日商簿記2級 税効果会計とは|用語、仕訳やしくみを分かりやすく解説
更新日:2020年12月25日
公開日:2018年5月2日
前回は、連結財務諸表の作成について解説しました。
今回は、税効果会計とは何かについて、定義や用語、仕組みを解説します。
※税効果会計の仕組みや手続きを理解するためのページです。長文であることや、税効果会計の理解に役立つ、日商簿記2級の出題範囲を超えた内容も解説している部分もありますので、必要に応じて適宜ご利用ください。
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税効果会計とは
税効果会計(ぜいこうかかいけい)とは、税務上の所得計算によって計上された税金について、会計上の利益と対応するように会計上の資産・負債と税務上の資産・負債の一時差異を調整するための手続きをいいます。
日本の会計制度では1つの取引に対して仕訳帳や伝票に記帳する取引はもちろん1つですが、この仕訳から作成する財務諸表(決算書)は法律によって複数作成されます。
日商簿記2級で学習する財務諸表は上場企業などを対象とした決算書ですが、税金を計算するための書類(確定申告書といいます)では利益に様々な税金上の項目を加減算して課税所得(かぜいしょとく)というものを計算し、課税所得に税率を掛け算して、税金を計算します。
この課税所得が税務計算でいうところの利益に該当しますが、上記の通り、同じ年度であっても、これまで学習した財務諸表上の利益の数字とは異なります。
税効果会計の仕訳
税効果会計は「繰延税金資産」「繰延税金負債」「法人税等調整額」といった勘定科目を使って仕訳します。
しかし、税効果会計は他の論点よりも仕組みや用語を理解するのに時間がかかり、理解できないと仕訳も暗記のみに頼ることになります。
そこで以降、税効果会計の仕組みと用語を解説し、次回の記事で税効果会計の仕訳を解説します。
税効果会計の仕訳は下記の次回記事を参照。
税効果会計の仕組みとは
税効果会計の仕組みについて、上の税効果会計の説明文を解釈していくことで説明していきます。
まず、上述の税効果会計の説明の文中に「会計上の利益と対応するように調整するための手続き」と記載があります。この点について図を掲載しました。
法人税、住民税及び事業税の計算
税金(法人税、住民税及び事業税)の計算は、確定申告書上の「課税所得を計算する書類」上で行います(上の図の右側)。この「課税所得を計算する書類」が税務上の損益計算書に該当します。
具体的な税金の計算方法を説明します。
まず、損益計算書の利益(税引前当期純利益)の金額を税金計算の決算書である確定申告書の一番上に記入します(厳密には当期純利益ですが、税効果会計の説明に焦点を当てるため税引前当期純利益にしています)。
確定申告書上で、この利益に加算(かさん)する項目と減算(げんさん)する項目を記載し、それぞれ金額を記入します。ここでは日商簿記2級の出題範囲である減価償却費と引当金を加算項目として例に挙げました。
※それぞれの項目については後ほど解説。
課税所得は「利益 450 + 加算合計 350 - 減算合計 0 = 800」と計算します。
最後に「課税所得 800 × 税率(今回は40%に設定) = 320」と税金が計算できます。
この税金320を、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に記入します。
「会計上の利益に対応するように調整するための手続き」とは
損益計算書を見ると「法人税、住民税及び事業税 320 ÷ 税引前当期純利益 450 = 71.1...%」となり、損益計算書上(会計上)で税率を計算すると、税務上の税率40%を大きく上回ってしまいます。
この「71.1%という会計上の税率を税務上の税率である40%に一致させるようにすること」が、上述の税効果会計の説明文にある「会計上の利益と対応するように調整するための手続き」であり、税効果会計の手続きを行う目的である、といえます。
