」でも、流動資産として他の科目と別掲して表示するよう定めていました。
その後、平成になってから旧商法において改正が複数実施され、自己株式取得の規制緩和やストックオプション制度の導入など、大幅に緩和。そして、平成13年の旧商法改正において、自己株式の取得が解禁され、計算書類規則上においても自己株式を資本の部の末尾に自己株式として一括表示することになりました。
平成14年2月には、企業会計基準委員会が「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」を公表。自己株式を資本の控除とすることが適切であると定めました。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2024年11月10日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第1号)
・自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第2号)
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
・会社法(平成十七年法律第八十六号)
・(旧)商法
・(旧)商法計算書類規則(株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び付属明細書に関する規則)
参考文献
・武田隆二 最新 財務諸表論(第11版)中央経済社 2008年
・スタンダードテキスト財務会計論I 基本論点編(第14版) 中央経済社 2021年
・広瀬 義州 財務会計(第13版) 中央経済社 2015年
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。