回収サービス業務はなぜ資産計上するのか?|仕訳を具体的に解説

デスク上の電卓と会計書類

執筆日:2023年10月16日

※本記事は、2023年10月16日現在に公表・適用されている会計基準等を参考にしています。

※対象:上級者・実務家

※本記事は著者の見解を述べています。

※本記事は、他記事と比較して検討の余地が大きいと考えており、今後の著者の研鑽によって、情報更新する可能性があります。

「金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号。以下、「金融商品会計基準」)」の定めに従えば、債権譲渡による債権消滅の際には、譲渡債権の残存部分として、「回収サービス業務」等を資産計上することがあります。

しかし、金融商品会計基準や「金融商品会計に関する実務指針(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号。以下、「金融商品実務指針」)」では、回収サービス業務を資産化する理由をはじめ会計処理の論拠が記載されておらず、また会計処理が特殊であるため、会計の専門家であっても解釈が難しい論点です。

本記事では、回収サービス業務の会計処理について、「金融商品会計基準」や「金融商品実務指針」に基づき、概要や会計処理・仕訳を解説するとともに、資産計上する理由をはじめ、会計基準の難解な文言解釈について、実務家公認会計士としての著者の見解を理論的に展開します。

1.回収サービス業務とは

回収サービス業務」とは、貸出債権や売上債権等の金融資産の管理・回収に関する業務をいいます。

金融商品会計基準が原則的な考え方として採用する「財務構成要素アプローチ」によれば、金融資産は「将来の現金の流入」「回収サービス権」「信用リスク」及びその他の要素といった「財務構成要素」に分解できます。

この「回収サービス権」が「資産化した回収サービス業務」に該当します(以上、金融商品実務指針 第30項参照)。

2.会計処理

はじめに会計処理の概要を示すと次の通り。

(1)譲渡人が譲受人に対して金融資産を譲渡した場合には、「財務構成要素アプローチ」に基づき、当該金融資産から分解した各財務構成要素が金融商品会計基準に定める「権利の喪失」又は「契約上の権利に対する支配が譲渡人から譲受人に移転するための要件」を満たした場合には、譲渡人は当該財務構成要素の消滅を認識するとともに、当該部分の帳簿価額と受取対価との差額を当期損益として処理します。消滅部分の帳簿価額は、当該金融資産全体の時価に対する消滅部分と残存部分の時価の比率により、当該金融資産全体の帳簿価額を按分して計算します(金融商品会計基準 第11項、第12項)。

(2)金融資産の消滅に伴って新たな金融資産又は金融負債が発生した場合には、当該金融資産又は金融負債は時価により計上します(金融商品会計基準 第13項)。

特に「回収サービス業務」の詳細について、キーワードを掲げて示すと次の通り。

2-1.残存部分

債権のうち、消滅した財務構成要素部分は上述(1)の通り会計処理しますが、譲渡人が「回収サービス業務」を行う契約の場合には、「回収サービス権」を「残存部分」として資産計上します(金融商品実務指針 第36項)。

2-2.新たな負債

「回収サービス業務」は、後述の通り、上述(2)に基づき、「新たな負債(義務)」として計上されることがあります(金融商品実務指針 第36項参照)。

2-3.資産・負債の測定

「回収サービス業務」が残存部分として存在する場合、資産価額は債権の帳簿価額を「回収サービス業務」の時価と消滅部分の時価とで按分して計算します。

「回収サービス業務」を新たな負債として計上する場合には、譲渡時の時価により計上します(以上、金融商品実務指針 第37項)。

※本記事では「回収サービス業務」の資産・負債計上に焦点を当てていることから、時価を合理的に測定できない場合については記載を省略します。

2-4.通常得べかりし収益

「回収サービス業務」の資産・負債計上は、次の通り、「回収サービス業務」により得られる収益が「通常得べかりし収益」を上回るかどうかで決まります。

2-5.資産又は負債の計上

金融資産の消滅に伴って留保した回収サービス業務について、管理回収等のサービス業務提供に伴う実際の回収サービス業務収益が「通常得べかりし収益」を上回る場合には、金融商品実務指針第37項に従って残存部分である回収サービス業務資産の計上価額を決定し、実際の収益が通常得べかりし収益を下回る場合には、下回る部分の時価を新たに発生した回収サービス業務負債として認識します(金融商品実務指針 第39項前段)。