具体的には、損益計算書にて「法人税、住民税及び事業税」の下に「法人税等調整額(ほうじんぜいとうちょうせいがく)」という科目を設定して、今回の例では△140の金額を記入することで、会計上の税金額を「320 - 140 = 180」に調整しました。この△140という数字は、「確定申告書の加算合計350 × 税率40% = 140」と計算しマイナス表示にして算出しました。
この調整の結果、会計上の税率は、「調整後の法人税、住民税及び事業税 180 ÷ 税引前当期純利益 450 = 40%」となり、税務上の税率と一致します。
以上が損益計算書上の税効果会計の手続きです。そしてここからは、貸借対照表の話になります。
税務上の資産・負債とは
税務上の資産・負債とは、税効果会計を説明するための概念(がいねん)上の言葉をいい、具体的には上述の課税所得計算のうち、加算・減算項目の残高を記入するために存在する利益積立金額(りえきつみたてきんがく)のことをいいます。
税効果会計を分かりやすく考えるための言葉と考えて差し支えありません
利益積立金額と税効果会計の手続きについて図を掲載しました。
利益積立金額とは、資産・負債というよりも会計上の純資産と税務上の純資産の差異をまとめたもの、といえます。
純資産とは、これまでの毎年度の利益が積み重なった累計です。
上記の通り、会計上の利益と税務上の利益は加算項目や減算項目のため差異が生じ、結果として会計上の利益に対応する税金にはなりません。
そこで、税効果会計によって法人税等調整額という表示科目により税金を調整して、会計上の利益と税金を対応するようにしました。
以上から、利益積立金額を別の言葉でいいかえると「これまでの会計上と税務上の利益の差異が積み重なった、累積の残高を表したもの」といえます。
会計上の利益と税務上の利益との差異が解消するまでは、利益積立金額で管理する、ということです。
利益積立金額に掲載される項目について
上の図では、3つの項目を掲載しています。それぞれについて解説します。
「減価償却費限度超過額(げんかしょうきゃくひげんどちょうかがく)」「貸倒引当金損金算入限度超過額(かしだおれひきあてきんそんきんさんにゅうげんどちょうかがく)」とは、会計の損益計算書に計上した減価償却費と引当金のうち、税務上では費用と認められない金額のことをいいます。
「税務上で費用として認めない→税務上はその分、利益が増える→加算項目とする。」
というように考えます。税務上では減価償却費や引当金などの項目毎に、限度額がルール化されており、限度額を超えた費用は加算項目として取り扱います。
なお、「減価償却費限度超過額」「貸倒引当金損金算入限度超過額」という言葉は、厳密に決まった用語ではなく違う言葉を使用することもあります。
次に「その他有価証券」は、ここに記入する金額は、決算時の評価による増減額になります。
その他有価証券は「決算時の評価による増減額は、損益計算書には計上せず、その他有価証券評価差額金として、貸借対照表の純資産に直接計上する」という、他の有価証券とは異なる特徴があります。
従って、会計上の損益計算書には計上しません。次に、税務上では「その他有価証券評価差額金」を損益とは認めません。従って税務上の損益計算書(課税所得の計算)にも計上しません。
以上から、会計上も税務上も、どちらも損益に計上しないため、税金計算には影響がないことになります。
一方で、会計上では損益には計上しないだけで、その他有価証券評価差額金は損益の累計である純資産には計上します。一方で税務上ではそのような処理は行いません。以上から、両者には差異が生じるため、利益積立金額に記入する項目になります。
利益積立金額に記入する金額について
はじめに金額のプラスとマイナスですが、税務上の純資産を基準にして考えます。
例えば、「減価償却費限度超過額」「貸倒引当金損金算入限度超過額」は税務上の純資産(課税所得の累計)を会計上の純資産(利益の累積)よりも大きくします。従ってプラスで金額を記入します(プラスの場合は+の記号は付さない)。
一方で、その他有価証券の決算時評価ですが、例えば、1,000で取得したその他有価証券が決算時には1,500になった場合、会計上の貸借対照表の純資産には、「その他有価証券評価差額金」をプラス計上します。従って会計上の純資産は増えます。
