ローン・パーティシペーションとは|会計処理・表示・注記方法
執筆日:2023年10月9日
※本記事は、2023年10月9日時点の会計基準等や規制に基づいています。
※対象:上級者・実務家
※本記事の一部で著者の見解や憶測を述べています。
「ローン・パーティシペーション」とは、金融業界の用語の1つであるとともに金融商品会計の用語でもあります。
金融商品会計基準上、経過措置として例外的な会計処理が認められており、さらに、「ローン・パーティシペーション」に特化した会計処理・表示に関する実務文書が日本公認会計士協会から公表されています。
本記事では、「ローン・パーティシペーション」の会計処理と開示について、当該取引の必要性や開示事例も含めて解説します。
ローン・パーティシペーションとは|会計処理・表示・注記方法
目次
ローン・パーティシペーションとは
「ローン・パーティシペーションの会計処理及び表示(会計制度委員会報告第3号。以下、「委員会報告第3号」) 第2項」では、次の通り、定義しています。
「ローン・パーティシペーション」とは、金融機関等からの貸出債権に係る権利義務関係を移転させずに、原貸出債権に係る経済的利益とリスクを原貸出債権の原債権者から参加者に移転させる契約をいいます。
仕組みの概要
債務者への貸出債権を有する「原債権者」が、ローン・パーティシペーションの「参加者(単一の場合も複数人の場合もあり)」に対して、貸出債権の一定割合(参加割合)について、元利金として支払われた金銭等を受け取る利益(以下「参加利益」)を与える一方で、参加者は原債権者に対し、その対価として一定の金銭を支払います。
原債権者は、参加者に売却した貸出債権に関する将来的な経済的利益を実質的に放棄するとともに、当該債権から生じるリスクからも開放され、これらの利益とリスクは実質的に参加者に移転します。
債務者はローン・パーティシペーション契約の当事者ではありません。従って、法律上は、原債権者と債務者との間の金銭貸借契約は有効なままです。
ローン・パーティシペーションは、金融業界の取引として英米の金融市場で発達し、下記の理由から、日本国内でも広く活用されています。
ローン・パーティシペーション活用の背景・メリット
金融機関に対する規制である「自己資本比率」の改善に役立つことから、日本でも自己資本比率規制(バーゼルⅠ-Ⅲ)の導入以来、ローン・パーティシペーションが広く採用されています。
金融機関の自己資本比率は、「リスク・アセット(貸し倒れの可能性がある資産)に対する資本金等、自己資本の割合」で計算されるため、リスク・アセットを減らすことで自己資本比率を改善させることができます。
しかし、貸し倒れの可能性ある債権を譲渡しようにも、債務者の承認が得られない場合もあります。
この点、「ローン・パーティシペーション」を締結した場合には、原債権者が参加者に売却した貸出債権は、規制上、「リスク・アセットの減少」として認められていることから、債務者の承認が得られない場合において自己資本比率の改善に役立ちます。
会計処理の特徴
「金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号。以下、「金融商品会計基準」)」で定める「金融資産の契約上の権利に対する支配の移転に関する要件(金融商品会計基準 第9号参照)」を満たさないにも関わらず、貸出債権のうち参加割合の分に関する「リスクと経済価値」が原債権者から参加者にほとんど全て移転している、と認められる「一定の要件」を、ローン・パーティシペーションが満たした場合には、貸出債権の消滅を認識する会計処理が認められることです。
すなわち、ローン・パーティシペーションは法的には債権譲渡に該当しないことから、貸出債権の契約上の権利に対する原債権者から参加者への支配の移転は、会計基準の原則上、認められず、従って貸出債権の消滅には該当しません。しかし、「契約上の形式」よりも、リスクと経済的利益が移転するという「経済的実態」を会計に反映させることが適当という判断に基づき、貸出債権の消滅としての会計処理を「特例措置」として認めています。
当該貸出債権の消滅は、後述の通り、「リスク・経済価値アプローチ」の考えに基づき会計処理します。
さらに、ローン・パーティシペーションは例外的な取り扱いであることから、後述の通り、注記事項(追加情報)の対象となります。
(参考)権利に対する支配の移転の可否
