10-7 経過勘定科目

経過勘定科目という、決算手続きで計上する勘定科目について解説します。

簿記3級の中では難しい論点です。

経過勘定科目

経過勘定科目(けいかかんじょうかもく)とは、時の経過に応じて継続的に発生する費用・収益を当期と次期以降に分けて計上するために使用する勘定科目をいいます。

経過勘定科目には

前受収益(まえうけしゅうえき)
前払費用(まえばらいひよう)
未収収益(みしゅうしゅうえき)
未払費用(みばらいひよう)

が存在します。

前受収益と前払費用

前受収益(まえうけしゅうえき)とは、当期に受け取った代金が次期以降の収益である場合に計上する、収益の前受けをいいます。

前払費用(まえばらいひよう)とは、当期に支払った代金が次期以降の費用である場合に計上する、費用の前払いをいいます。

例えば、x1年3月31を決算日とする会社の場合、

前受収益:「当期x1年3月に受け取った家賃収入であるが、次期x2年4月以降分の家賃収入である場合」
前払費用:「当期x1年3月に支払った借入金の利息であるが、次期x2年4月以降分の借入利息である場合」

です。

未収収益と未払費用

未収収益(みしゅうしゅうえき)とは、次期以降に代金を受取るが、当期の収益である場合に計上する、未収の収益をいいます。

未払費用(みばらいひよう)とは、次期以降に代金を支払うが、当期の費用である場合に計上する、未払いの費用をいいます。

例えば、x1年3月31を決算日とする会社の場合、

未収:「次期x2年4月に受け取る家賃収入であるが、当期x1年3月分の家賃収入である場合」
未払い:「実際の支払いは次期x2年4月以降であるが、当期x1年3月分の借入金利息である場合」

です。

経過勘定科目の対象になる取引

経過勘定科目の対象になる取引は、簡単にいえば次の両方を満たす取引です。

未払金と未払費用の違い

どちらも代金の未払いの際に使用する勘定科目ですが、

未払金は、有形固定資産の購入など継続的ではない一時的な取引代金の未払いの際に使用

します。

これに対して未払費用は、借入金の利息の支払いなど、時の経過に応じて継続的に毎月発生するような取引に使用します。

経過勘定科目の仕訳

決算整理仕訳」として仕訳します(決算整理仕訳は「13-3 決算整理事項等」で解説)。

前受収益・前払費用の仕訳

それぞれ「前受〇〇(負債に属する勘定科目)」「前払〇〇(資産に属する勘定科目)」で仕訳します。

〇〇の部分はサービスの内容によって異なります。例えば、家賃の前受けであれば、「前受家賃」、保険料の前払いであれば、「前払保険料」といった勘定科目を使用します。

「前受〇〇」の総称を「前受収益(負債に属する勘定科目)」、「前払〇〇」の総称を「前払費用(資産に属する勘定科目)」といいます。

具体例-前受収益と振替

具体的な仕訳を前受収益(前受〇〇)で説明すると次の通り。

例えば「6ヶ月分の家賃60万円を受け取り、うち2ヶ月分は次期の収益である場合」を考えます。

6ヶ月分の家賃を受け取った時には、6ヶ月分の金額で借方に現金・預金の勘定科目、貸方には「受取家賃」を記入して仕訳します。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
家賃の受取現金預金600,000受取家賃600,000

そこで、2ヶ月分を次期の受取家賃として計上するために、決算時に決算整理仕訳として、借方に「受取家賃」を記入し、貸方に「前受家賃(前受収益でも可)」を記入して仕訳します。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
前受家賃の計上受取家賃200,000前受家賃 ※200,000

※前受収益も可

この仕訳で受取家賃の残高を減少して前受家賃の残高を増加しました(受取家賃から前受家賃への振り替え)。

この仕訳の結果、「受取家賃」の借方は60万円、貸方20万円、残高は借方40万円となり、当期には4ヶ月分の受取家賃が計上された状態になります。

前払費用の場合も、同様に考えますが、貸借の記入が収益とは反対になります。「次期以降の費用にする = 当期の費用を減少させる」ので、借方に「前払〇〇(前払保険料など)」を記入し、 貸方に費用の勘定科目(保険料など)を記入して仕訳します。

再振替仕訳-前受収益

上の家賃の前受け計上の仕訳(振替仕訳)は、翌期首(決算日の翌日)の日付で、借方と貸方をそれぞれ反対にした仕訳を行います(再振替仕訳)。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
再振替仕訳前受家賃 ※200,000受取家賃200,000

