受託販売とは|仕訳方法・会計処理の検討事項を解説(考察あり)

倉庫の商品在庫

執筆日:2023年9月9日

※本記事は、2023年9月9日時点で適用されている会計基準等に基づいて解説しています。

特殊商品売買のうち、「受託販売」は、委託を受けた会社が依頼人の商品を販売する行為をいいます。

実務では、検討すべき事項が多い販売形態でもあります。

本記事では、「受託販売」の仕訳方法・会計処理について、「収益認識に関する会計基準」にも言及しながら、検討事項や私の見解も示して解説します(上級者・実務家向け)。

※いくつかの論点について、「(考察)」として私見を述べています。

受託販売とは

受託販売」とは、会社(受託会社)が他社(委託会社)からの依頼を受けて、他社が支配する商品を販売することをいいます。

「受託販売」を委託会社の視点によれば、「委託販売」になります。

受託販売の特徴

※一般的な「受託販売」の取引について記載しています。

受託会社が販売するのは「委託会社の商品」であり、自社商品ではありません。

従って、委託会社から商品を受け取った場合であっても、依然として委託会社の所有する商品であることから、受託会社は商品を支配したことにならないため、受託会社では仕入計上は行いません。

従って、委託会社の代わりに、受託会社が当該商品を顧客に販売した際にも、引き渡した商品は受託会社が支配しているわけではないことから、受託会社では売上計上しません。

受託会社は商品を顧客に販売した時点で、「受託販売に関する業務」という履行義務を果たしたことになるため、当該業務手数料を売上計上します。

「収益認識会計基準」に関する検討事項

「収益認識に関する会計基準(以下、「会計基準」)」と「同適用指針(以下、「適用指針」)」を読み、契約内容を検討した上で、収益認識の計上時期を決定します。

特に委託販売(適用指針 第75項、第76項)や代理人(適用指針 第39項から47項、第135から138項など)を読み、上述する一般的な受託販売に該当するかどうかについて検討します。

(考察1)会計基準上の「代理人」について

会計基準上の用語であるため、民法上の「代理」「委託」とは区別し、別個の用語として検討する必要があると考えられます。

さらに、民法上の「代理」「委託」についても法的視点から、税務と併せて検討しなければならないのは言うまでもありません。

※民法・税法は本サイトの範囲外のため、詳細コメントは控えます。

(考察2)契約内容の確認

本記事では、一般的な範囲と考えられる「受託販売」を解説しています。

従って、全ての契約に当てはまる訳ではないことに留意する必要があります。

例えば契約書名が「受託販売契約」であっても、契約書全体を読み、会計基準・適用指針の各項に照らし合わせ、「受託販売」「代理人」に該当するかどうかを確認します。

また、会計基準上の「契約」には、契約書だけでなく、業種・業界の取引慣行や口頭による約束事も含まれる点に留意して、契約を識別します(会計基準 第19項(1) 、第20項参照)。

仕訳の特徴

委託会社に対する債権・債務は、どちらも「受託販売」勘定で処理する点が特徴です。

仕訳方法

活動別に仕訳方法を示すと、次の通り。

商品の受取りと仕訳

上記で解説した通り、受け取った時点では、依然として委託会社の商品であり、受託会社が商品を支配しないことから、仕入計上しません。

従って、「仕訳なし」になります。

ただし、運賃などの商品の付随費用のうち、委託会社の負担となる部分は、「受託販売(立替金)」として借方記入して仕訳します。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
商品の受取り仕訳なし
運賃の支払い受託販売xxx現金・預金などxxx

(考察3)受託販売と預かり在庫の管理

委託会社からの商品は、受託会社からすれば「預かり在庫」です。

受託会社側で実地棚卸を実施する際には、棚卸立ち会いで「預かり在庫」の置き場所を受託会社の在庫と区分する、貼り紙をするなどの対応手続きを行います。

ただし、受託会社の場合には、「委託会社商品の管理責任」が問われることから、在庫管理システムなどにより、自社在庫とは区分して、預かり在庫の受入・払出管理も行い、別個に証憑出力できるように対応することが、受託会社としての「善管注意義務(民法 第644条)」を果たすことにつながると考えられます。

