減損の兆候とは|4つの例の詳細を解説(減損会計 上級)
記事更新日:2024年11月9日
執筆日:2024年10月31日
※本記事は、2024年10月31日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
※本記事には公認会計士試験等では一般的には出題されない内容が含まれています。
※本記事は会計基準等の全てを解説しているわけではありません。実務では会計基準等もご参照ください。
「減損の兆候」とは何かについて、会計基準等の詳細を整理してまとめました。
減損の兆候とは|4つの例の詳細を解説(減損会計 上級)
目次
減損の兆候とは
「減損の兆候」とは、固定資産に係る減損会計に登場する用語の1つです。資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象をいいます。
資産又は資産グループ毎(資産のグルーピングにより設定)に、後述する減損の兆候に該当する事象の有無を判定し、減損の兆候があると判定された資産又は資産グループは、次の判定(減損損失の認識)に進みます。
減損会計の手続き
- 1.資産のグルーピング
- ↓
- 2.減損の兆候
- ↓
- 3.減損損失の認識
- ↓
- 4.減損損失の測定
- ↓
- 5.会計処理・表示
4つの事象例
「固定資産の減損に係る会計基準」では、減損の兆候の「例」として、次の4つの事象を挙げています(固定資産の減損に係る会計基準 二 1)。
減損の兆候の例
- ①営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナス
- ②使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化
- ③経営環境の著しい悪化
- ④市場価格の著しい下落
それぞれについて、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に基づいて説明します。
(補足)会計基準上の減損の兆候
- ・上記4つの事象は「例示」。
- ・例えば、株式の交換による企業結合において、被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた結果、取得原価のうち「のれん及びその他の無形資産」に配分された金額が相対的に多額になる場合には、減損の兆候があると判定される可能性があります。
- ・しかし、全ての減損の兆候の網羅を求めているわけではなく、通常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングにおいて利用可能な企業内外の情報に基づき、減損の兆候がある資産又は資産グループを識別します(以上、適用指針76項 参照)。
(補足)減損の兆候に利用する情報
- 1.企業内部の情報
- ・内部管理目的の損益報告
- ・事業の再編等に関する経営計画等
- 2.企業外部の情報
- ・経営環境
- ・資産の市場価格等
- ※「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」四 2(1)より
①営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナス
資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、又は、継続してマイナスとなる見込みである場合には、減損の兆候になります(適用指針12項)。
「継続してマイナス」とは?
次の場合が該当します。どちらかに該当した場合には、減損の兆候があると判定されます(適用指針12項(2)、79項 参照)。
「継続してマイナス」とは?
- ・概ね過去2期の実績がマイナス。かつ、当期見込みが明らかにプラスとはいえない
- ・前期の実績がマイナス。かつ当期以降の見込みが明らかにマイナス
P/L及びCFの両方で判定するのか?
企業で用いる管理会計上の区分により、P/L又はCFのどちらか一方で判定します。
減損の兆候の把握には「営業活動から生ずる損益」によることが適切と考えられます。しかし、管理会計上、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」だけを用いている場合もあるため、このような例示になっています(適用指針12項(3)、80項 参照)。
「営業活動から生ずる損益」には何が含まれるか?
基本的に企業が行う管理会計上の損益区分に基づいて行われます。
適用指針が言及している点は次の通り(適用指針12項(1))。
営業活動から生ずる損益について
- 1.含まれるもの
- ・当該資産又は資産グループの減価償却費や本社費等の間接的に生ずる費用
- ・原価性を有しないと判断した営業活動に関連する損益(例えば、たな卸資産の評価損)
- 2.含まれないもの
- ・財務活動から生ずる損益(支払利息等)
- ・利益に関連する金額を課税標準とする税金
- ・大規模な経営改善計画等により生じた一時的な損益
事業の立上げ時の判定は?