これに対して、税務上ではその他有価証券評価差額金は計上しません。従って、税務上の純資産は会計上の純資産よりも小さくなります。従って、その他有価証券評価差額金がプラスの場合には、マイナスで金額を記入します。
もし、その他有価証券評価差額金がマイナスであれば、反対に考えて、利益積立金額にはプラスで金額を記入します。
対象となる項目を記入した後、まずは、期首残高を記入します。具体的には前年度の利益積立金額に記載されている期末残高を記入すればいいです。
次に、上述の課税所得の計算に記載した加算項目と減算項目から、この利益積立金額に金額を転記します。加算項目は当期増加に、減算項目は当期減少に記入しますが、その他有価証券の項目のようにマイナス(△)で増加と減少を逆にして記入することもできます。
会計上の資産・負債と税務上の資産・負債の一時差異を調整するための手続きとは
上の図を再度、下に掲載します。
利益積立金額の期末残高が、会計上と税務上の純資産の差異の残高です。したがって、「期末残高 × 税率」が両者の税金の差異になります。
次に、利益積立金額でプラスで金額が記入されている項目の場合には、「繰延税金資産(くりのべぜいきんしさん)」という表示科目で、「期末残高 × 税率」を貸借対照表の資産に計上します。
これに対して、利益積立金額にマイナスで金額が記入されている項目の場合には、「繰延税金負債(くりのべぜいきんふさい)」という表示科目で、「期末残高 × 税率」を貸借対照表の負債に計上します。
繰延税金資産と繰延税金負債の区分表示
ただし、利益積立金額の項目に関係する表示科目の区分が流動であれば、繰延税金資産は流動資産、繰延税金負債は流動負債に表示し、固定であれば、それぞれ固定資産、固定負債に表示します。
例えば、減価償却費であれば有形固定資産に関係するため、区分は固定です。そこで、上の図の「減価償却費限度超過額」の「期末残高 1,350 × 税率 40% = 540」は、繰延税金資産として、固定資産に表示します。
同様の考え方で、「貸倒引当金損金算入限度超過額」は繰延税金資産(流動資産)、「その他有価証券(評価額が増加した場合)」は繰延税金負債(固定負債)に表示します。
繰延税金資産と繰延税金負債の相殺
もし、繰延税金資産と繰延税金負債とが、流動と固定に見た場合に両方の科目が計上される場合には、流動と固定ごとに相殺します。
上の図では、固定の区分で繰延税金資産540と繰延税金負債40が計上されるため、これらを相殺し、繰延税金資産500だけを固定資産に表示します。
以上が、貸借対照表上での税効果会計の手続きになります。
【補足1】【用語説明】一時差異、将来減算一時差異、将来加算一時差異
一時差異(いちじさい)とは、将来的に解消される会計上と税務上の税金に関する差異原因をいいます。
具体的には上述の利益積立金額の各項目のことです。
例えば、「減価償却費限度超過額」は、固定資産の売却や除却(廃棄)によって、会計上と税務上の税金の差異は解消されます。また、「貸倒引当金損金算入限度超過額」は、売掛金などが減少した結果、貸倒引当金戻入を行った場合には、一部が解消されます。
「その他有価証券」も該当する有価証券を売却すれば解消されます。
このように一時差異は将来的には固定資産の売却などの取引によって解消されますが、その取引を行った年度の税金計算において、減算項目となるものを「将来減算一時差異(しょうらいげんさんいちじさい)」といい、逆に加算項目になるものを「将来加算一時差異(しょうらいかさんいちじさい)」といいます。
このように考えることもできます。
「将来に減算項目となる→発生時には加算項目となる→「減価償却費限度超過額」は発生時の年度に加算項目→将来減算一時差異である。」
また、税金の支払いという視点から考えると、
「「減価償却費限度超過額」は発生時の年度に加算項目→会計上の利益に対応した税金と比較して、税金を多く支払うことになる→将来減算一時差異は税金の前払いの性格を有する。」
逆に考えると「将来加算一時差異は税金の後払いの性格を有する」となります。
さらに別の説明を付け加えますと、将来減算一時差異は繰延税金資産になり、将来加算一時差異は繰延税金負債になります。