「権利に対する支配の移転」は、金融資産の消滅要件の1つです(金融商品会計基準 第8項)。この要件を満たすための要件が3つあり、全て満たす必要があります(金融商品会計基準 第9項)。
この3要件の1つは「譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること」ですが、例えば、譲渡人(原債権者)が破産した場合において、破産管財人が譲受人(参加者)に対して、「返還請求権」を行使できないことを意味します。この場合、参加者が「債権譲渡の第三者対抗要件(債務者の承認など。民法467条)」を満たす場合には「法的に保全」されているものとして取り扱います(金融商品実務指針 第31項)。
しかし、ローン・パーティシペーションは債権譲渡には該当せず、従って、第三者対抗要件を満たせないことから、「法的に保全」されていると認められません。
以上から、原債権者から参加者への権利に対する支配の移転には該当しないため、金融商品会計基準の原則的な要件では貸出債権の消滅は認められません。
(参考)委員会報告第3号におけるローン・パーティシペーションの会計上の性格(コメント付き)
委員会報告第3号では、ローン・パーティシペーションの会計上の性格について、「参加権の創設と参加者による取得」「原貸出債権に内在した何らかの権利の売却」等のとらえ方が可能であるとしつつ、日本の法制度を鑑みると「元利金として支払われた金銭等を受け取る利益(参加利益)の売却」と捉えることが適当としています(委員会報告第3号 第12項参照)。
<コメント>委員会報告第3号の難易度
- ※金融業界の取引であることや、債権関連の法観点の判断に基づく会計処理設定上の側面が強いことから、他の会計基準等と比較しても理解が難しい会計文書だと思います。
特別目的会社が参加者の場合
「金融商品会計に関する実務指針(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号。以下、「金融商品実務指針」)」の定めにおいて、特別目的会社がローン・パーティシペーションの参加者である場合には、原債権者は債権の消滅を認識できません(金融商品実務指針 第41項)。
これは、委員会報告第3号の作成時に、特別目的会社を参加者とすることは想定されていなかったためです(「金融商品会計に関するQ&A」 第41項参照)。
適用する会計基準等
会計基準としては「金融商品会計基準 第42項の特例措置」が根拠条項です。また、金融商品会計基準上にて、金融商品実務指針を参照するよう定めています(金融商品会計基準 第2項)。
具体的な会計処理と開示については、委員会報告第3号に定めがあり、当該定めのうち、債権譲渡としての取り扱いが認められる要件を満たしたローン・パーティシペーションについて、金融資産の消滅の認識を認める、と「金融商品実務指針 第41項」が定めています。
つまり、委員会報告第3号自体は金融商品会計基準上の参照文書には該当しませんが、金融商品実務指針を経由して、間接的に会計基準の参照文書に該当します。
会計処理
次の通り。
原債権者
ローン・パーティシペーションのうち、次の要件を満たす場合には、リスクと経済的利益の移転という経済的実態を会計に反映するため、債権譲渡として取り扱うものとし、参加利益の対価の受取時に、原債権者が有する原貸出債権のうち参加割合に相当する部分を参加者に売却したものとして会計処理します(委員会報告第3号 第4項)。
<ローン・パーティシペーションにより、貸出債権の消滅を認識するための要件>
- 引用元:ローン・パーティシペーションの会計処理及び表示(会計制度委員会報告 第3号)
- (1)貸出参加の対象となる原債権がローン・パーティシペーション契約上個別に特定されており、参加割合について、原債権の貸出条件(返済期日、利率等)と同一の条件が原債権者と参加者との間にも適用されること。
- (2)原債権者が、参加利益の売却により、原貸出債権に包含されている将来の経済的利益を実質的に全て享受することができる権利を放棄しており、かつ、原債権者は参加利益の対象である原貸出債権から生じるいかなる理由による損失についてもリスクを負わないこと。
- (3)ローン・パーティシペーション契約において、原債権者は、参加者に対する参加利益の買戻しの義務を負っておらず、かつ、原債権者に対し、当該参加利益を再購入する選択権が付与されていないこと。
参加利益の売却価額と貸出債権の帳簿価額との差額は、一括して、適当と認められる科目名を付して損益に計上します(委員会報告第3号 第5項)。
