偶発事象とは|引当金・注記など会計基準・処理のポイントを解説

会計データと虫眼鏡

記事公開日:2022年7月16日

会計学を学ぶ上でも理解するのが難しい用語があります。偶発事象もその1つ。

本記事では、偶発事象とは何か、引当金計上や注記記載の判断など会計基準・処理のポイントを含めて解説します。

偶発事象とは|引当金・注記など会計基準・処理のポイントを解説

目次

偶発事象とは

偶発事象とは、利益又は損失の発生する可能性が不確実な状況が貸借対照表日現在既に存在しており、その不確実性が将来事象の発生すること又は発生しないことによって最終的に解消されるものをいいます。

取引内容と特徴

代表的な取引をいくつか例示します。

偶発事象の例不確実性
債務保証契約の締結被保証会社の債務不履行による保証債務の履行及び求償債権の回収不能リスク
手形の割引き・裏書き満期日に支払われず、手形遡及債務の発生及び回収不能リスク
係争事件敗訴による賠償金の支払命令
違法行為罰金・課徴金の支払命令

偶発事象の発生時点で不確実性が存在しているが、利益・損失が発生するかどうかが確定していない点が、偶発事象の特徴といえます。

会計基準・研究報告

偶発事象を包括的に定めた会計基準は存在しませんが、次の会計基準等に定めが存在します。

企業会計原則

引当金の定めの中に次の通り記載があります。

引当金の計上要件の1つに「発生の可能性が高いこと」があります。従って、発生の可能性が低い偶発事象に係る費用又は損失は引当金を計上できません。

また、担保資産や偶発債務の注記についても定めています。

偶発債務とは、偶発損失について負債面から定義したものと捉えられ、実質的に偶発損失と同様の意味と考えられます。

財務諸表等規則

「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」には注記に関する記載があります。

「監査・保証実務委員会実務指針第61号」及び金融商品会計基準

「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」では、債務保証及び保証類似行為(保証予約、経営指導念書等の差入れ)の範囲において、偶発債務について定めています。

また、「金融商品に関する会計基準」にも「債務保証契約及び保証料の授受に関する会計処理」として、金融商品である債務保証契約を対象とした定めが存在します。

会計制度委員会研究報告第16号

「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」は、会計制度委員会(日本公認会計士協会)が2019年5月に公表した研究報告であり、日本の偶発事象に関する会計上の考え方を整理した資料です。

「研究報告」とは、「委員会における研究の成果」であるため会計基準ではありません。

しかし、上記の会計基準等をはじめ、有価証券報告書上の事例分析、及び国際財務報告基準(IFRS)上の偶発事象に関する取扱いなどが記載されており、偶発事象を参照する際の最も有用な情報といえます。

偶発事象の会計処理

上記の「会計基準・研究報告」で記載した通り、偶発事象の会計処理として「引当金の計上」及び「偶発債務の注記」があります。

引当金の計上

引当金の計上要件を満たす場合には、引当金を計上します。

偶発事象引当金科目の例
債務保証契約債務保証損失引当金
手形の割引き・裏書き貸倒引当金
係争事件訴訟損失引当金/損害補償損失引当金/損害賠償損失引当金
違法行為課徴金引当金/独占禁止法関連損失引当金/リコール損失引当金

注記

債務保証に関して記載すると次の通り。

発生可能性が高いが損失金額の合理的な見積りが不可能な場合、及び発生可能性がある程度予想される場合には、引当金計上の要件は満たしていないものの、利害関係者の投資の意思決定に関する有用な情報であることから、上記の会計基準に従って注記します。

※「企業会計原則」及び「監査・保証実務委員会実務指針第61号」に従って、発生可能性が低い場合でも債務保証金額の注記を行います。

以上の注記判定は債務保証・保証類似行為について定める「監査・保証実務委員会実務指針第61号」に基づいたものです。

しかし、他の偶発事象全般について検討する際の参考になると考えられます(「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」より)。

後発事象との関係

上記の事象が「貸借対照表日後」に発生し、かつ重要な場合には、「後発事象」として会計基準に従って処理します。

会計基準等

※2022年7月16日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

・偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告(会計制度委員会研究報告第16号)
・債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い(監査・保証実務委員会実務指針第61号)
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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