商品の販売と仕訳

委託会社の商品を顧客に販売した場合には、「売掛金」などの回収手段を借方に記入します。

この「売掛金」は、将来的に委託会社に支払うことから、「預り金(委託会社に対する債務)」としての性質を有するため、「受託販売」を貸方に記入します。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
商品の販売売掛金xxx受託販売xxx

(考察4)委託会社商品の販売債権に関する実務上の会計処理について

上記仕訳の「売掛金」は、一般テキストで解説してある方法ですが、実務上では異なる勘定科目を使うべきと考えられます。

なぜならば、当該債権は、自社商品を販売した結果として得たものではなく、委託会社の商品を販売して得られた債権だからです。一般の売掛金とは性質が異なります。

また、B/S上の売掛金として表示した場合には、P/Lに当該商品の売上計上はされず、より小額の受託販売手数料が計上されます。この結果、「売掛金回転期間」が実体を適切に反映しないことから、財務諸表が「有用な財務分析データ」を提供しません。

以上の理由から、受託販売から生ずる上記仕訳の売掛金が、投資家をはじめとする利害関係者の意思決定の判断に影響するほど重要である場合には、売掛金ではなく、別の適切な勘定科目を設定して仕訳するとともに、貸借対照表上も売掛金とは区分して、適切な科目で表示すべきと考えられます(後述の「財務諸表上の表示」を参照)。

売上計算書の送付と仕訳

販売実績や代金精算の報告資料として、受託会社は「仕切精算書(売上計算書)」を作成し、委託会社に送付します。

この段階で受託販売手数料も計算し、下記の通り売上(受取手数料)計上します。代金は未受領のため、委託会社に対する債権として「受託販売」を記入します。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
売上計算書の送付受託販売xxx受取手数料xxx

(考察5)受取手数料の未回収債権の勘定科目

同じ委託会社に対する債権債務ということで、「受託販売」で記帳するように、一般的には解説されています。

しかし、実務上、受託販売の事業規模が全体に比して大きな場合には、受取手数料の未回収債権が、主たる事業で発生した営業債権であることから、財務諸表利用者に与える影響を考慮すれば、「受託販売」ではなく「売掛金」とすべきだと考えられます。

B/S上も「売掛金」として表示することで、投資家等に対する有用な情報提供につながります(この場合には、上述の「(考察4)委託会社商品の販売債権に関する実務上の会計処理について」で解説した通り、商品販売代金は「売掛金」ではなく、適切な勘定科目で処理します)。

代金の振込と仕訳

顧客への販売代金(預り金)と立替金・受託販売手数料の差額を委託会社に振り込みます。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
代金の振込み受託販売xxx現金・預金xxx

財務諸表上の表示

上記仕訳のうち、「受託販売」「受取手数料」「売掛金」について解説します。

「受託販売」勘定

借方残の場合には、「立替金」、貸方残の場合には「預り金」として貸借対照表に表示します。

※上述「(考察5)受取手数料の未回収債権の勘定科目」を併せて参照。

「受取手数料」勘定

現行の実務では、様々な表示方法が存在することから、「収益認識に関する会計基準」では、収益の表示に関する具体的な指針は示されていません(会計基準 第78-2項 参照)。

実務慣行で用いられている「手数料収益」をはじめ、「売上高」「売上収益」「営業収益」等、適切な科目で損益計算書に表示します(財務諸表等規則 第72条1項2項。会計基準 第155項 、適用指針 第104-2項 参照)

「売掛金」勘定

上述「(考察4)委託会社商品の販売債権に関する実務上の会計処理について」「(考察5)受取手数料の未回収債権の勘定科目」の通り、会社事業全体に対する受託販売の比率が、投資家をはじめとする利害関係者に与える影響度合いを考慮するとともに、「売掛金とは何か」を検討し、適切な表示科目をもって貸借対照表に表示します(財務諸表等規則 第17条2項)。

会計基準等

※2023年9月9日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)
収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号)
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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