売上総利益と粗利率・原価率とは
記事最終更新日:2020年3月7日
記事公開日:2012年5月20日
前回、「会計入門その23~売上原価と費用収益対応の原則」では、売上原価と費用収益対応の原則について説明しました。
今回は、売上総利益と粗利率・原価率について説明します。
売上総利益
売上総利益(うりあげそうりえき)は名前の通り、利益(金額がマイナスの場合には損失)を表す科目です。
これまでに解説した売上高から、売上原価を差し引いた金額をいいます。
上の損益計算書では売上総利益は785,288千円であり、プラスになっています。
もしこの金額がマイナスの場合には、売上総利益ではなく、「売上総損失(うりあげそうそんしつ)」といいます。
段階利益
損益計算書には売上総利益だけではなく、営業利益や経常利益等、利益を表す科目が表示されています。
収益の合計から費用の合計を差し引いた最終利益(当期純利益)だけではなく、段階毎に利益を表す科目を表示することによって、より有効に経営分析ができるようになります。
段階毎に利益を表す科目を表示することで「区切り」の役割を果たし、段階毎の利益がプラスなのかマイナスなのかが一目で分かります(例えば、営業利益の金額はマイナス、すなわち営業損失となっているが、その下の区分では収益が大きくなった結果、経常利益の金額はプラスになった等)。
各段階の利益を表す科目のことを段階利益(だんかいりえき)といいます。
売上総利益から分かること
売上総利益は「売上高 - 売上原価」です。
売上高も売上原価も「企業がビジネスとして行っているモノ・サービス」に直接的に関係する科目です。
売上高はお客にモノ・サービスを販売した結果であり、売上原価はモノ・サービスを購入・自社で製造した結果です。
従って、売上高と売上原価の差し引きで求められる売上総利益は「会社がビジネスとして販売しているモノ・サービス自体にどれだけ競争力があるのか」を表します。
例えば、ズボンを製造・販売している2つの会社があり、1社は売上高100で売上原価80、もう1社は売上高120で売上原価80だとすると、売上総利益は最初の会社が20、もう1社が40です。
2社の違いは何かといえば、最初の会社より、もう1社の方が売上高が大きいということです。
売上高の違いの理由は、例えば品質がよい、ブランド力がある、扱っているモノ・サービスの種類が豊富等、いろいろと考えられます。
どの理由であっても「2社にはズボン自体の競争力に違いがあり、競争力の違いが売上高に現れた結果、2社の売上総利益にも違いが現れた」ということができます。
売上高が違う2社を例として説明しましたが、売上原価が異なる2社の場合には、「生産コストを低く抑えられることが競争力として現れ、結果として売上原価に違いがみられ、売上総利益にも違いが反映された」と言えるでしょう。
以上から、売上総利益はモノ・サービス自体の競争力を表すと言えます。
金額の比較による弊害
ただし、売上総利益を「金額だけ」で考えてしまうと、間違った分析をしてしまう可能性があります。
なぜならば、売上総利益の要因としてモノ・サービス自体の競争力ではない要因も含まれている場合があるからです。
上の例で説明すると、もう1社のズボン会社の売上高が最初の会社よりも大きい理由としては、上で挙げた理由以外にも次の理由があったかもしれません。
- ・会社規模が大きい
- ・社歴があり取引先から信用が得られている
- ・営業マンが多い
- ・TVや新聞、Webにより広告宣伝を大々的に行っている
- Etc...
しかし、これらの理由は「モノ・サービス自体の競争力」ではありません。
従って、これらの理由によって2社の売上高に違いが生じているとすると、売上総利益を金額だけで分析しても、モノ・サービス自体の競争力以外の要因が含まれるため、モノ・サービス自体の競争力が比較できないということになります。
モノ・サービス自体の競争力を分析するには、金額以外の数値によっても比較してみる必要があります。
粗利率
そこで、よく使用される財務指標として「粗利率(あらりりつ)」があります。
「売上総利益率(うりあげそうりえきりつ)」とも言います。
粗利率は次の式で求めます。
粗利率(%)=売上総利益÷売上高×100
上の例では、最初の会社が20÷100×100=20%、もう一方の会社は40÷120×100=33.3%(小数点以下第二位を四捨五入した場合)となります。
上の損益計算書では、785,288÷3,579,129×100=21.9%です。
金額ではなく「率」で比較することによって上記の弊害を一部排除できます(全て排除できるわけではありません)。
原価率
粗利率と対になる財務指標が「原価率(げんかりつ)」です。
原価率は次の式で求めます。
原価率(%)=売上総利益÷売上原価×100
「1(100%)- 粗利率」でも計算できます。
指標の見方
粗利率は高ければ高いほど、原価率は低ければ低いほどモノ・サービス自体の競争力が高く、評価は高いということになります。
但し、上記で説明した通りモノ・サービス自体の競争力以外の要因が全て排除できるわけではないことに留意する必要があります。
業種・業態によって粗利率・原価率には差が生じます(業種・業態の特性による)。
従って業種・業態の異なる会社を比較しても有用な分析とはならない場合もあるため、目的に応じて分析方法を考える必要があります。