分記法とは|仕訳方法や実務上の問題点を解説(簿記上級)
執筆日:2023年8月16日
商品売買取引の仕訳には「三分法(三分割法)」を使うのが一般的ですが、他にも様々な方法が存在し、「分記法」もその1つです。
本記事では、「分記法」の仕訳方法や仕訳の特徴(あまり使われない理由含む)、分記法導入時の実務上の問題点を解説します(上級者対象)。
分記法とは|仕訳方法や実務上の問題点を解説(簿記上級)
目次
分記法の仕訳一覧(まとめ)
はじめに仕訳の一覧を示します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
商品の購入 | 商品 | ××× | 買掛金など | xxx |
商品の販売 | 売掛金など | ××× | 商品 | xxx |
商品販売益 | xxx | |||
値引き | 商品販売益 | xxx | 売掛金など | xxx |
返品 | 商品 | xxx | 売掛金など | xxx |
商品販売益 | xxx | |||
決算整理仕訳 | 仕訳なし |
以下、詳細を解説します。
分記法とは
「分記法」とは、商品売買取引の仕訳方法の1つであり、「商品」「商品販売益」で仕訳する方法をいいます。
仕訳の特徴(分記法が一般的でない理由)
商品残高と粗利額がリアルタイムに把握できる
「三分法」と比較すると、「仕入」「売上」を使わず、商品購入・販売時の都度、「商品」勘定1つで処理します。
また、販売時には粗利を「商品販売益」で、都度、記帳します。
従って、帳簿上の商品残高と粗利額がいつでも把握できます。また、決算時に「決算整理仕訳」を記帳せずとも、既に商品勘定残高が「期末商品額」になっています(ただし、実地棚卸に伴う棚卸減耗の発生や、利益計算の確定手続きなどが存在する場合には、決算整理仕訳が必要です)。
売上・売上原価の計算・集計が煩雑
購入・販売ともに「商品」で記帳することから、売上高と売上原価どちらも決算手続きで計算・集計する必要があります。
特に、期中の仕入・販売の単価設定や売上・売上原価の計算の自動化など、会計システムとは別に、高機能な販売・仕入・在庫システムを導入して運用しない限り、売上・売上原価の計算・集計手続きには時間を要する span>ことになります。
このように、メリットがある一方で、期中の記帳や決算時の売上・売上原価の計算・集計について運用上の課題が存在するため、「分記法」は一般的にはあまり採用されません。
活動別の仕訳方法
分記法の仕訳方法について、活動別に解説します。
商品購入時の仕訳
分記法では「仕入」は使用せず、「商品(資産に属する勘定科目)」を借方に記入し、貸方には、「買掛金」などの支払手段の勘定科目を記入します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
商品の購入 | 商品 | ××× | 買掛金など | xxx |
商品販売時の仕訳
商品が減少するため、「商品」を仕入額(販売商品の原価。「先入先出法・平均法などにより計算した仕入単価」×「販売数量」)で貸方に記入し、借方には「売掛金」などの代金回収を販売額で記入します。
発生する貸借差額は「利益(粗利)」になるため、「商品販売益」を貸方に記入します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
商品の販売 | 売掛金など | ××× | 商品 | xxx |
商品販売益 | xxx |
値引きの仕訳
商品販売時の仕訳の「反対仕訳」を記帳しますが、値引きとは「粗利の減少」であることから、借方は「商品販売益」のみを記帳し、一方で商品自体の販売原価は変わらないため、「商品」は記入しません。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
値引き | 商品販売益 | xxx | 売掛金など | xxx |
返品の仕訳
値引きと異なり、商品が戻ってくることから、商品自体も増加するため、商品販売時の仕訳の「反対仕訳」を記帳します。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
返品 | 商品 | xxx | 売掛金など | xxx |
商品販売益 | xxx |
決算整理仕訳
上記の「仕訳の特徴(分記法が一般的でない理由)」で解説した通り、販売の都度、販売額に対応する仕入額だけ、商品を減少させる仕訳を記帳しており、リアルタイムに商品残高を把握できることから、「三分法」のように期末商品を計上する決算整理仕訳は記帳しません。
従って、決算手続きでは「仕訳なし」になります。
ただし、商品実地棚卸の結果、「棚卸減耗」が生じたり、「棚卸資産会計基準」の適用の結果、期末時点において、正味売却価額が取得原価を下回っているため、簿価を回収可能価額まで切り下げる必要があるなどの場合には、別途、各種の決算整理仕訳が必要です。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
決算整理仕訳 | 仕訳なし |
売上高・売上原価の計算(実務上の問題点)
「三分法」では、売上高は「売上」勘定で集計し、売上原価は「仕入」勘定において「仕入/繰越商品」「繰越商品/仕入」の決算整理仕訳を記帳することで集計するため、会計帳簿で売上高・売上原価の集計が済んでしまいます。
これに対して「分記法」では、仕入と販売のどちらも「商品」勘定で処理することから、会計記帳のみでは売上高と売上原価の集計作業は完結せず、別の集計作業が必要になります。
実務では、仕訳の間違いや訂正仕訳が存在することから、単純計算で「商品勘定の貸方合計 = 売上原価」「商品勘定の貸方合計 + 商品販売益残高 = 売上高」とはなりません。
商品売買取引が大量に発生する場合、会計監査に対応出来る程の有効な内部統制を構築・運用するには、販売・仕入・在庫管理システムを導入するとともに、売上高・売上原価を自動計算できるような運用が求められます。