※前受収益も可

この仕訳によって、次期に2ヶ月分の家賃を収益として計上できます。

前受収益・前払費用の仕訳(まとめ)

以上から前受収益・前払費用の仕訳は次の通り。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
前受け計上代金の受け取り現金預金×××収益の勘定科目×××
振替仕訳収益の勘定科目×××前受〇〇×××
再振替仕訳前受〇〇×××収益の勘定科目×××
前払い計上代金の支払い費用の勘定科目×××現金預金×××
振替仕訳前払〇〇×××費用の勘定科目×××
再振替仕訳費用の勘定科目×××前払〇〇×××

※「前受〇〇」は「前受収益」、「前払〇〇」は「前払費用」も可

取引の8要素

(例題)
1.当期に5ヶ月分の保険料10万円(うち、2ヶ月分は次期の保険料)を普通預金から振り込んだ。
2.決算(3/31)を迎えた。決算整理仕訳として、1.の経過勘定科目を計上する。
3.次期になった。4/1に再振替仕訳を記帳する。

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1保険料100,000普通預金100,000
2前払保険料 ※20,000保険料20,000
3保険料20,000前払保険料 ※20,000

※前払費用も可

(解説)
1.の仕訳で保険料の残高が5ヶ月分になりますが、うち2ヶ月分は次期の保険料です(つまり当期分は3ヶ月分)。

そこで、決算整理仕訳として、2ヶ月分について保険料から前払保険料(前払費用)への振り替えを行います。

最後に翌期首に再振替仕訳を記帳すれば、2ヶ月分の保険料が次期に計上されることになります。

未収収益、未払費用の仕訳

それぞれ「未収〇〇(資産に属する勘定科目)」「未払〇〇(負債に属する勘定科目)」で仕訳します。

〇〇の部分はサービスの内容によって異なります。例えば、手数料の未収であれば、「未収手数料」、利息の未払いであれば、「未払利息」といった勘定科目を使用します。

「未収〇〇」の総称を「未収収益(資産に属する勘定科目)」、「未払〇〇」の総称を「未払費用(負債に属する勘定科目)」といいます。

具体例-未払費用

具体的な仕訳を未払費用(未払〇〇)で説明すると次の通り。

例えば、6ヶ月分の利息12万円を次期に支払いますが、うち2ヵ月分は当期の費用である場合を考えます。

6ヶ月分の利息は次期に支払うため、当期にはこの取引については仕訳していません。

そこで2ヶ月分の利息を当期に計上するために、決算時に決算整理仕訳として、借方に「支払利息」を記入し、貸方に「未払利息(未払費用でも可)」を記入します。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未払利息の計上支払利息40,000未払利息 ※40,000

※未払費用も可

この仕訳の結果、当期には2ヶ月分の支払利息が計上された状態になります。

未収収益(未収〇〇)の場合も同様に考えますが、貸借の記入が未払費用とは反対になります。「収益を当期に未収計上 = 当期の収益として計上する」ので、 貸方に収益の勘定科目(受取手数料勘定など)を記入し、借方に「未収〇〇(未収手数料など)」を記入して仕訳します。

再振替仕訳-未払費用

前受家賃の例と同じように、翌期首(決算日の翌日)に未払費用計上(振替仕訳)の再振替仕訳を行います。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
再振替仕訳未払利息 ※40,000支払利息40,000

※未払費用も可

そして、利息の支払い日に6ヶ月分の利息を支払う仕訳を記帳します。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
利息の支払い支払利息120,000現金預金120,000

これで、次期の支払利息は、借方12万円、貸方4万円のため、残高は8万円となります。次期に4ヶ月分が計上された状態になりました。

未収収益・未払費用の仕訳(まとめ)

以上から未収収益・未払費用の仕訳は次の通り。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未収計上振替仕訳未収〇〇×××収益の勘定科目×××
再振替仕訳収益の勘定科目×××未収〇〇×××
代金の受け取り現金預金×××収益の勘定科目×××
未払い計上振替仕訳費用の勘定科目×××未払〇〇×××
再振替仕訳未払〇〇×××費用の勘定科目×××
代金の支払い費用の勘定科目×××現金預金×××

※「未収〇〇」は「未収収益」、「未払〇〇」は「未払費用」でも可

取引の8要素

(例題)
1.決算(3/31)を迎えた。次期に家賃収入18万円(9ヶ月分)が振り込まれる予定であるが、うち3ヶ月分は当期の収益であるため、決算整理仕訳として経過勘定科目を計上する。
2.次期になった。4/1に再振替仕訳を記帳する。
3.家賃収入18万円が予定通り普通預金に振り込まれた。

