連結・持分法(子会社・関連会社)の範囲の判定方法を解説
記事最終更新日:2023年12月8日
記事公開日:2022年6月27日
※対象者:上級者・実務家
連結財務諸表の手続きにおいて、「連結・持分法(子会社・関連会社)の範囲」の決定は最も重要な手続きの1つといえます。
しかし、会計基準等に定められた連結・持分法の範囲の判定方法は複雑で理解するのが困難です。
そこで本記事では、連結・持分法(子会社・関連会社)の範囲の判定方法について、会計基準等に基づき解説します。
連結・持分法(子会社・関連会社)の範囲の判定方法を解説
目次
一般基準(連結の範囲)
「連結財務諸表に関する会計基準」に定める、連結(子会社)の範囲に関する一般基準は次の通りです。
<一般基準-連結の範囲>
- (1)親会社は、原則として全ての子会社を連結の範囲に含める。
- (2)子会社のうち次に該当するものは、連結の範囲に含めない。
- ・支配が一時的であると認められる会社
- ・上記以外の会社であって、連結することによって利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがある会社
- (3)重要性の乏しいものは連結の範囲に含めないことができる。
さらに「持分法に関する会計基準」「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」には、持分法の適用範囲を定めています(子会社と同様の定め)。
<持分法の適用範囲>
- (1)非連結子会社及び関連会社に対する投資については、原則として持分法を適用する。
- (2)次に該当するものは、持分法を適用しない。
- ・影響が一時的であると認められる会社
- ・持分法適用によって利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがある会社
- (3)重要な影響を与えない場合には、持分法の適用会社としないことができる。
子会社の判定
子会社かどうかの判定は「支配力基準(他の会社の意思決定機関を支配しているかどうか)」に基づいて行います。
「他の会社の意思決定機関を支配している」とは
大きく分けて次の3つの場合が該当します。
<「他の企業の意思決定機関を支配」の要件>
- 次のいずれかを満たす場合
- (1)議決権(自己株式を含めない。以下同じ)の過半数を自己の計算において所有している。
- (2)議決権の40%以上、50%以下を自己の計算において所有しており、かつ、下記①から⑤のいずれかの要件を満たす。
- (3)自己の計算において所有する議決権が40%未満であり、かつ、「緊密な者」及び「同意している者」が所有する議決権と合わせて過半数を所有しており、かつ、下記②から⑤のいずれかの要件を満たす。
<要件①から⑤>
- ①「緊密な者」及び「同意している者」が所有している議決権と合わせて議決権の過半数を所有する。
- ②自己の役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の会社の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めていること
- ③重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等が存在すること
- ④資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているもの)の総額の過半について融資(債務保証及び担保の提供を含む。以下同じ)を行っていること(「緊密な者」が行う融資と合わせて総額の過半となる場合を含む)
- ⑤その他意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在すること
「緊密な者」とは、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意識と同一の内容の議決権を行使すると認められる者をいい、「同意している者」とは、自己の意思と同一の内容を議決権を行使することに同意していると認められる者をいいます。
関連会社の判定
関連会社かどうかの判定は「影響力基準(他の会社の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができるかどうか)」に基づいて行います。
「他の会社の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる」とは
大きく分けて次の3つの場合が該当します。
<「他の会社の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響」の要件>
- 次のいずれかを満たす場合
- (1)議決権の20%以上を自己の計算において所有している。
- (2)議決権の15%以上、20%未満を自己の計算において所有しており、かつ、下記①から⑤のいずれかの要件を満たす。
- (3)自己の計算において所有する議決権が15%未満であり、かつ、「緊密な者」及び「同意している者」が所有する議決権と合わせて20%以上を所有しており、かつ、下記①から⑤のいずれかの要件を満たす。
<要件①から⑤>
- ①自己の役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の会社の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、代表取締役、取締役又はこれらに準ずる役職に就任していること
- ②重要な融資(債務の保証及び担保の提供を含む)を行っていること
- ③重要な技術を提供していること
- ④重要な販売、仕入その他の営業上又は事業上の取引があること
- ⑤その他財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができことが推測される事実が存在すること
子会社・関連会社に該当しない場合
更生会社、破産会社その他これらに準ずる会社であって、かつ、有効な支配従属関係が存在しない(関連会社の判定では重要な影響を与えられない)と認められる会社は、子会社・関連会社には該当しません。
<子会社・関連会社に該当しない例>
- ・民事再生法・会社更生法・破産法の規定による各法の手続開始の決定を受けた会社
- ・かつ有効な支配従属関係が存在しない(関連会社の判定では重要な影響を与えられない)と認められる。
<子会社・関連会社に該当する例>
- ・清算株式会社のように、継続企業と認められない会社であっても、その意思決定機関を支配している(関連会社の判定では重要な影響を与えられる)と認められる場合
他の会社の意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる場合
次の場合には子会社に該当しないとしています。
<支配していないことが明らかな例>
- ・他の会社が議決権の過半数を所有している
- ・共同出資の合弁会社(共同支配の実態)
- ・ベンチャーキャピタルなどの投資会社で一定の要件を満たす場合
なお、持分法においても「他の会社に重要な影響を与えられないことが明らかであると認められない場合」には、関連会社に該当しないことが会計基準上定められています。
支配・影響が一時的であると認められる会社
連結の範囲には含めません(影響が一時的な場合には、持分法を適用しません)。
支配が一時的の例
- ・直前連結会計年度において議決権が50%以下で支配に該当しておらず、かつ、翌連結会計年度以降、議決権が相当の期間にわたって50%以下であり支配に該当しないことが明らかである場合
- ・議決権の過半数を占めていないが、支配に該当している場合の議決権の一時的所有やその他の支配要件の一時的充足
利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある会社
子会社・関連会社には該当せず連結の範囲に含めません(持分法を適用しない)。当該ケースに該当する場合は、一般的には限定的であると考えられます。
利害関係者の判断を著しく誤らせる例(子会社の判定)
- ・当該子会社がある匿名組合事業の営業者となり、当該匿名組合の事業を含む子会社の損益のほとんどすべてが匿名組合員に帰属し、当該子会社及びその親会社には形式的にも実質的にも帰属せず、かつ、当該子会社との取引がほとんどない場合
重要性の原則の適用
子会社であって、資産・売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいものは、連結の範囲に含めないことができます(関連会社も同様の定め)。
会計監査上は、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」に基づいて監査手続きを実施します。
注記
連結・持分法の範囲について次の事項を注記します。
注記事項
- ・連結の範囲に含めた子会社、非連結子会社に関する事項
- ・連結の範囲に重要な変更があった場合には、その旨及びその理由
- ・持分法適用の範囲に関する事項
- ・持分法適用の範囲に重要な変更があった場合には、その旨及びその理由
会計基準
※2022年6月27日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・連結財務諸表に関する会計基準(企業会計基準第22号)
・持分法に関する会計基準(企業会計基準第16号)
・連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針(企業会計基準適用指針第22号)
・連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い(監査・保証実務委員会実務指針第52号)