7-1 貸倒引当金と仕訳
貸倒とは
貸倒(かしだおれ 「貸し倒れ」ともいいます)とは、得意先が倒産したなどの理由により、売掛金や受取手形などの債権が回収できない状態のことをいいます。
貸倒引当金とは
貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)とは、貸し倒れになる前に予め費用計上するために、貸し倒れが発生しそうな債権に対して、過去の貸倒実績(かしだおれじっせき)の割合などに基づいて事前に見積もった損失額のことをいいます。
貸倒引当金勘定の性質
貸倒引当金は、売掛金や受取手形などの債権金額から差し引く形で貸借対照表に表示します。
売掛金や受取手形などの債権から直接マイナスしないのは、貸倒引当金を仕訳した時点では実際には貸し倒れは発生していないからです。実際に貸し倒れが発生した時点で売掛金や受取手形などの債権をマイナスします。
以上から、貸倒引当金勘定は、資産や負債などには属せず、「評価勘定(ひょうかかんじょう)」という特殊な勘定科目として捉えられます(取引の8要素の例外)。
しかし仕訳を考える時には貸倒引当金の増加は貸方、貸倒引当金の減少は借方に記入するので、負債と同様に仕訳します。
貸倒引当金の仕訳
次の通り、いくつかのケースに分けて解説します。
1.貸倒引当金を計上する場合
1-1.通常の仕訳
「貸倒引当金繰入(かしだおれひきあてきんくりいれ)(費用に属する勘定科目)」と「貸倒引当金(資産の控除科目)」を使用して仕訳します。
売掛金や受取手形などの債権のうち、貸し倒れが発生しそうな債権が存在する場合には、所定の方法で計算した「貸倒見積額(かしだおれみつもりがく)」について、 借方は「貸倒引当金繰入」を記入し貸方は「貸倒引当金」を記入します。
この仕訳によって貸倒引当金が増加します。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金の設定 | 貸倒引当金残高 < 貸倒見積額 | 貸倒引当金繰入 | ××× | 貸倒引当金 | ××× |
<ポイント:差額補充法>
- ・貸倒引当金を計上する際には、その時点の貸倒引当金残高と、計算して算出した貸倒見積額との差額について上の仕訳を記帳します。
- ・貸倒引当金の差額を補充することから、「差額補充法(さがくほじゅうほう)」といいます。
(仕訳例1-1)
貸倒引当金を見積もった結果、10万円であった。貸倒引当金残高2万円との差額について、差額補充法で貸倒引当金を計上する。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 80,000 | 貸倒引当金 | 80,000 |
(解説)
現時点で既に2万円の貸倒引当金が計上されているため、貸倒見積額10万円との差額8万円を仕訳します。
この仕訳で貸方に貸倒引当金8万円を記帳した結果、貸倒引当金残高は「2万円 + 8万円 = 10万円」になります。
1-2.設定した貸倒引当金が残高よりも金額が小さい場合
例えば貸倒引当金残高100に対して、今回貸倒引当金を見積もったところ、80だった場合が該当します。
この場合には、差額20は貸倒引当金を減少します。具体的には、借方に「貸倒引当金」を記入し、貸方には「貸倒引当金戻入(かしだおれひきあてきんもどしいれ)(収益に属する勘定科目)」を 記入して仕訳します。
※戻入は「れいにゅう」と言うこともあります。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金の設定 | 貸倒引当金残高 > 貸倒見積額 | 貸倒引当金 | ××× | 貸倒引当金戻入 | ××× |
(仕訳例1-2)
貸倒引当金を見積もった結果、10万円であるのに対して、貸倒引当金残高は13万円である。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 30,000 | 貸倒引当金戻入 | 30,000 |
2.貸し倒れが発生した場合
2-1.十分な貸倒引当金を計上していた場合
貸倒が発生した際に事前に貸倒引当金を計上していた場合には、貸倒引当金を減少させるべく借方に「貸倒引当金」を記入するとともに、 貸し倒れた売掛金や受取手形などの債権も減少するため貸方に「売掛金」「受取手形」などを記入します。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸し倒れの発生 | 十分な貸倒引当金が存在する場合 | 貸倒引当金 | ××× | 売掛金など | ××× |
(仕訳例2-1)
売掛金10万円が貸し倒れた。貸倒引当金残高は12万円である。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
(応用)当期に売上計上した債権の貸し倒れ
前期までに計上した売上取引に関する売掛金や受取手形であれば、前期に貸倒引当金を設定しているため、貸倒引当金を減少させて仕訳できます。
しかし、当期の売上取引の貸し倒れの場合は、この売上に対して貸倒引当金は設定していません。
従って、たとえ十分な貸倒引当金を計上していた場合であっても貸倒引当金を減少させて仕訳してはいけません。
以上から、当期の売上取引の貸し倒れの場合は、例外的なケースとして、「(3)貸倒引当金を計上していなかった場合」と同様に「貸倒損失」で仕訳します。
※「当期」「前期」など、いつ計上した売掛金なのかに関する情報がない場合には、「当期の売掛金ではない」と考えて、通常通り、貸倒引当金で仕訳します。
(仕訳例-応用)
当期に販売した商品に対する売掛金10万円が貸し倒れた。貸倒引当金残高は12万円である。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 貸倒損失 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
2-2.貸倒引当金が不足している場合
