減損損失の認識とは|判定方法と将来CFの算定方法(固定資産)
記事更新日:2024年11月8日
執筆日:2024年11月2日
※本記事は、2024年11月2日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
※本記事には公認会計士試験等では一般的には出題されない内容が含まれています。
※本記事は会計基準等の全てを解説しているわけではありません。実務では会計基準等もご参照ください。
「固定資産の減損損失」の手続きのうち「認識」とは何かについて、判定方法や将来キャッシュ・フローの算定方法も含めて会計基準等に基づいて詳細を解説します。
減損損失の認識とは
「減損損失の認識」とは、固定資産に係る減損会計に登場する用語の1つであり、「減損の兆候」の次に行う手続きの名称です。「減損の兆候」の判定で「YES」となった資産又は資産グループの「割引前将来キャッシュ・フローの総額」を算定し、帳簿価額と比較することで「減損損失を認識するかどうかの判定」を行います(「固定資産の減損損失に係る会計基準」 二 2 (1 ) 参照)。
当該判定の結果、割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識することになり、次の「減損損失の測定」の手続きに進みます。
減損会計の手続き
- 1.資産のグルーピング
- ↓
- 2.減損の兆候
- ↓
- 3.減損損失の認識
- ↓
- 4.減損損失の測定
「認識」及び「測定」は会計全般に登場する基本用語の1つです。「認識」は、資産・負債・純資産・収益・費用を「いつ計上するか?」というタイミングを表します。これに対して、「測定」は「いくらで計上するか」という金額の測定を意味します。
以上をまとめると、「減損損失の認識」とは、減損の兆候が存在する資産又は資産グループ毎に割引前将来キャッシュ・フローを算定し帳簿価額と比較するという「判定」によって、「減損損失の手続きを行っている当該この時点」で減損損失を計上することを意味します。
そして、次の「減損損失の測定」において減損損失の計上額を算定します。
減損損失の認識の判定方法
- ・資産又は資産グループの「割引前将来キャッシュ・フロー」と「帳簿価額」とを比較
- ・後者が前者を上回る場合には、減損損失を認識する
将来キャッシュ・フローの見積り
将来キャッシュ・フロー(以下、将来CF)は、一般的には取締役会等で承認された中長期計画の前提となった数値を基礎として、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ります。
※将来CFの見積方法に関する詳細な説明は、下記の記事を参照。
将来CF算定方法
資産又は資産グループの帳簿価額は会計ソフトや固定資産台帳で既に算定済みのため、「減損損失の認識の判定」において最も重要なのが「将来CFの算定」です。
将来CFの算定方法
- 1.将来CFの見積期間の決定
- ↓
- 2.将来CFの算定
1.将来CFの見積期間の決定
「資産」又は資産グループの場合は「主要な資産」の経済的残存使用年数と「20年」のいずれか短い方を、将来CFの見積期間とします(会計基準 2(2))。
(補足)20年の意義
- ・土地は使用期間が無制限になりうる
- ・長期間にわたる将来キャッシュ・フローの見積りは不確実性が高くなる
- ・以上の理由から見積期間には20年という制限を定めています(以上、「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」2(2)② 参照)。
(補足)経済的残存使用年数
- 1.見積上の検討要素
- ・物理的要因:材質・構造・用途等
- ・その他の要素:使用上の環境、技術の革新、経済事情の変化による陳腐化の危険の程度、その他当該企業の特殊的条件
- 2.資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が、当該資産の減価償却計算に用いられている税法耐用年数等に基づく残存耐用年数と著しい相違がある等の不合理と認められる事情のない限り、当該残存耐用年数を経済的残存使用年数とみなすことができます(以上、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」21項、99項、100項 参照)。
(コメント)20年を超える期間の将来CF
- ・将来CFの見積期間の上限は20年と設定されていますが、以下の「将来CFの算定」の通り、20年を超える期間の将来CFも、結果としては加算して割引前将来CFを算定します。
2.将来CFの算定
以下、「資産又は資産グループの主要な資産の経済的残存使用年数」を「X年」、「経済的残存使用年数」を「年数」と省略して解説します。
X≦20年の場合
X年までの将来CFに以下を加算して算定します(適用指針18項、97項 参照)。
<資産又は資産グループの主要な資産>
・X年経過時点の「正味売却価額」
<資産グループの構成資産>
ⅰ.資産グループの構成資産の年数>Xの場合
・X年経過時点の「回収可能価額(使用価値と正味売却価額のうち高い方の額)」
ⅱ.資産グループの構成資産の年数≦Xの場合
・当該構成資産の年数経過時点の「正味売却価額」
引用元:固定資産減損会計適用指針 第97項
(コメント)X年経過時点の回収可能価額の計算
- ・具体的には「割引率」を用いてX年経過以降の将来CFの「X年経過時点の現在価値」を計算します。
- ・例えばXが20年、25年の将来CFが100、割引率が3%の場合、「100✕(1/1.03^5)=86.206...」になります。
X>20年の場合
「20年までの将来CF」に以下を加算した「21年目以降に見込まれる将来CF」を含めて算定します(適用指針18項、98項)。
<資産又は資産グループの主要な資産>
・20年経過時点の「回収可能価額」
<資産グループの構成資産>
ⅰ.資産グループの構成資産の年数>Xの場合
・X年経過時点の「回収可能価額」
ⅱ.20年<資産グループの構成資産の年数≦Xの場合
・当該構成資産の年数経過時点の「正味売却価額」
また、資産グループの構成資産の年数が20年以下の場合には、当該構成資産の年数経過時点の「正味売却価額」を、主要な資産のX年経過時点の将来CFに加算します(適用指針98項後段 参照)。
引用元:固定資産減損会計適用指針 第98項
割引前将来CF
以上の方法で算定した将来CFが冒頭で述べた減損損失の認識の判定に用いられる「割引前将来CF」になります。
算定方法の記載の通り、部分的には割引率を用いた「割引後の現在価値」が含まれますが、会計基準上では当該将来CFを「割引前将来CF」として定めています。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2024年11月2日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(固定資産の減損に係る会計基準 及び同注解を含む)(企業会計審議会)
・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(移管指針第6号)
参考文献
・新日本監査法人編 完全ガイド 固定資産の減損会計実務 税務研究会出版局 2004年
固定資産は取得原価主義や費用配分の原則をはじめ、伝統的な論点が多い分野。会計理論と併せての学習が効率的です。