棚卸資産とは
記事最終更新日:2021年8月24日
記事公開日:2012年4月16日
棚卸資産とは何かについて、貸借対照表上の区分や資産である理由とともに、棚卸資産の種類と様々な表示科目が会社の活動の中でどのように使用されるのかに着目して具体例を挙げながらわかりやすく解説します。
棚卸資産とは
目次
棚卸資産とは
棚卸資産(たなおろししさん)とは、仕入れ製造や販売、その他販売活動や一般管理活動のために保有される資産をいいます。
(引用)企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書 連続意見書四 第一 企業会計原則と棚卸資産評価
(七 棚卸資産の範囲)
「貸借対照表に棚卸資産として記載される資産の実体は、次のいずれかに該当する財貨又は用役である。
(イ)通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役
(ロ)販売を目的として現に製造中の財貨又は用役
(ハ)販売目的の財貨又は用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨
(ニ)販売活動および一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨)」
年に1回や半年に1回、月末等、区切りのいい時に在庫をカウントすることを棚卸といい、この棚卸を行う対象となる資産であることからこのように呼びます。
棚卸資産の種類
上記引用の連続意見書の(イ)から(ニ)の説明に照らし合わせて分類すると次の通りです。
- (イ)商品、製品など
- (ロ)仕掛品など
- (ハ)原材料、部品など
- (ニ)事務用消耗品など
棚卸資産と一言であっても、沢山の種類が存在します。
貸借対照表上の区分と表示科目
棚卸資産は貸借対照表上では、正常営業循環基準の判定によって流動資産として区分表示されます。
次に棚卸資産の主な表示科目を挙げると次の通りです。
- ・商品及び製品
- ・仕掛品
- ・原材料及び貯蔵品
次の図の通り、棚卸資産は、仕入や製造、販売といった会社のビジネス活動の各段階に応じて科目を使い分けます。
棚卸資産が資産である理由
資産とは、「将来、入金されそうなお金や提供を受けるモノやサービス」をいいます。
棚卸資産は仕入や製造活動によって会社に保有され、将来販売活動を行うことによって売上や利益となり、お金になります。
以上から棚卸資産は資産であるといえます。
逆に言えば、販売された場合には資産の定義に該当しなくなるため貸借対照表上の棚卸資産の金額を減少し、「費用収益対応の原則」によって売上という成果に対応する努力(貢献とも)たる売上原価として損益計算書に表示します。
棚卸資産の科目と製造・仕入・販売活動との関係
上記の図の通り、棚卸資産は会社のビジネス活動の各段階によって、科目が変わっていきます。
以下、科目の移り変わりについてズボンを製造し販売する会社を例にして説明します。
話を単純化するために布地と糸と針だけでズボンを製造するとし、また、労働者の作業やその他、製造するために間接的に発生するコスト(工場の地代家賃、水道光熱費、教育研修費等)は考慮しないこととします。
1.原材料、消耗品等の購入
ズボンを製造するために原材料となる布地を購入します。今回は布地を100で購入したとします。
また、布地を縫うために糸や針を合計で10購入します。
これらはズボンの主な構成要素ではなく補助的なものとなりますので、消耗品等ということとなり、貯蔵品として扱います。
但し、布地と比較して金額が小額であり、年度末のたな卸しが煩雑なため、資産には計上せずに購入時に費用にするという選択もできる余地があります(この辺はケースバイケースです)。
また、針ではなくミシンを使用する場合であれば「固定資産」として計上します(ただし、資産には計上せず、購入時に費用にするという選択もできる場合があります。実務上は金額も含めていくつかの判断基準に沿って検討し、固定資産に計上するのか、全て費用とするのかを決めます)。
話を元に戻します。以上から、原材料及び貯蔵品は100+10=110となりました。
この時点で貸借対照表を作成した場合には、次の左図の通りです。
2.製造に投入
この購入した原材料及び貯蔵品のうち、布地80、糸と針を5、製造に投入しました。
この時に原材料及び貯蔵品110のうち、80+5=85が仕掛品になります。
従って、原材料及び貯蔵品は110-85=25となります(右上図)。
3.製造中
ズボンを製造するため、これら布地を糸と針を使って縫っていきます(上の図で製造中のプロセスです)。
この段階では、貸借対照表は上の右図から変化はありません。
4.完成
製造の結果、85の仕掛品のうち、70(ズボン7本)が完成しました。
この時点で、85の仕掛品のうち、70が完成品(製品)となりますので、貸借対照表は左下の通りです。
5.出荷、販売
完成したズボン7本のうち、5本をデパートや衣服屋さんに出荷し、販売したとします。
いわゆる「卸売(おろしうり)」と呼ばれる販売形態です。
これに対して、このデパートや衣服屋さんが最終消費者である個人のお客さんへ販売するのは「小売(こうり)」といいます。
話を元に戻しますと、ズボン5本を小売業者に販売しました。
従って、金額で50(70÷7×5)を販売したことになります(ズボン1本=10)。
ちなみにこの10という金額は、ズボン1本を作るのにかかったお金です。完成品である製品を作るのにかかったお金のことを「原価(げんか)」といいます。「ズボン1本当たりの原価は10である」といった使い方をします。
この会社ではズボン1本を15で販売するとします。また、販売時には売掛金とし、1ヶ月後に現金を回収するとします。
以上の結果、出荷、販売した時の貸借対照表は右上図のようになります。同時に損益計算書も掲載してみましたのでご参考ください。
「売掛金」は15×5=75です。売上高(実現主義によって計上)も同額になります。
また、商品及び製品が50減少して、同額を売上原価に計上します。
6.現金の回収
販売後、1ヶ月が経過しデパートや衣服屋さんから無事、お金を銀行の預金口座に振り込んでもらうことができました。
この時の貸借対照表は次の通りです(損益計算書は変化なし)。
商品を仕入れて販売する場合
上述に説明した製造会社の場合のうち、製造する部分が存在しないケースを考えればよいだけです。
つまり、<1.原材料、消耗品等の購入>から<4.完成>の部分を自社ではなく、外部の製造メーカーが行っていて、自社はその外部メーカーからズボンを仕入れいているというケースを想定すればいい、ということです。
従って、最初の段階で<商品の仕入れ>という営業活動プロセスが存在し、その後<出荷、販売待ち>を経て<5.出荷、販売>というプロセスに達し<6.現金の回収>に進みます。
自社でズボンを製造しない分、原材料、消耗品等を購入しないため在庫になりませんし、製造のための工場や労働者も必要ありません。
一方で、そのような製造を行ったメーカーから商品としてズボンを仕入れるため、製造するよりもズボン1本当たりの(売上)原価が高くなります。
必然的に販売する際の価格(販売価格)を高く設定することになります。
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。