スワップ取引の会計処理・仕訳(繰延ヘッジ・特例処理)

執筆日:2024年10月15日

※本記事は、2024年10月15日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。

※対象:上級者・実務家

「スワップ取引」はデリバティブ取引の中では理解しやすい論点といえますが、ヘッジ会計を適用する場合と適用しない場合、特例処理(金利スワップの場合)による場合の違いを理解しておく必要があります。

本記事では、「スワップ取引」の会計処理・仕訳について、それぞれのケースに分けて解説します。

※「ヘッジ会計の概要」については下記の記事で、解説しています。

スワップ取引とは

スワップ取引」とは、デリバティブの1つでありキャッシュフローを交換する取引をいいます。

最も代表的な取引は「金利スワップ」です。借入金の利息が変動する場合、将来の金利上昇リスクを回避する1つの手段として変動金利を固定金利と交換するスワップ取引を締結することがあります。

この場合、借入金の利払日に変動金利を支払いますが、一方でスワップ取引によって変動金利を受け取り固定金利を支払うことから、借入金の変動金利とスワップ取引の変動金利が相殺されるため、金利変動リスクを相対的に低く抑えることができます。

取引の種類と特徴

スワップ取引の主な種類としては「金利スワップ」と「通貨スワップ」があります。

通貨スワップは外貨建ての借入れや投資を行った場合の為替変動リスクを回避するために利用されます。

会計処理・勘定科目

「金融商品会計基準」に基づき、スワップ取引により生じる正味の債権・債務(「金利スワップ」等の勘定科目で処理)については時価をもって貸借対照表価額とします。

また、スワップ取引の評価差額は、原則として、当期の損益として処理(「金利スワップ損益」等の勘定科目で処理)します。

※デリバティブはテキストによって解説している勘定科目が異なります。

要件を満たす場合には「ヘッジ会計(繰延ヘッジ)」を適用でき、さらに金利スワップの場合には「特例処理」を適用できる場合があります。

<(参考)時価ヘッジ>
金利スワップには適用できません。時価ヘッジは現時点においては「その他有価証券」のみが適用対象と解釈されています。

仕訳

「金利スワップ」を例として解説します。

1.契約締結

<問題>
金融機関から10百万円の借入れ(利息:変動金利 利払日:6ヶ月毎)を実行するとともに、金利変動リスク回避のため、想定元本を当該借入れと同額とし変動金利を受け取り固定金利3%を支払うスワップ契約を締結した(他の条件は借入れと同じ)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金預金10,000,000借入金10,000,000

<解説>
借入れについて仕訳します。金利スワップは契約締結時点では時価はゼロのため、何も計上しません。

2.決算日(利払日)の処理

<問題>
借入金の利息を支払うとともに、金利スワップの処理を行う。変動金利は4%とする。
また決算日のため金利スワップを適切に評価する。期末日の金利スワップの時価(資産) 75千円。
法人税等の実効税率は40%とする。

<解説>
金利スワップでは「ヘッジ会計を適用しない場合」「繰延ヘッジで処理する場合」「特例処理を適用する場合」の3ケースがあります。

2-1.ヘッジ会計を適用しない場合

<仕訳>

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
支払利息200,000現金預金200,000
現金預金50,000支払利息50,000
金利スワップ75,000金利スワップ損益75,000

<解説>
借入金(1行目)及び金利スワップ(2行目)それぞれで利払いの処理を行います。
支払利息(金利スワップ)=想定元本10百万円✕(変動金利4%−固定金利3%)✕6ヶ月/12ヶ月=50千円(支払利息に加減)

決算日には金利スワップの時価評価を行います。期末日の時価75千円を資産計上するとともに収益計上します。

<(補足)金利スワップの時価>
金利スワップにより得られると期待される将来キャッシュフロー(利息)の現在価値として評価します。今後の返済期限、利払い回数、金利市場の変動等が影響し、金利スワップの最後の利払時にゼロになります。

2-2.繰延ヘッジで処理する場合

<仕訳>

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
支払利息200,000現金預金200,000
現金預金50,000支払利息50,000
金利スワップ75,000繰延ヘッジ損益45,000
繰延税金負債30,000

<解説>
利息の仕訳は「ヘッジ会計を適用しない場合」と同じです。

3、4行目で金利スワップの繰延ヘッジを行っています。ヘッジ会計の処理の1つである繰延ヘッジは、デリバティブの時価で資産又は負債評価するものの損益処理はせずに純資産の部に計上します。

それではいつ損益処理するかといえば借入金の利息が費用計上される「利払日の都度」です(支払利息として処理。つまり1、2行目の仕訳)。この結果、固定金利3%のみが損益計上されることになり、ヘッジ対象(借入金の利息)とヘッジ手段(スワップ契約による変動・固定金利の交換)を同一の会計期間に認識し、金利変動のリスクを軽減するというヘッジの効果を会計に反映できることになります。

<(補足)税効果会計の適用>
繰延ヘッジでは会計上、損益計上しませんが資産負債(勘定科目「金利スワップ」)は時価評価します。対して法人税法上は時価評価しないため、「資産負債法」を採用する日本の会計基準では繰延ヘッジに対して税効果会計を適用します。

2-3.特例処理を適用する場合

<仕訳>

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
支払利息200,000現金預金200,000
現金預金50,000支払利息50,000

<解説>
繰延ヘッジと異なり、「特例処理」では借入金及び金利スワップの利息の仕訳のみ行い、金利スワップを時価評価しません。しかしどちらも金利スワップの時価を損益処理しないことからヘッジ会計の目的を果たしています。

<特例処理の要件>
ヘッジ会計の要件を充たしており、かつ、その想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受払日等)及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合に適用できます。

会計基準等

※2024年10月15日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)
金融商品会計に関する実務指針(移管指針第9号)

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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