貸倒額と貸倒引当金の差額(不足額)は「貸倒損失(費用に属する勘定科目)」で仕訳します。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸し倒れの発生 | 貸倒引当金が不足している場合 | 貸倒引当金 | ××× | 売掛金など | ××× |
| 貸倒損失 | ××× | ||||
(仕訳例2-2)
売掛金10万円が貸し倒れた。貸倒引当金残高は7万円である。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 70,000 | 売掛金 | 100,000 | |
| 貸倒損失 | 30,000 |
2-3.貸倒引当金を計上していなかった場合
貸倒額は全て「貸倒損失」で仕訳します。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸し倒れの発生 | 貸倒引当金を計上していない場合 ※当期売上の場合も含む | 貸倒損失 | ××× | 売掛金など | ××× |
(仕訳例2-3)
売掛金10万円が貸し倒れた。貸倒引当金は計上していない。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 貸倒損失 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
3.過年度に貸倒処理した債権を回収した場合
過年度(かねんど。「過去」と同様の意味合い)に貸し倒れた債権が当期になって回収できる場合があります。
この場合、貸し倒れた債権は貸倒時の仕訳処理時に減少しているため、残高は残っていません。
そこで、貸方には「償却債権取立益(しょうきゃくさいけんとりたてえき)(収益に属する勘定科目)」で仕訳します(借方には現金預金の勘定科目で仕訳します)。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 過去に貸し倒れた債権を回収した場合 | 現金預金 | ××× | 償却債権取立益 | ××× | |
(仕訳例)
過年度に貸し倒れ処理した売掛金10万円を回収し、普通預金に振り込まれた。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 普通預金 | 100,000 | 償却債権取立益 | 100,000 |
貸倒引当金の仕訳(まとめ)
以上をまとめると次の通り。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金の設定 | 貸倒引当金残高 < 貸倒見積額 | 貸倒引当金繰入 | ××× | 貸倒引当金 | ××× |
| 貸倒引当金残高 > 貸倒見積額 | 貸倒引当金 | ××× | 貸倒引当金戻入 | ××× | |
| 貸し倒れの発生 | 十分な貸倒引当金が存在する場合 | 貸倒引当金 | ××× | 売掛金など | ××× |
| 貸倒引当金が不足している場合 | 貸倒引当金 | ××× | 売掛金など | ××× | |
| 貸倒損失 | ××× | ||||
| 貸倒引当金を計上していない場合 ※当期売上の場合も含む | 貸倒損失 | ××× | 売掛金など | ××× | |
| 過去に貸し倒れた債権を回収した場合 | 現金預金など | ××× | 償却債権取立益 | ××× | |

仕訳問題
- 次の1から6について、A社の一連の取引として仕訳を示しなさい。
- 1.A社の取引先B社が倒産した結果、売掛金10万円が貸し倒れになった。貸倒引当金は計上していない。
- 2.A社は今回決算にて売掛金300万円と受取手形200万円の5%を貸倒引当金額として見積もった。
- 3.A社の取引先C社が倒産した結果、前期に売上計上した売掛金10万円が貸し倒れになった。
- 4.A社の取引先D社が倒産した結果、前期に売上計上した受取手形20万円が貸し倒れになった。
- 5.過年度に回収不能と判断し貸倒処理した売掛金3万円を回収し、普通預金に預け入れた。
- 6.上記2.にて貸倒引当金設定前の貸倒引当金の残高が30万円である場合の仕訳を示しなさい。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 貸倒損失 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
| 2 | 貸倒引当金繰入 | 250,000 | 貸倒引当金 | 250,000 |
| 3 | 貸倒引当金 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
| 4 | 貸倒引当金 | 150,000 | 受取手形 | 200,000 |
| 貸倒損失 | 50,000 | |||
| 5 | 普通預金 | 30,000 | 償却債権取立益 | 30,000 |
| 6 | 貸倒引当金 | 50,000 | 貸倒引当金戻入 | 50,000 |
- 【解説】
- 問題文の冒頭の指示から、1から6全てが繋がりのある問題として解答します。
- 1.貸倒引当金は設定されていないため、「貸倒損失」で仕訳します。
- 2.(300万円 + 200万円) × 5% = 250,000円
- ※このように債権残高と%を使って貸倒見積額を計算する問題が簿記3級では出題されます。
- →1の設定から、貸倒引当金の残高はゼロのため、25万円を貸倒引当金として仕訳します。
- 4. 2で25万円を貸倒引当金として計上し、3で10万円減少したため残額は15万円です。受取手形20万円との差額5万円は貸倒引当金を設定していないので、「貸倒損失」で仕訳します。
- 6. 貸倒引当金戻入額 = 貸倒引当金残高30万円 - 今回貸倒引当金見積額25万円 = 5万円 従って5万円だけ貸倒引当金が多いので、減少させるために「貸倒引当金戻入」で仕訳します。
