移転された/投資したとみなされる額とは|会計用語の解説

事業買収

執筆日:2023年10月28日

※本記事は、2023年10月28日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。

※対象:上級者・実務家

※本記事では、「事業分離会計」自体の解説ではなく、関連用語を解説しています。本記事を理解するには事業分離会計の知識が必要です。

※本記事の一部では、著者の見解を述べています。

※本記事の計算式(数式)や数式上の文字、証明は会計基準等や専門書籍のものではなく、著者のオリジナルです。

事業分離会計が難しい理由の1つは「仕訳の理解」です。

私の学習体験上、事業分離の連結財務諸表上の仕訳では「移転されたとみなされる額」と「投資したとみなされる額」が登場しますが、これらの「計算式」や「両者が同額となる点」を理解しないと、暗記だけでは実務で活用できる知識にはなりません。

しかし、「急がば回れ」の諺通り、これらの用語を理解すれば、苦手意識が無くなるどころか、一気に事業分離会計の理解が深まります。

本記事では、事業分離会計の用語として、「移転されたとみなされる額」及び「投資したとみなされる額」について、概要と、両者が同額となることの数式による証明などによって、理解に役立つように解説します。

1.「移転されたとみなされる額」と「投資したとみなされる額」とは

移転されたとみなされる額」とは、分離元企業(親会社又は投資会社)の事業が分離先企業(子会社又は関連会社)に移転したとみなされる額をいい、「移転した事業の事業分離直前の時価」に「移転した事業に係る減少した親会社・投資会社の持分比率」を乗じた額をいいます。

投資したとみなされる額」とは、分離先企業(子会社又は関連会社)に対して投資したとみなされる額をいい、「子会社・関連会社の事業分離直前の時価」に「事業分離により増加する親会社・投資会社の持分比率」を乗じた額をいいます。

※両者ともに、事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有していない場合の定義。

どちらも、事業分離に係る連結財務諸表上の会計処理で登場します。「移転されたとみなされる額」は「親会社の持分変動による差額の計上(資本剰余金の計上)」に係る仕訳で登場し、「投資したとみなされる額」は、「のれんの計上」に係る仕訳で登場します(以上、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(企業会計基準適用指針第10号)。以下、「事業分離適用指針」」第98項、第100項参照)。

2.用語が登場する取引

「移転されたとみなされる額」及び「投資したとみなされる額」の計算が必要になる取引は、事業分離会計のうち、事業の対価として分離先企業の株式を受け取った結果、分離先企業が「子会社」又は「関連会社」となる場合です(事業分離適用指針 第98項から第101項)。

※事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有している場合(第99項、第101項)と保有していない場合(第98項、第100項)とがあります。

※上記「1.「移転されたとみなされる額」と「投資したとみなされる額」とは」に記載の通り、本記事では、事業分離前に分離元企業が分離先企業の株式を保有して「いない」場合を前提として解説しています。

3.計算式・計算例

冒頭の定義の通り、それぞれ「事業時価」「投資額」そのものではありません。この点、言葉から脳が連想するイメージを意識的に書き換える必要があります(定義の解釈は、後述「5.両者が同額となることの数式による証明」及び「6.(考察)数式と言葉で両者を説明すると」で解説)。

それぞれ、次の通り計算します。

例えば、P社が有するa事業(直前時価100億円)を、事業分離してS社(直前時価25億円)に移転し、対価としてS社株式を受け取った結果、P社のS社持分比率が0%から80%に増加した結果、S社がP社の子会社になった場合には、

・移転されたとみなされる額 b
= c0 × (1 - e1) = 100 × (1 - 0.8) = 20億円
・投資したとみなされる額 i = s0 × e1 = 25 × 0.8 = 20億円

となります。

4.両者の関係

「移転されたとみなされる額」と「投資したとみなされる額」は「必ず同額」になります(事業分離適用指針 第98項から第101項を参照)。

この点について、上記の数式を使って証明します。

5.両者が同額となることの数式による証明

はじめに、分離元企業(親会社又は投資会社)の「事業分離後の持分比率 e1(分離元企業の事業分離直後の持分比率)」を、「c0(移転した事業の事業分離直前の時価)」と「s0(分離先企業の事業分離直前の時価)」を使って分離先企業(子会社又は関連会社)の時価ベースで表すと

(1) e1 = c0 / (s0 + c0)

また、「4.計算式・計算例」より、

(2) b = c0 × (1 - e1)
(3) i = s0 × e1

(1)の両辺に (s0 + c0)を乗じると

(s0 + c0) × e1 = c0

左辺を展開すると

s0 × e1 + c0 × e1 = c0

左辺の「c0 × e1」を右辺に移項して

s0 × e1 = c0 - c0 × e1

右辺をc0でまとめると

s0 × e1 = c0 × (1 - e1)

(2)と(3)より

b = i

以上の通り、持分比率e1の関係式から、両者が同額であることを証明できました。

6.(考察)数式と言葉で両者を説明すると

言葉も補足して、「移転されたとみなされる額」と「投資したとみなされる額」を分かりやすく説明すると、両者は「連結会計への影響額」を表している、ということです。

以下、事業分離元企業の事業を事業分離先企業に移転した結果、事業分離先企業が子会社となった場合を例としてそれぞれ説明すると次の通り。

6-1.移転されたとみなされる額

上記例の場合、事業分離会計の基本的な考え方に基づけば、事業分離元企業の事業への投資は「継続している」と考えます。

しかし、連結会計上においての親会社の持分(継続部分)は移転事業時価c0に持分比率e1を乗じた「c0 × e1」であり、残りの「1 - e1」で表される「非支配株主持分比率」の部分「c0 × (1 - e1)」は、連結会計上、「移転された」と考えることができます。つまり、「移転されたとみなされる額 b」は事業分離の結果、「親会社が失った連結会計上の影響額」ということです。

従って、「(2) b = c0 × (1 - e1)」になります。

6-2.投資したとみなされる額

当初の私の感覚では、「投資した額」にも関わらず、「(3) i = s0 × e1」というように、なぜ子会社の事業分離直前の時価 s0 が式に含まれるのか分かりませんでした。「投資」なのだから、s0ではなくc0が式に入るはずと思いましたが、これでは、bと同じ式になってしまいます。

そこで少し考えた結果、

「(3) i = s0 × e1」は、「投資した結果、親会社が獲得した連結会計上の影響額」である

と考えれば自分自身を納得させることができました。

このように考えると

失った b = 獲得した i

といったように、bとiの交換関係が成立します。

7.まとめ

以上、事業分離会計の重要用語である「移転されたとみなされる額」と「投資したとみなされる額」について、解説しました。

事業分離会計の理解が進まない場合には、これらの用語の理解を深めることで事業分離会計の仕訳が分かるようになります。

8.会計基準等

※2023年10月28日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

事業分離等に関する会計基準(企業会計基準第7号)
企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(企業会計基準適用指針第10号)

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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