時価ヘッジとは|その他有価証券の仕訳と繰延ヘッジとの違い
執筆日:2024年10月26日
※本記事は、2024年10月26日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
ヘッジ会計のもう1つの会計処理である「時価ヘッジ」について、「その他有価証券と金利スワップのヘッジ会計」の仕訳例を使って「繰延ヘッジ」との違いにも言及して解説します。
※「ヘッジ会計の概要」「金利スワップ」及び「繰延ヘッジ」については下記の記事で、解説しています。
時価ヘッジとは?
「時価ヘッジ」は、ヘッジ会計の会計処理の1つです。原則的な方法である「繰延ヘッジ」に対する容認処理として「金融商品に関する会計基準」に定められています。
会計処理
ヘッジ対象の資産又は負債に係る相場変動等を損益に反映させることによって、ヘッジ対象とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識します。
どういうことかというと、原則的にはその時点では損益計上しないようなヘッジ対象について、ヘッジ会計を適用し、かつ時価ヘッジを適用する場合には、例外的にヘッジ対象の損益計上を認めるのです。
例えば、その他有価証券の時価変動額について、原則的には「その他有価証券評価差額金」として純資産に計上します。しかし、時価ヘッジを適用した場合には、当該時価変動額を例外的に「投資有価証券評価損益」として損益計上します。
ヘッジ手段であるデリバティブ取引は、決算時に時価評価し当該変動を損益処理することから、この結果、ヘッジ会計を適用した決算時にヘッジ対象とヘッジ手段に係る損益が認識されるため、両者の損益が相殺される結果、ヘッジの効果を財務諸表に反映させることができます。
繰延ヘッジとの違い
「繰延ヘッジ」ではヘッジ手段に係る相場変動等の損益計上を繰り延べて先送りすることで、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を同一会計期間に認識させます(つまり、ヘッジ対象の損益認識にヘッジ手段の損益認識を合わせる)。
これに対して、「時価ヘッジ」では、ヘッジ対象に係る相場変動等を通常よりも早い期に損益計上することで、両者の損益認識のタイミングを合わせます(つまり、ヘッジ手段の損益認識にヘッジ対象の損益認識を合わせる)。
その他有価証券と時価ヘッジ
時価ヘッジは「ヘッジ対象である資産又は負債に係る相場変動等を損益に反映させることができる場合」に適用できます。
つまり、通常では損益計上しないが時価ヘッジを適用する場合には損益計上できるような性質を有するヘッジ対象にのみ、時価ヘッジは適用できるということを意味します。
そして、ヘッジ会計の適用対象となれるヘッジ対象の中で、現時点で上記の性質を有するのは「その他有価証券」だけと解釈されています(「金融商品会計に関する会計基準」第185項 参照)。
仕訳例
その他有価証券に対して金利スワップを指定した場合のヘッジ会計を例に説明します。
※「金融商品会計に関する実務指針」の設例18の改題。
※金利スワップは下記の記事で解説しています。
<問題>
・ある会社の社債(固定金利)を100で取得し「その他有価証券」として区分した。
・同時に金利変動による当該社債利札の価格変動リスクを減殺する目的で、変動金利支払・固定金利受取の金利スワップを締結し、ヘッジ指定した。
・ヘッジ会計の要件を満たしているものとし、税効果会計は考慮しない。
・その後の決算日の時価は次の通りである。
項目 | 社債 | 金利スワップ |
---|---|---|
取得原価 | 100 | − |
金利上昇による影響 | ▲5 | +6 |
信用悪化による影響 | ▲10 | − |
期末時価 | 85 | 6 |
1.取得・契約締結時の処理
<仕訳>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
その他有価証券 | 100 | 現金預金 | 100 |
<解説>
その他有価証券の取得のみ仕訳します。金利スワップは契約締結時は時価ゼロのため何も仕訳しません。
(補足)公正価値ヘッジとキャッシュ・フローヘッジ
- ・本問の金利スワップは、固定金利の社債に対して変動金利支払・固定金利受取の金利スワップを締結するという、一般的な問題とは固定と変動が逆さまになった一風変わった設定になっています。
- ・当該設定は、仮に市場金利が上昇した場合、固定金利だと相対的に割高になる、という「金利の価格変動リスク」を回避するために行うヘッジ行動(「公正価値ヘッジ」といいます)といえます。
- ・これに対して、「借入金(変動金利)によるキャッシュフローの変動リスクを回避するために、固定金利支払・変動金利受取の金利スワップを締結する」という一般的な問題で設定される「キャッシュ・フローの変動リスクに対するヘッジ」を「キャッシュ・フローヘッジ」といいます。
2.決算日の処理
<繰延ヘッジ>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
その他有価証券評価差額金 | 15 | その他有価証券 | 15 |
金利スワップ | 6 | 繰延ヘッジ損益 | 6 |
<時価ヘッジ>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
投資有価証券評価損益 | 5 | その他有価証券 | 15 |
その他有価証券評価差額金 | 10 | ||
金利スワップ | 6 | 金利スワップ損益(投資有価証券評価損益) | 6 |
<解説>
繰延ヘッジでは、金利スワップ(ヘッジ手段)の損益を「繰延ヘッジ損益(純資産科目)」として次期以降に繰り延べることで、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を同一会計期間に認識します。
これに対して、時価ヘッジでは、本来は「その他有価証券評価差額金」として純資産計上するその他有価証券の時価変動額について、「投資有価証券評価損益」として損益計上することで、金利スワップの時価評価(金利スワップ損益)との認識を合わせています。
(補足)信用リスクをヘッジしない理由
- ・時価ヘッジの仕訳を見ると、信用悪化による影響▲10については損益計上せずに「その他有価証券評価差額金」で処理しています。
- ・理由は、問題文で「金利変動による当該社債利札の価格変動リスクを減殺する目的」で金利スワップを締結したとあり、「信用リスク」はヘッジ対象ではないからです。
- ・従って、信用リスクの影響▲10についてはヘッジ会計を適用しないため、時価ヘッジで会計処理せずに通常のその他有価証券の処理方法である「その他有価証券評価差額金」で仕訳します。
会計基準等
※2024年10月26日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
ヘッジ会計の仕訳を理解するために、はじめに「ヘッジ手段」として用いられる代表的なデリバティブ取引(先物/オプション/スワップ)の問題を掲載。段階的に難しい本論点を学習できます。PDCA会計の他の仕訳問題集と異なり、詳細な解説でデリバティブの仕組みを理解しやすくしました。