減損|資産のグルーピングとは(具体例の解説 上級)
執筆日:2024年11月9日
※本記事は、2024年11月9日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
※本記事には公認会計士試験等では一般的には出題されない内容が含まれています。
※本記事の一部では「コメント」として著者の見解を述べています。
※本記事は会計基準等の全てを解説しているわけではありません。実務では会計基準等もご参照ください。
「資産のグルーピング」は減損会計における手続きの1つです。具体的な手続きは「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に記載があります。
本記事では、「資産のグルーピング」について、適用指針に記載の具体例に基づき詳細を解説します。
減損|資産のグルーピングとは(具体例の解説 上級)
目次
資産のグルーピングとは
「資産のグルーピング」とは、減損損失を認識するかどうかの判定、及び測定を行うために、減損損失の適用対象となる資産を複数のグループに区分する減損会計上の手続きをいいます。
資産のグルーピングの結果、企業が保有する資産は複数の「資産又は資産グループ」に区分され、当該グループ単位で減損会計の手続きを行い減損損失の計上の可否を判断します。
減損会計の手続き
- 1.資産のグルーピング
- ↓
- 2.減損の兆候
- ↓
- 3.減損損失の認識
- ↓
- 4.減損損失の測定
- ↓
- 5.会計処理・表示
グルーピングの方法
企業は減損会計の適用対象となる資産について、「他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位」でグルーピングします(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」6 (1))。
実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めます。また、企業集団に属する親会社及び子会社が作成した個別財務諸表を基礎として作成される「連結財務諸表」においては、連結上の見地から資産のグルーピングを見直す場合があります(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」四 2 (6) ① 参照)。
管理会計上の区分による場合(具体例)
企業は経営の実態が適切に反映されるよう配慮して資産のグルーピングを行いますが、様々な事業を営む企業のグルーピング方法を一義的に示すことは困難であるため、適用指針では次の通り、「資産のグルーピングの手順」について具体例を挙げて説明しています(適用指針7項、70項 参照)。
(手順1)継続的に収支の把握がなされている単位の識別
企業は、例えば、店舗や工場などの資産と対応して「継続的に収支の把握がなされている単位」を識別し、「グルーピングの単位を決定する基礎」とします(7項(1))。
より具体的に説明すると、企業では一般的に「事業別・製品別・地域別」を管理会計上の区分として、経営数値(営業損益や営業活動キャッシュフロー)を把握し、当該単位で予算や業績評価として取締役会等に報告しますが、継続的に収支を把握している単位と同一とは限りません。例えば、同一地域に複数の店舗が存在し、当該店舗毎に継続的に収支を把握している場合には、地域別ではなく、より小さい規模で収支を継続して把握しており資産と対応している「店舗」単位が資産をグルーピングする基礎となります(70項(1) 参照)。
(コメント)「基礎」の意味
- ・(手順1)のグルーピングが確定したグループではなく、次の(手順2)により確定するグルーピングの基礎である、という意味合いと考えられます。
その他、次のような点に留意します。
その他の留意点
- ・「収支」には、内部振替価額や共通費の配分額であっても、合理的なものであれば含まれる。
- ・継続的ではなく一時的に設定される単位(例えば、特殊原価調査)は該当しない。
- ・例えば、賃貸不動産などの1つの資産において、一棟の建物が複数の単位に分割されて、継続的に収支の把握がなされている場合でも、通常はこの1つの資産がグルーピングの単位を決定する基礎になる。
(手順2)グループ間の相互補完性の判別
(手順1)で識別した「グルーピングの単位を決定する基礎」から生ずるキャッシュ・イン・フローが、製品やサービスの性質、市場などの類似性等によって、他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的であり、当該単位を切り離したときには他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすと考えられる場合には、当該他の単位とグルーピングを行います(7項(2))。
例えば、(手順1)では各店舗を「グルーピングの単位を決定する基礎」としましたが、ある2店舗間の距離が近く、かつ互いに販売の相乗効果を見込める商品を扱っている場合には、仮に一方の店舗が閉店したとすると他方の店舗の客数が減少するためキャッシュ・イン・フローが減少します。当該影響が大きな場合には上記に該当すると考えられるため、これら2店舗を1つのグループとします。
資産処分・事業廃止の決定と遊休資産
上記のグルーピングの手順でグルーピングする場合以外にも、次のような資産は1つのグループとして取り扱います。
単一の資産が1つのグループになる場合
- ①取締役会等で資産の処分や事業の廃止を意思決定し、代替的な投資も予定されていない等、これらに係る資産を切り離しても他の資産又は資産グループの使用にほとんど影響を与えない場合てあり、かつ、当該資産が重要な場合
- ②現在、遊休資産の状態(企業活動にほとんど使用されていない状態)にあり、将来の使用が見込まれておらず、かつ、当該資産が重要な場合
これらの重要な資産はそれぞれの資産が1つのグループであるため、他の処分資産・廃止事業資産又は遊休資産と合算して減損損失を認識するかどうかの判定を行ったり、減損損失を測定したりしないことに留意する必要があります。
なお、①又は②の前半部分に該当したとしても後半部分には該当せず重要性に乏しい資産は、実務上の負担を考慮して、これまでの使用状況等に鑑みて資産又は資産グループに含めて取り扱うことができると考えられます(以上、適用指針8項、71項、72項 参照)。
資産のグルーピングの変更
当期に行われた資産のグルーピングは、原則として、翌期以降の会計期間においても同様に行います(適用指針9項)。
ただし、次のような「事実関係の変化」が生じた場合には、資産のグルーピングを変更できるとしています(適用指針74項 参照)。
「事実関係の変化」の例
- ・事業の再編成による管理会計上の区分の変更
- ・「主要な資産」の処分
- ・事業の種類別セグメント情報におけるセグメンテーションの方法等の変更など
連結財務諸表上の取り扱い
連結財務諸表においては、「連結の見地」から、個別財務諸表において用いられた資産のグルーピングの単位が見直される場合があります(意見書 四 2 (6) ① なお書き)。
「連結の見地」の意味
- ・管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位の設定等が複数の連結会社(在外子会社を含む)を対象に行われており、連結財務諸表において、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位が、各連結会社の個別財務諸表における資産のグルーピングの単位と異なる場合
- ※適用指針10項
当該見直しは連結会社が対象であり、非連結子会社(持分法適用)や関連会社は含まれないことに留意する必要があります。
なお、連結財務諸表において資産のグルーピングの単位が見直された場合には、個別財務諸表上の減損損失が、連結上、修正されます。すなわち、「連結財務諸表上のあるべき減損損失」が「個別財務諸表の減損損失」を下回る場合には、連結上、当該差額を消去し、上回る場合には、連結上、当該差額を追加計上します(以上、適用指針75項)。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2024年11月9日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(固定資産の減損に係る会計基準 及び同注解を含む)(企業会計審議会)
・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(移管指針第6号)
参考文献
・新日本監査法人編 完全ガイド 固定資産の減損会計実務 税務研究会出版局 2004年
固定資産は取得原価主義や費用配分の原則をはじめ、伝統的な論点が多い分野。会計理論と併せての学習が効率的です。