資産負債法と繰延法とは|違いと税効果会計上の取り扱い
記事公開日:2022年6月8日
税効果会計の会計理論上の用語として「資産負債法」と「繰延法」があります。
本記事では、両者の違いや、現行の会計制度上の取り扱いについて解説します。
資産負債法とは
「資産負債法」とは、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、当該差異が解消する時に、その期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合に、当該差異(一時差異)が生じた年度に、それに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法をいいます。
繰延法とは
「繰延法」とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に、当該差異による税金の納付額又は軽減額を、当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法をいいます。
税効果会計(理論)
資産負債法も繰延法も、税効果会計上の理論的な用語です。従って、会計制度とは区別して理解する必要があります。
一般的に、会計制度では、複数の視点を切り口とした諸理論や、政治経済的な側面からも検討することから、必ずしも、いずれか一方の理論のみを採用するわけではありません。さらに「真実性の原則」の考えである「相対的真実性」に基づき、時と場所と状況に応じて、会計制度が支持する理論は異なります。
両者の違い
次の通り。
1.着目する視点が「資産・負債」なのか、それとも「収益・費用」なのか
資産負債法では、「資産・負債」に着目し、貸借対照表上の繰延税金資産又は繰延税金負債の金額と表示を重視しています。
繰延法では、「収益・費用」に着目し、損益計算書上の利益と法人税等との対応関係を重視しています。
2.「一時差異」と「期間差異」
資産負債法では、一時差異に基づき繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しますが、繰延法では、期間差異に基づきます。
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3.税率
資産負債法では、将来、一時差異が解消した時の法人税等の回収又は支払の額を貸借対照表上で表すことを重視するため、税率の変更があった場合には、変更後の税率に基づき、繰延税金資産又は繰延税金負債を計算します。
これに対して繰延法では、期間差異が発生した年度の損益計算書上の表示額を重視するため、期間差異の発生時に繰延税金資産又は繰延税金負債を計上した後、税率の変更があったとしても、変更後の税率では計算しません。
現行の会計制度上の取り扱い
現行の税効果会計の基準は、次の通り、「資産負債法」を採用しています。
1.用語・経緯
会計基準上の定めでは「資産・負債」「一時差異」といった言葉を使用しています。また、会計基準・適用指針を設定した「経緯」に、資産負債法を採用した、といったコメントがあります。
2.その他有価証券評価差額金
現行基準では、「その他有価証券評価差額金」の計上時には、税効果会計を適用します。
「その他有価証券評価差額金」は損益計算書には計上せず、直接、貸借対照表の純資産の部(評価・換算差額等)に表示します。従って、「期間差異」は発生せず、「一時差異」が発生します。すなわち、その他有価証券評価差額金に税効果会計を適用する、ということは、資産負債法を採用している、ということに他なりません。
3.税率の変更時の対応
現行の基準上、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算する、としており、税法の改正に伴い税率が変更された場合には、変更後の税率をもって繰延税金資産又は繰延税金負債を計上します。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2022年6月8日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書(企業会計審議会)
・税効果会計に係る会計基準(同上)
・「税効果会計に係る会計基準の」の一部改正(企業会計基準第28号)
・税効果会計に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第28号)
参考文献
・広瀬 義州 財務会計(第13版) 中央経済社 2015年