予め合理的な事業計画(当該計画の中で投資額以上のキャッシュ・フローを生み出すことが実行可能なもの)が策定されており、当該計画にて当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合、実際のマイナスの額が計画上で予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しないとしています(適用指針12項(4)、81項 参照)。
②使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化
適用指針が挙げている例は次の通り。資産又は資産グループにこれらが観察される場合で回収可能価額を著しく低下させる場合には減損の兆候があると判定します。
①と同じく、実績のみならず見込みも含めて判定します(適用指針13項(1)〜(7))。例えば、ある事業の廃止は、廃止日ではなく取締役会決議のタイミングで減損の兆候を判定します(以降の③④の減損の兆候も同様)。
ⅰ.事業の廃止又は再編成
事業の再編成には、重要な会社分割などの組織再編のほか、事業規模の大幅な縮小などが含まれます(82項 参照)。
ⅱ.早期の除却・売却
償却資産に限らず、当初の予定よりも著しく早期に資産又は資産グループを除却や売却などにより処分すること(83項 参照)。
ⅲ.用途の転用
例えば、事業縮小に伴う余剰店舗の賃貸など。予定や現在と異なる用途に転用すること(84項 参照)。
ⅳ.遊休の状態にある
遊休状態になり、将来の用途が定まっていないこと(85項 参照)。
ⅴ.稼働率の低下
稼働率が著しく低下した状態が続き、かつ、回復の見込みがないこと。
ⅵ.機能的減価
著しい陳腐化等の機能的減価が観察できること(86項 参照)。
耐用年数の短縮・残存価額の修正との関係
- ・正規の減価償却計算に適用している耐用年数又は残存価額が、設定にあたって予見することのできなかった機能的原因等により、著しく不合理になった場合には、通常、収益性の低下を伴うことから、減損の兆候があると判定し先に減損損失の手続きを行った後に耐用年数の短縮又は残存価額の修正の検討・処理を行います。
ⅶ.計画の中止・延期等
建設仮勘定に計上された建設について、計画の中止、大幅な延期や当初計画からの著しい滞り等。
資産グループの場合には全体に対する判定のみならず、「主要な資産」について該当する場合も含まれます(以上、87項 参照)。
③経営環境の著しい悪化
個々の企業によって大きく異なるため、適用指針では例示を示すにとどめ、具体的な内容は個々の企業の状況に応じて判断する必要があります(適用指針14項、88項)。
ⅰ.市場環境の著しい悪化
「材料価格の高騰」「製・商品の店頭価格・サービス料金・賃料水準の大幅な下落」「製・商品販売量の著しい減少」などが続いているような状況。
ⅱ.技術的環境の著しい悪化
「技術革新による著しい陳腐化」や「特許期間の終了による重要な関連技術の拡散」など。
ⅲ.法律的環境の著しい悪化
「重要な法律改正・規制緩和や規制強化」「重大な法令違反の発生」など。
④市場価格の著しい下落
適用指針では、少なくとも市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当するとしています。
ただし、減損の兆候を画一的に数値化することはできないため、状況に応じて個々の企業での判断が必要な場合もあります。
資産グループについては、全体の市場価格を把握できない場合でも、「主要な資産」や「全体の帳簿価額の大きな割合を占める資産(土地など)」の市場価格の著しい下落も減損の兆候に含まれます。
「市場価格」を入手できる場合は限られるため、容易に入手可能な指標(下記表を参照)を市場価格とみなして使用します。実務上の過大な負担を考慮して設定された「減損の兆候」の趣旨を踏まえると、合理的に算定された価額を算定する必要は必ずしもないと考えられることから、資産又は資産グループの市場価格がない場合には、他の事象により減損の兆候があるかどうかを判断することとなります。 (以上、適用指針15項、89項〜91項 参照) 。
<(参考)容易に入手できると考えられる土地の価格指標>

引用元:固定資産減損会計適用指針 第90項
会計基準等
※2024年10月31日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(固定資産の減損に係る会計基準 及び同注解を含む)(企業会計審議会)
・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(移管指針第6号)
固定資産は取得原価主義や費用配分の原則をはじめ、伝統的な論点が多い分野。会計理論と併せての学習が効率的です。