2-6.未収収益と前受収益

回収サービス業務資産又は負債は、未収収益又は前受収益(サービス期間が1年超の場合には長期未収収益又は長期前受収益)として計上し、サービスの対象となる残高又は件数に比例して、サービス期間にわたり償却します。 資産計上後、回収サービス業務資産に著しい価値の下落があった場合には回収可能額まで評価減します。また、回収サービス業務負債が著しく増加する場合には、当該増加を当期の損失として認識します(金融商品実務指針 第39項中段・後段)。

3.仕訳例

貸出債権1,000を1,050で売却した。「通常得べかりし収益」が20の場合において、

3-1.時価が通常得べかりし収益を上回る場合の仕訳

「回収サービス業務」の時価が25の場合

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金預金1,050貸付金1,000
未収収益(回収サービス業務資産)23 ※1債権売却益73

※1:回収サービス業務資産
・消滅債権 = 債権帳簿価額1,000 × 現金収入(消滅部分の時価)1,050 / ( 現金収入1,050 + 回収サービス業務時価25 ) = 977
・回収サービス業務資産 = 債権1,000 - 消滅債権977 = 23

3-2.時価が通常得べかりし収益を下回る場合の仕訳

「回収サービス業務」の時価が16の場合

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金預金1,050貸付金1,000
債権売却益46
前受収益(回収サービス業務負債)4 ※1

※1:通常得べかりし収益20 - 回収サービス業務の時価16

4.著者の見解

以上の会計基準等に基づき、なぜ、回収サービス業務はこのような会計処理になるのかについて、金融商品会計基準・実務指針の文言を解釈することで、私の見解を説明します。

4-1.「通常得べかりし収益」とは

「通常得べかりし収益」とは、以下の理由から「債権譲渡していなければ発生していたであろう債権回収コスト」を示していると考えます。

4-1.の理由

「得べかりし収益」とは、「逸失収益」、すなわち「債権譲渡していなければ得られた収益」を意味します。そして、ここでは債権譲渡の際に締結した回収サービス業務の時価との比較で「通常得べかりし収益」の文言記載があるため、「債権譲渡していなければ得られた通常の回収に関する収益」と解釈できます。

次に、なぜ「収益」なのに「債権回収コスト」が比較対象になるのかというと、貸出債権の「利益稼得能力」を問うている、ということです。

つまり、貸出債権であれば金利や債権回収により収益を獲得しますが、この貸出債権から得られる収益が、債権回収時に発生する人件費や手数料などの回収コストを上回るか、それとも下回るのかによって「回収サービス業務の消滅の可否」を判定するために、「当該貸出債権を譲渡せず、自社回収していた場合に通常発生すると考えられる回収コスト」が「通常得べかりし収益」に該当する、と考えるのです。

4-2.上回る場合と残存部分の資産計上(考察付き)

債権譲渡の際に測定した回収サービス業務の時価が、「通常得べかりし収益」を上回る場合に、なぜ残存部分として資産を計上するのかは次の通りです。

4-2.の理由

4-1.で説明した通り、譲渡債権は債権回収コストに対応する収益を得る能力を有しています。そして、回収サービス業務の時価が「通常得べかりし収益たる債権回収コスト」を上回る場合には、債権消滅の要件である「権利の喪失」や「権利に対する支配の移転」を満たさないと考えられることから、回収サービス業務は消滅せず(金融商品会計基準 第12項、第8項参照)に残存部分となります。

次に、譲渡債権の残存部分である「回収サービス業務」は、将来の収益(回収サービス業務の時価)を生み出す能力を有することから、「譲渡人が支配する将来の経済的資源の流入が期待されるもの」という資産の定義を満たします。

従って、時価を合理的に測定できる場合には、当該回収サービス業務は資産計上すべきです。

4-3.上回る場合の資産価額(補足付き)

次の通り、上回る部分5(時価25 - 通常得べかりし収益20)だけでなく、回収サービス業務の時価全額25を、帳簿価額の按分計算に使用して、回収サービス業務の資産価額とします。

4-3.の理由

「通常得べかりし収益」を債権回収コストと捉えた場合、回収サービス業務の時価が「通常得べかりし収益」を上回る部分は、回収サービス業務に係る「利益」に該当します。

しかし、人件費・手数料などの債権回収コスト(通常得べかりし収益)は、債権譲渡後の回収サービス業務においても費用として発生しP/L計上することから、対応する未収収益(後述で説明)として資産計上すべき金額として帳簿価額の按分計算に用いるインプットは、利益部分に相当する5ではなく、費用に対応する収益としての回収サービス業務の時価全額である25に他なりません。