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1未収家賃 ※60,000受取家賃60,000
2受取家賃60,000未収家賃 ※60,000
3普通預金180,000受取家賃180,000

※未収収益も可

(解説)
1.問題文から3ヶ月分の受取家賃を未収計上(未収家賃を計上)します。

経過勘定科目のまとめ

下記に主な経過勘定項目をまとめました。

取引分類収益or
費用
収益or費用科目経過勘定科目
家賃前受収益受取家賃前受家賃
前払費用支払家賃前払家賃
未収収益受取家賃未収家賃
未払費用支払家賃未払家賃
地代前受収益受取地代前受地代
前払費用支払地代前払地代
未収収益受取地代未収地代
未払費用支払地代未払地代
保険料前払費用保険料前払保険料
未払未払保険料
電気ガス水道料金未払費用水道光熱費未払水道光熱費
法定福利費未払費用法定福利費未払法定福利費
利息前受収益受取利息前受利息
前払費用支払利息前払利息
未収収益受取利息未収利息
未払費用支払利息未払利息
手数料前受収益受取手数料前受手数料
前払費用支払手数料前払手数料
未収収益受取手数料未収手数料
未払費用支払手数料未払手数料

仕訳問題(基本)

次の問題文を読み、経過勘定科目の計上について決算整理仕訳を示しなさい。

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1受取利息30,000前受利息30,000
2前払地代100,000支払地代100,000
3水道光熱費50,000未払水道光熱費50,000
4未収手数料120,000受取手数料120,000

※それぞれ、「前受収益」「前払費用」「未払費用」「未収収益」も可

<解説(基本)>

経過勘定科目の決算整理仕訳(振替仕訳)を示す問題。簿記3級の典型的な出題形式です。

はじめに、使用する「費用科目又は収益科目」と「経過勘定科目」は何か、を考えます。

次に、それぞれの勘定科目を借方・貸方どちらに記入するのかを決めて、仕訳を記帳します。

仕訳問題(応用)

次の取引は、A社の×1年4月1日から×2年3月31日を当期とする取引である。×2年3月31日の経過勘定科目に関する決算整理仕訳(振替仕訳)を示しなさい。

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1前払家賃1,500,000支払家賃1,500,000
2未収利息50,000受取利息50,000
3受取地代4,000,000前受地代4,000,000
4保険料330,000未払保険料330,000

※それぞれ、「前払費用」「未収収益」「前受収益」「未払費用」も可

<解説(応用)>

難易度高の応用問題。

慣れるまでは難しく感じると思いますが、繰り返し読み込んでいけば理解できるようになります。

<No1>
「家賃の支払い」「当月から半年分の家賃を支払い」とあるため、勘定科目は「支払家賃」「前払家賃」を使用します。

×2年1月1日に当月から半年分(×2年1月1日から×2年6月30日)の家賃支払い→×2年4月1日から×2年6月30日の3ヶ月分は次期の費用→300万円(半年分)のうち3ヶ月分である150万円を前払い計上

<No2>
「100万円を貸しており」「利息」とあるため、勘定科目の1つは「受取利息」です。

「毎年5月31日に前年6月1日~当年5月31日までの期間の利息が当座預金に振り込まれる。」とあるため、毎年6~3月の10ヶ月分の未収です。従って、経過勘定科目は、「未収利息」を使用します。

次期×2年5月31日に受け取る利息額(×1年6月1日から×2年5月31日の12ヶ月分):貸付金100万円 × 6% = 6万円

このうち、当期の期間:×1年6月1日から×2年3月31日の10ヶ月分。

当期の未収利息:( 6万円 ÷ 12ヶ月 ) × 10ヶ月 = 5万円

<No3>
問題文の「土地を継続して貸す契約」「先払いで受け取る」から、「受取地代」「前受地代」を使用します。

×2年2月1日に半年分の地代を「先払い」→×2年4月1日から×2年7月31日の4ヶ月分は次期の収益→600万円の4ヶ月分である400万円を前受け計上

<No4>
問題文の「火災保険契約を締結」「支払う」から、「保険料」を使用します。

次に「毎年4月30日に前年5月1日から当年4月30日までの保険料36万円を支払う」から、毎年5~3月の11ヶ月分が未払いのため、経過勘定科目は「未払保険料」を使用します。

次期×2年4月30日に×1年5月1日から×2年4月30日の保険料を支払い→当期×1年5月1日から×2年3月31日の11ヶ月分が未払いの状態→36万円(12ヶ月分)の11ヶ月分である33万円を未払い計上

\ SHARE /

仕訳問題(ランダム出題)