貸借対照表の分析

財務書類と分析

記事最終更新日:2020年3月4日
記事公開日:2012年5月13日

前回、「会計入門その19~資本取引・損益取引区分の原則」では、利益準備金と資本取引・損益取引区分の原則について説明しました。

今回は、貸借対照表のまとめとして業種別・規模別に貸借対照表を分析します。

最初に貸借対照表を分析するためのポイントをまとめました。

そして、2つの例を掲げ、貸借対照表の分析の仕方を具体的に解説します。

貸借対照表の分析のポイント

これまで、貸借対照表の科目を中心に説明してきました。

貸借対照表について大体理解できるようになったと思います。

今後は実際の貸借対照表を見て経験を積んでいけば読めるようになりますが、貸借対照表全体の分析については解説していません。

そこで、実際に貸借対照表を見るときのポイントをまとめてみました。

ポイント1.数年分の貸借対照表を比較

最近の貸借対照表だけではなく、過去数年分の貸借対照表も見て推移を比較します。

資産、負債、純資産といった部毎の比較、流動資産、固定資産、有形固定資産といった区分毎の比較、科目別の比較をしてみると会社の財政状態の大枠を把握できます。

ポイント2.規模別・業種別に比較

対象となる会社とは別の規模・業種の会社と、貸借対照表を比較することで、対象となる会社の属する規模・業種の特徴が把握できます。

ポイント3.ライバル会社と比較

ライバル会社の貸借対照表を入手して自社と比較してみると自社の強みや課題が浮き彫りになります。

貸借対照表の分析その1(機器メーカー)

それでは、貸借対照表について2つの例を使って簡単な分析を実際に行ってみます。

1つ目は、機器の製造・販売を事業としている1部上場の大企業を想定して作成した貸借対照表です。

貸借対照表(機器の製造販売)

1部上場の大企業だけあり金額が大きく、資産合計は「3,381,759」。

単位が百万円なので3兆3,817億円を資産として計上しています。

儲けたお金である繰越利益剰余金が1兆868億円。

同じ純資産の部の資本金は3,261億円、資本準備金が1,630億円であるため、株主から預ったお金は4,891億円(欠損填補していないことを前提)になります。

実際には配当等、社外流出している部分もあるため、繰越利益剰余金だけで儲けたお金の累計を正確に把握できませんが、事業を始めてからこれまでに儲けたお金は株主から預ったお金の倍以上となっています。

機器を製造するための固定資産、特に機械装置が2,148億円計上されています。

機械設備の金額が大きいのは、メーカーの特徴です

デパートなどの小売業には機械装置は必要ありません。

そして、このような固定資産を購入するために、この会社は多額の借り入れを行っています。

貸借対照表の分析その2(情報通信産業)

2つ目は情報・通信産業の会社です。

この会社は上場していますが1部ではなく、もう少し規模の小さな会社を想定しています。

貸借対照表(情報通信産業)

資産合計は「12,658,985」。

先ほどの会社より数字自体は大きいですが、単位は千円なので、126億円です。

繰越利益剰余金は「△6,399,531」。

すなわちマイナス63億円と、ビジネスを始めてからの累計の儲けは大幅な赤字となっています。

これだけの赤字であるにも関わらず借り入れがゼロなのは、この会社の資本金、資本準備金の合計が183億円であり、株主から預っているお金が潤沢にあるからです。

この預ったお金のうち、現在、お金として残っているのが現金及び預金に計上されている31億円です。

お金が潤沢にあるので、有価証券を51億円購入して資金運用に充てています。

ソフトウェアが17億円計上されています。

情報通信産業であるため、自社でソフトウェアを開発した結果、この金額が計上されています。

これはITをビジネスとしている会社の特徴です。

まとめ

以上、貸借対照表の分析について解説しました。

今回は貸借対照表だけですが、次回以降では損益計算書を解説していきます。

損益計算書が分かるようになると、より多面的に分析できるようになります。

\ SHARE /

上級者向けの論点別問題集

会計・簿記の電子書籍の広告画像

30冊の「簿記1級・税理士・CPA」向けの論点別問題集(仕訳問題、会計基準の穴埋め問題)を発売中。Kindle Unlimited(読み放題)対象。スキマ時間にアウトプットしたい方に◯


<関連書籍>

□書籍紹介
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。
□書籍紹介
固定資産及び棚卸資産の重要論点のほとんどは「企業会計原則」と「連続意見書」に記載があります。「連続意見書」は企業会計原則の定めをより深く理解するための考え方が記載されており、本試験でも度々出題されます。実務でも「付随費用」「低価法」「棚卸資産の範囲」等の各個別論点が社内会議や監査法人・税理士等とのコミュニケーションで登場することもあれば、「固定資産の減損会計」「棚卸資産の評価に関する会計基準」を中心とする各種の会計基準等を深く理解するための前提知識としても連続意見書の知識は必要といえるでしょう。
□書籍紹介
経理実務や会計監査で財務諸表を作成・監査する場合の表示規則。新しい取引が発生した場合や会計基準の改定等の際には必ず確認します。簿記1級以上の試験範囲であることは勿論ですが、経理実務では財務諸表の開示担当者として活躍するための入口として必読の条文。会計監査でも各科目の表示の妥当性や総括の表示チェックとして、監査法人の入所後に改めて詳細を学ぶことになる分野です。

サイト内検索

著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

詳細はこちら↓
著者プロフィール

☆電子書籍の「0円キャンペーン」
日商簿記テキスト・問題集で実施中。X(旧twitter)で告知します。
「PDCA会計」をフォロー