参加者
上記の要件を満たすローン・パーティシペーションを締結した場合、債権譲受として取り扱い、参加利益の対価の支払い時に、貸出債権のうち参加割合の金額について、貸出債権の発生を認識して計上します(委員会報告第3号 第7項)。
参加者が支払った参加利益の対価額とその参加元本金額との間に差額がある場合には、参加者は、その差額を適当と認められる方法によって参加期間にわたって配分し、その配分額は貸出金利息に加減します(委員会報告第3号 第8項)。
仕訳例
原債権者は、債務者への貸出債権100のうち、20%について、上記要件を満たす参加者とローン・パーティシペーション契約を締結し、当該参加利益の対価として25の対価を受け取った。
<原債権者の仕訳>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
預金 | 25 | 貸出金 | 20 |
その他の業務収益 | 5 |
<参加者の仕訳>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
貸出金 | 20 | 預金 | 25 |
その他の資産 | 5 ※ |
※「その他の資産5」は、参加期間に渡り、利息に加減する。
(考察)リスク・経済価値アプローチの適用
金融商品会計基準の原則的な債権消滅を認識した場合には「財務構成要素アプローチ」を適用しますが、ローン・パーティシペーションの場合には、「リスク・経済価値アプローチ」を適用していると考えられます。
上記の通り、ローン・パーティシペーションは、法的判断では債権譲渡に該当しません。これに対して、金融商品会計基準では、金融資産の消滅は「法的観点」で判断することから、法的な判断を前提として、財務構成要素別に金融資産の消滅を認識します。
以上から、締結したローン・パーティシペーションに対して「財務構成要素アプローチ」は適用できません。そこで、リスクと経済的利益がほとんど移転するという経済的実態が観られる場合には、「リスク・経済価値アプローチ」によって会計処理します。
つまり「財務構成要素アプローチ」を適用した場合のように、貸出債権(参加割合部分)のうち本体部分から切り離した回収サービス部分などについて、時価の測定及び帳簿価額の按分を行い、原債権者に残存する金融資産として計上する、といったことはせず、「リスク・経済価値アプローチ」の適用によって全額譲渡として会計処理します。
注記事項
原債権者及び参加者は、それぞれ次の通り、注記します。
原債権者
原債権者が譲渡として会計処理した貸出債権に重要性がある場合、原債権者は、財務諸表上の「追加情報」として、「その旨」及び「売却処理した貸出債権の元本の期末残高の総額」を注記します(委員会報告第3号 第6項)。
参加者
参加者が認識した貸出債権の額に重要性がある場合、参加者は、財務諸表上の「追加情報」として、貸出債権に含まれる参加元本金額の期末残高の総額を注記します(委員会報告第3号 第9項)。
開示事例(憶測付き)
「EDINET」にて、「ローン・パーティシペーション」の文字列で全文検索した結果、表示された国内銀行の中から、2023年3月期の有価証券報告書を5-10社程、閲覧したところ、全ての銀行の有報において、金額的な重要性の大きさに関係なく参加者としての追加情報が注記されていましたが、原債権者としての追加情報は1件も見ることができませんでした。
<憶測>参加者注記について
- ・自己資本比率の規制から、参加者の注記は原債権者への「貸し(を作った)残高」を表すとも考えられることから、重要性が高くなくとも積極的に開示しているのかもしれません。
- ※銀行監査ゼロの会計士からの素朴な感想。
会計基準等・参考文献
※2023年10月9日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)
・金融商品会計に関する実務指針(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号)
・ローン・パーティシペーションの会計処理及び表示(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第3号)(注)
・金融商品会計に関するQ&A(日本公認会計士協会)
(注)リンクをクリックすると、zipファイル(本文及び改定の新旧対照表)をダウンロードします。