【補足2】その他有価証券の評価差額が税効果会計の対象になる理由
上述の説明の通り、その他有価証券の評価差額は会計上と税務上、どちらの損益にも計上されないため、税金の差異原因とならないと考えることができます。
しかし、その他有価証券の評価差額は会計上の貸借対照表(純資産)には計上されます。一方で税務上では認識されないため、上述の説明の通り、両者の差異原因として利益積立金額に記入する項目になります。
税効果会計を適用する場合に考えられる差異の認識方法として、「P/Lで認識する方法」と「B/Sで認識する方法」があります。我が国の会計ルールでは、「B/Sで差異を認識する方法」を適用しています。従って、利益積立金額という税務上の資産・負債(B/S)といわれる差異の調整項目から繰延税金資産と繰延税金負債を計算するのです。
この「B/Sで認識する方法」ですが、「その他有価証券の評価差額」を例にすると、次のように考えることができます。
「その他有価証券は売却した場合に税務上で認識する損益項目になる→会計上ではP/Lには計上しないが売却せずとも評価差額をB/Sに計上する→この時点で会計上では税務上の損益になる原因が既に認識されている→B/S上で差異を認識する日本の税効果会計では、適用の対象になる」
具体的な仕訳処理については次回解説します。
【まとめ】税効果会計の仕組みと手続き
以下、税効果会計の仕組みと手続きのまとめになります。
用語の説明
項目 | 内容 |
---|---|
税効果会計 | 税務上の所得計算によって計上された税金について、会計上の利益と対応するように、会計上の資産・負債と税務上の資産・負債の一時差異を調整するための手続き |
課税所得 | 税金を計算する基礎となる金額。税務上の利益。 |
法人税等調整額 | 損益計算書の表示科目。税務上の税金(法人税、住民税及び事業税)を会計上の税金に調整するために使用される。 |
税務上の資産・負債 | 利益積立金額のこと |
利益積立金額 | 会計上と税務上の純資産の差異原因をまとめたもの。「これまでの会計上と税務上の利益の差異が積み重なった、累積の残高を表したもの」とも |
繰延税金資産 | 貸借対照表の表示科目。会計上と税務上の税金に関する差異のうち、将来減算一時差異に税率を乗じた金額を表示する。 |
繰延税金負債 | 貸借対照表の表示科目。会計上と税務上の税金に関する差異のうち、将来加算一時差異に税率を乗じた金額を表示する。 |
一時差異 | 将来的に解消される会計上と税務上の税金に関する差異原因 |
将来減算一時差異 | 差異原因が将来解消された時に課税所得の計算にて減算項目となるもの |
将来加算一時差異 | 差異原因が将来解消された時に課税所得の計算にて加算項目となるもの |
会計上と税務上の用語の対応表
項目 | 会計上 | 税務上 |
---|---|---|
B/S | 貸借対照表 | 利益積立金額(純資産のうち、資本金と資本準備金を除いたものに相当) |
P/L | 損益計算書 | 課税所得の計算(別表4といい、確定申告書の1書類) |
利益 | 利益 | 課税所得 |
税効果会計の手続き
項目 | 表示科目 | 内容 |
---|---|---|
P/L | 法人税等調整額 | 税金の計算過程のうち、課税所得計算に使用する加算項目と減算項目を把握する。これらに税率を乗じた金額を法人税等調整額として加減算して損益計算書に表示する。 |
B/S | 繰延税金資産 | 利益積立金額の項目ごとに「期末残高×税率」を計算。項目ごとに繰延税金資産か繰延税金負債か、および区分(流動、固定)を検討し、同じ区分であれば相殺する。 |
繰延税金負債 |
全体のまとめ
今回は税効果会計について解説しました。税効果会計の仕組みと手続きを理解しようとすると税金に関する知識が必要になります。すぐに覚えるのは難しいでしょう。テキストと演習問題の繰り返しによって少しずつ理解しながら定着させましょう。この解説が皆さんの税効果会計の理解を促す一助となれば幸いです。
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