オプション取引の会計処理と仕訳(簿記1級以上の上級者対象)

執筆日:2024年10月12日

※本記事は、2024年10月12日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。

※対象:上級者・実務家

「オプション取引」は難しいデリバティブの中でも特に理解しづらい論点と言われています。簿記1級でも「本源的価値」と「時間的価値」が関係したヘッジ会計の処理が出題されたこともあり、この辺の知識を理解したいと思う受験生や実務でオプション料の時価評価の考え方に悩む経理担当者も少なくないと思います。

※「先物取引」を未学習の人は先物取引を理解してから取り組むことをおすすめします。

本記事では、オプション取引の概要を説明した後に、会計処理と仕訳についてオプション価格の時価評価の仕組みの詳細も含めて具体的に解説します。

オプション取引とは

オプション取引」とは、「対象となるモノ(原資産)」を「特定の価格(行使価格)」で「売買できる権利」を売買する取引をいいます。

例えば、ドルを1ドル100円で「買う権利(ドルコールオプション)」や「売る権利(ドルプットオプション)」を購入する取引が該当します。

原資産(今回の例ではドル)の買いを「コール」、売りを「プット」といいます。

金融機関でない一般の事業会社を想定する簿記の問題では、コールオプション又はプットオプションの「買い手」の会計処理が出題されます。

取引の種類と特徴

オプション取引の対象となる資産には債券・商品・通貨・株価指数などがあり、それぞれコールとプットがあります。

「差金決済」や「利益・損失の基本的な仕組み」などは同じデリバティブとして先物取引と同様の特徴といえます(詳細は冒頭の先物取引の記事を参照)。

オプション取引固有の特徴としては「権利を行使してもしなくてもよい」ことです。例えば1ドル100円のコールの場合、取り交わした権利行使期限までの期間いつでも1ドル100円でドルを買うことができます。

従って、オプションには価値が存在するため、買い手は「オプション料」を支払います。

このオプション料が契約時の「オプション価格」であり、原資産の価格変動や将来の変動幅(ボラティリティ)に応じて増減します(詳細は「決算日の処理」で解説)。

会計処理・勘定科目

「金融商品会計基準」に基づき、オプション取引により生じる正味の債権及び債務については時価をもって貸借対照表価額とします。

当該債権債務は「オプション取引」「オプション資産」「通貨オプション」等の勘定科目で資産・負債計上します。

また、オプション取引の評価差額は、原則として、当期の損益として処理しますが、具体的には「オプション損益」「オプション差損益」等の勘定科目で収益・費用計上します。

※デリバティブ取引は全般的にテキストによって異なる勘定科目で解説されることが多いことから、問題の指示に従って柔軟に対応できるよう学習しましょう。

仕訳

「ドルコールオプション」を例に挙げます。

1.契約締結とオプション料の支払い

<問題>
1ドル100円を行使価格とするコールオプションを1,000ドル購入し、1ドル当たり2.0円のオプション料を支払った。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
オプション取引2,000現金預金2,000

<解説>
契約締結時にオプション料を支払います。本問では「@2.0円✕1,000ドル分=2,000円」を「オプション取引」の勘定科目で資産計上しました。

当該金額が締約締結時における「オプションの価値(=時価)」になり、今後のドル相場の変動により変動します。

2.決算日の処理

<問題>
期末日の為替相場では1ドル103円。オプション価格は@5.6円(時間的価値@2.6円)となった。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
オプション取引3,600オプション損益3,600

<解説>
決算日のため、オプション価格を評価し、契約締結時からの変動を損益として処理します。

オプション損益=(期末日価格@5.6円−契約時価格@2.0円)✕1,000ドル分=3,600円の増加(利益)

オプション価格は「契約時から期末日までのドル相場の変動(「本源的価値」といいます)」と「将来の相場変動によるリスク(「時間的価値」)」の要素から成ります。

<「本源的価値」の計算>
前者の本源的価値は「先物取引の時価評価」と同様に計算できます。本問であれば「期末に権利行使し100円でドル買いし、103円で売った」と仮定すると、1ドル当たり「103円−100円=@3.0円」の価値とみなせます。

※ちなみに契約締結時の本源的価値はゼロです(契約時の権利行使価格も為替相場もどちらも1ドル100円のため)。

<「時間的価値」の計算>
問題文のオプション価格@5.6円から本源的価値@3.0円を差し引いた残額@2.6円が時間的価値になります。本問では、問題文に時間的価値の記載がありますが、記載がなくても計算可能です。

※ちなみに契約締結時の時間的価値はオプション料@2.0円です。つまり契約締結時から決算日までに時間的価値は@0.6円だけ増加したことを意味し、将来のドル相場の変動幅の増大が予測されることが原因といえます。

3.翌期首

<問題>
翌期首のため決算処理の洗い替えを行う。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
オプション損益3,600オプション取引3,600

<解説>
問題によっては洗い替え処理を行わない場合もあります。

4.権利行使時の処理

<問題>
1ドル@106円。オプション価格@7.0円(時間的価値@1.0円)となったためコール権利を行使し差金決済した。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金預金7,000オプション損益5,000
オプション取引2,000

<解説>
オプション損益の計算の考え方は「決算日の処理」と同じです。

オプション損益=(権利行使時価格@7.0円−契約時価格@2.0円)✕1,000ドル分=5,000円の増加(利益)

ドルコールオプションを@7.0で権利行使(転売を意味する)したため、@7.0円✕1,000ドル分=7,000円のキャッシュを獲得しましたが、オプション料2,000円を支払っているため、通算の損益は5,000円のプラスです(内訳は前期プラス3,600円。当期プラス1,400円)。

5.権利行使を放棄した場合

<問題>
権利行使期限が到来したがドル相場が権利行使価格を下回るため、コールオプションを放棄した。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
オプション損益2,000オプション取引2,000

<解説>
期限になっても権利行使せずに放棄したため、当初のオプション料を費用として処理します。

会計基準等

※2024年10月12日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)
・先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書等について(平成二年五月二十九日 企業会計審議会)

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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