また、回収サービス業務の資産価額を、取得時のインプットである「通常得べかりし収益20」とする(消滅部分は980)考え方もあると思われますが、債権譲渡に伴う債権の財務構成要素への分解という資産再評価の機会に、帳簿価額を最新のインプットである譲渡時の時価で按分して資産計上することが、資産評価の観点からは、より適当な方法と考えます。

4-4.上回る場合の未収収益の計上(補足付き)

上記「3-1.時価が通常得べかりし収益を上回る場合の仕訳」で示した1つの仕訳は、金融商品実務指針の「設例2」と同様の仕訳を示しましたが、次の通り、2つの仕訳に分解して考えることができます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金預金1,050貸付金1,000
債権売却益50
未収収益(回収サービス業務資産)23回収サービス権発生益 ※123

※1:科目の一例

この仕訳の通り、回収サービス業務資産は「未収収益」として資産計上します。

4-4.の理由

債権譲渡時に締結した回収サービス業務に関する契約は「役務提供契約」に該当することから、原則としてサービス提供時に収益計上します。

しかし、回収サービス業務資産は債権譲渡時に「サービス回収権」として締結した「契約上の権利」でもあります。この場合、金融商品会計基準では金融資産の発生の認識要件を満たす(金融商品会計基準 第7項)ことから、この時点で「発生益」として収益計上します。

そして、現金は将来の回収サービスの提供に応じて流入することから、回収サービス権は未収収益として計上します。

4-5.下回る場合と新たな負債(前受収益)の計上

回収サービス業務の時価が「通常得べかりし収益」を下回る場合には、下回る部分の時価を新たに発生した回収サービス業務負債(前受収益)として計上します。

上記「3-2.時価が通常得べかりし収益を下回る場合の仕訳」で示した1つの仕訳は、金融商品実務指針の「設例2」を参考にした仕訳を示しましたが、次の通り、2つの仕訳に分解して考えることができます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金預金1,046貸付金1,000
債権売却益46
現金預金4前受収益(回収サービス業務負債)4

4-5.の理由

回収サービス業務の時価が「通常得べかりし収益」を下回る場合には、貸出債権に含まれる回収サービス業務の権利は喪失したと考え、回収サービス業務を含む貸出債権全体(帳簿価額1,000)の消滅を認識する(金融商品会計基準 第12項、第8項)とともに、譲受人と締結した回収サービス業務は「新たな契約の締結」と考え、金融資産ではなく、「役務提供契約」として、収益を認識します。

つまり、「収益認識に関する会計基準」を適用して回収サービス提供に応じて収益を認識します。

ここまでの仕訳を示すと次の通り。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金預金1,050貸付金1,000
債権売却益50

しかし、債権売却益50のうち、回収サービス業務の時価16が「通常得べかりし収益20」を下回る部分4は、譲渡人が譲受人に未だ果たせていない回収サービス業務上の義務(履行義務)を表すと考えられることから、債権譲渡時点では収益認識は認めらないとします。

そこで、債権売却益を50から46に減らすとともに、将来に提供するサービス義務として「前受収益4」を計上します(対応する借方は現金預金4)。

以上から、上記の仕訳になります。

開示事例

「EDINET」にて「通常得べかりし収益」「回収サービス」を文字列とした全文検索で過去一年間の有価証券報告書を閲覧したところ、数社の回収サービス業務を資産計上している事例が見つかりましたが、上記「4.著者の見解」の方法で会計処理を行っている情報が掲載されたものは見つかりませんでした。

上記有報のうち、2社ではサービス業務資産価額の算定方法が示されていましたが、1社は回収サービス業務の時価(と思われる内容)が「通常得べかりし収益」を上回る場合には、時価全額ではなく「上回る部分」の見積将来キャッシュ・フローの現在価値を未収収益計上したといった旨の記載であり、もう1社は両者(と思われる内容)が近似しているため資産・負債計上していない旨の記載でした。

最後に(コメント付き)

以上、回収サービス業務の会計処理について、私の見解をもって仕訳を用いながら会計基準等を解釈しました。

難解な会計処理ですが理解の一助になれば幸いです。

会計基準等

※2023年10月16日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)
金融商品会計に関する実務指針(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号)
収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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