自己株式と会計処理|資産・資本控除説や過去の経緯も併せて解説

会計書類と電卓

自己株式は会社法(旧商法)との関係で過去には資産計上されていたなど、経緯が複雑な科目です。

本記事では自己株式の会計処理について、考え方やこれまでの経緯を含めて解説します。

自己株式と会計処理|資産・資本控除説や過去の経緯も併せて解説

目次

自己株式とは

自己株式とは、取得によって自己が保有する、既発行の自社の株式をいいます。

考え方(資産と資本控除)

自己株式の会計処理には、その性質から「資産」とする考え方と「資本の控除」とする考え方が存在します。

資産とする考え方

自己株式を取得したのみでは失効しておらず、他の有価証券と同様に換金性のある会社財産であることを主な論拠とする考え方をいいます。

資本の控除とする考え方

自己株式の取得は株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払い戻しの性格を有する点を主な論拠とする考え方をいいます。

現行の会計制度

旧商法(平成13年改正前)の下では自己株式を資産として流動資産に計上していましたが、平成13年の旧商法改正以降は、自己資産を株主資本の控除科目として貸借対照表上に表示することとなり、現行の会計制度に至っています。

経緯

旧商法では、自己株式の取得が一種の資本減少(減資)と同じであり資本の空洞化となること、及び株価操作や経営者の地位保全目的で利用されるおそれがあるとして、原則として自己株式の取得を禁止していました(旧商法210条)。自己株式の取得が認められるのは株式の消却や合併により取得した場合など、限られた場合だけでした。

自己株式を資本の控除とする考え方は「商法と企業会計原則との調整に関する意見書(1951年9月28日 経済安定本部企業会計基準審議会中間報告)」においても述べられており、会計上は、自己株式は資本を控除とする考え方が当時から存在していました。さらに旧商法の対象外である連結財務諸表では自己株式の表示方法として、資本の部からの控除を当時から規定していました。国際的な会計基準においても同様であり、会計上では自己株式を資本の控除とする考え方が一般的でした。

しかし、上述の商法の債権者保護の見地から、平成13年改正前の旧商法(旧商法計算書類規則)においては、自己株式は流動資産として表示するとしており、金融商品取引法の表示規則である「財務諸表等規則」でも、流動資産として他の科目と別掲して表示するよう定めていました。

その後、平成になってから旧商法において改正が複数実施され、自己株式取得の規制緩和やストックオプション制度の導入など、大幅に緩和。そして、平成13年の旧商法改正において、自己株式の取得が解禁され、計算書類規則上においても自己株式を資本の部の末尾に自己株式として一括表示することになりました。

平成14年2月には、企業会計基準委員会が「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」を公表。自己株式を資本の控除とすることが適切であると定めました。

具体的な会計処理

概要を解説します。

※仕訳処理については以下の記事を参照

取得

自己株式は取得原価をもって評価します。

付随費用

有価証券、棚卸資産、有形固定資産など、一般的な資産の取得の場合には、付随費用を取得原価に含めて処理します。

自己株式についても、付随費用を取得原価に含める処理の考え方が存在します(付随費用を自己株式本体の取引と一体と考え、付随費用も資本取引の一部として捉える)。国際的な会計基準ではこちらの方法が採用されています。

これに対して、日本の会計基準では、自己株式の付随費用を「財務費用」として捉え、取得原価には含めず費用として処理します(処分、消却時も同様)。自己株式の付随費用自体は株主との間の取引ではないこと、及び増資時に発生する「新株発行費(株式交付費)」を資本取引として処理しない(株主資本から控除していない)点も、当該処理を採用する理由になっています。

処分(売却)

処分価額と取得原価との差額は「自己株式処分差益(差損)」として、その他資本剰余金に計上、又は減額します。

募集株式の発行等の手続きによる処分の場合

募集株式の発行等の手続き時に自己株式を処分する場合、払込期日に自己株式の処分を認識します。

払込期日の前日までに受領した自己株式の処分の対価相当額は、払込期日までの期間中は「自己株式申込証拠金」として処理します。

消却

消却手続きが完了した時に、対象となった自己株式の帳簿価額を、その他資本剰余金から減額します。

その他資本剰余金の残高が負の値になった場合

上記の処理の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、その他資本剰余金の残高をゼロとし、当該負の値を、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します。

親会社株式(連結会計)

自己株式を子会社に取得させることによる自己株式規制の逸脱を防止するために、会社法では、原則として子会社の親会社株式は取得できません(会社法135条1項)。しかし、子会社が他の会社を吸収合併した場合など、一定の場合には取得を認めています。しかし、取得した親会社株式は相当の時期に処分しなければなりません。

※なお、関連会社の投資会社株式の保有についても会社法上、相互保有株式の議決権について制限規定が設けられています。

連結子会社が保有する親会社株式は、親会社が保有する自己株式と合わせて、連結貸借対照表上、純資産の部の株主資本の控除科目として表示します。

ただし、非支配株主が存在する場合には、持分相当額を計算して、当該金額を株主資本からではなく非支配株主持分から控除します。

表示

期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に「自己株式」として一括して控除する形式で表示します。自己株式申込証拠金は、自己株式の直後に「自己株式申込証拠金」の科目名で表示します。

自己株式の取引(取得、処分、消却)に伴って発生した付随費用は、損益計算書上、営業外費用として表示します。

さらに株主資本等変動計算書において、取得・処分・消却の増減取引が発生した場合には「自己株式の取得」「自己株式の消却」といった名称を付し、他の変動事由とは区分して「当期変動額」に表示します。

会計基準・参考文献

・自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第1号)
・自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第2号)
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
・連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則、及び同注解
・貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(企業会計基準第5号)
・貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針(企業会計基準適用指針第8号)
・株主資本等変動計算書に関する会計基準(企業会計基準第6号)
・株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第9号)
・会社法(平成十七年法律第八十六号)
・(旧)商法
・(旧)商法計算書類規則(株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び付属明細書に関する規則)

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