出荷基準とは|会計基準上の取り扱いや開示事例も含めて解説
執筆日:2024年2月23日
※本記事は、2024年2月23日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※本記事には、「入門者対象」と「上級者・実務家対象」の両方のコンテンツが含まれています。
※本記事の一部で、筆者(須藤恵亮)の考察を述べています。
「出荷基準」は、日本の取引慣行として従来から存在する売上計上基準(収益認識基準)です。
本記事では、「出荷基準」の概要や従来の考え方について解説した後、「収益認識会計基準」の適用による変更の有無、及び、私が会計監査で苦労した経験がある、従来から存在する「出荷基準」の留意事項にも言及して解説します。
出荷基準とは|会計基準上の取り扱いや開示事例も含めて解説
目次
- 「出荷基準」とは
- 出荷時点で収益認識が認められる理由
- 従来の考え方
- ↓以降、上級者・実務家対象
- 「収益認識会計基準」上の取り扱い
- 留意点(考察あり)
- 残高確認
- 証憑資料
- 開示事例
- 会計基準等
「出荷基準」とは
「出荷基準(shipping basis)」とは、商品・製品を出荷する時に収益認識(売上計上)する方法をいいます。
例えば、工場や倉庫から商品・製品を運送業者に依頼してトラックで顧客まで配送してもらう場合が該当し、工場・倉庫で「運送業者(得意先ではなく)に商品・製品を引き渡した時点」で売上を計上します。
出荷時点で収益認識が認められる理由
「従来の考え方」及び「収益認識会計基準上の取り扱い」に分けて解説します。
従来の考え方
出荷時点では顧客の手許には届いていないので、厳密には顧客に引き渡したとはいえません。従って、「実現主義の原則」に基づけば、実現の要件を満たしていない状態のため、売上計上できないとも考えられます。
しかし、注文毎に仕様が異なるような受注品(特注品)ではなく、店頭やインターネットで入手できる大量消費商品であれば、厳しい検収もなく、ほとんど返品もなく得意先に引渡せます。
また、トラックで運搬されてから得意先の手許に届くまでの日数も、国内であれば数日です。
このような理由を背景に、「出荷基準」は一般的な売上の計上基準の1つとして、日本の取引慣行上、認められてきました。
「収益認識会計基準」上の取り扱い
※↓以降、上級者・実務家対象
「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」「収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号)」を原則的に適用した場合には、出荷時点では商品・製品に対する支配が顧客に移転していないため、履行義務が一時点で充足されたとはいえないことから、収益認識できません。
しかし、国内の販売において、「出荷」から「商品・製品の支配が顧客に移転する時(検収など)」までの期間が数日など通常である場合には、「代替的な取り扱い」として出荷時点での収益認識を認めています(適用指針 98項、171項)。
<「出荷基準」が代替的な取り扱いとして認められる理由>
- ・「出荷基準」と「原則的な時点における収益認識」との差異が、通常、金額的重要性に乏しいと想定される。
- →企業間の比較可能性を大きく損なわない
留意点(考察あり)
会計監査・経理実務における出荷基準の留意点を解説します。
残高確認
「出荷基準」の場合、会社は出荷時に売上(売掛金)を計上しますが、顧客は一般的には「商品・製品が手許に届き、検品した時」に「仕入(買掛金)」を計上することから、両者の残高に差異が生じるため、会計監査にて「売掛金の残高確認」を行った場合には「確認差異」が生じます。
この場合には、監査人は「確認差異」が虚偽表示の兆候を示しているか否かを判断するために、「確認差異」の調査を行わなければなりません(監査基準報告書505「確認」第13項)。
証憑資料
「確認差異」の調査は、監査人が被監査会社に差異調査を依頼し、被監査会社が当該差異の原因調査を行います。
その後、差異原因が判明した際に、監査人に回答することになりますが、「見積書」「稟議書(値下げの場合など)」「注文書」「出荷指示書」「納品書控え」「請求書」「送り状(出荷伝票)控」「売上伝票」といった証憑資料を裏付け資料として提出します(業界慣行や会社によって書類名称は異なります)。また、回収状況の確認(入金チェック)も行います。
(考察)送り状(出荷伝票)控え
- ・会社外部の運送業者が関わる証憑資料であること、出荷したモノの詳細や金額は分からなくても、取引先に出荷した事実が確認できること、「送り状No(問い合わせNo)」が存在することから、同様に会社外部の顧客が関わる「注文書」とともに売上証憑資料として特に有効な証憑資料となります。
(考察)売掛金の回収状況の確認
- ・仮に3月決算の会社で売掛金の回収サイトが「末締め翌月末日」の場合、期末日の出荷売上(顧客は4月仕入計上)の回収は5月末日になります。
- ・3/28出荷で顧客が3/31に受け取った場合ならば、4月末日入金のため、何とか通常の期末監査期間に間に合います。
開示事例
「EDINET」にて、「第98項」の文字列で過去1年間の有価証券報告書を全文検索した結果、483件がヒットしました。これは上場企業数約4,000社の12%程になります。
10社程閲覧し、「会計方針に関する事項(重要な会計方針)」の「重要な収益及び費用の計上基準」に記載の「出荷基準」に関する文言を確認しました。
<開示の記載事項の例-出荷基準>
- ・〇〇の国内の販売は顧客に引き渡した時点で顧客が支配を獲得し、履行義務が充足される旨
- ・しかし、出荷時点から引き渡しまでの期間が通常の期間と考えられる旨
- ・従って、適用指針第98項の代替的な取り扱いを適用し、出荷時点で収益認識している旨
会計基準等
※2024年2月23日現在。リンク先の会計基準等・参考文献は最新版でない場合があります。
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
・収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)
・収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号)
・監査基準報告書505「確認」 (監査・保証基準委員会)