2022年改正|電子帳簿保存法の社内ルール運用の実務ポイントを解説(考察あり)

記事最終更新日:2022年2月27日
記事公開日:2022年2月20日
2022年度の電子帳簿保存法の改正に伴い、会計帳簿の電子化が話題になっています。
リモートワークが一般化した現在においては、業務効率化の観点から導入したいと考えている企業は多いと思います。
そこで本記事では、電子帳簿保存法を運用する上でのポイントについて、会計上・内部統制上の観点から解説します。
他の記事にはない、フリーランス実務家会計士の独自視点による考察も加えています。
2022年改正|電子帳簿保存法の社内ルール運用の実務ポイントを解説(考察あり)
目次
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、情報化社会に対応し、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する目的で制定された法律をいいます。
正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。
施行日は、平成十年(1998年)。20年以上経過した法令ですが、昨今のコロナ禍によるリモートワーク(在宅勤務)普及に伴い最近のトレンドワードになっています。
改正点
「経済社会のデジタル化」が促進されたことに伴い、令和3年度の税制改正によって電子帳簿保存法の改正等が行われました。当該改正は令和4年1月1日から施行開始となっています。
「税務署長による電子帳簿化の事前承認制度の廃止」「優良な電子帳簿の要件を満たした場合の過少申告加算税の軽減措置の整備」「タイムスタンプや検索などに関する電子帳簿の保存要件の緩和」などが主な改正点になっています。
参考情報
法令上の留意点
留意点は次の通りです。
3区分に分けて検討
電子帳簿保存法は、大きく3区分に分けて規定されており、保存要件が異なるため、これらの区分毎に検討します。
<ポイント>3区分
- ・電子帳簿等保存 = 電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存
- ・スキャナ保存 = 紙書類を画像データで保存
- ・電子取引 = メール添付ファイルやEDIデータなど電子的な取引情報をデータで保存
(区分①)電子帳簿等保存
正規の簿記の原則に従って記録された帳簿データをいいます。
<ポイント>電子帳簿等保存の対象
- ・会計ソフトの会計データ(仕訳帳、総勘定元帳、補助簿)、業務ソフトの仕入販売データ、マスタDBなど
- ・貸借対照表、損益計算書データ
- ・作成した納品書控えや請求書データ(紙ではない)
取引年月日、取引金額、取引先といった項目により検索できることが条件になっています。左記情報を規則的に含めて命名したファイルをフォルダに保管する方法や、エクセルファイルで記録簿を作成しておく方法によって対応できます。
国税庁の「電子帳簿保存法1問1答」に詳細が分かりやすく載っているため参考にすれば対応できるはずです。
<考察>正規の簿記の原則の3要件
- ・「網羅性」「検証性」「秩序性」が知られています。
- ・しかし、すぐに検証できない(裏付け資料が揃わない、秩序立っていない)会計帳簿を揃えている会社は大企業でも少なくないのが現状です(=大企業と監査法人の力関係を思い知る場面)。
- ・電子帳簿保存法の帳簿要件に検索要件が含まれていることからも「検証性」には容易に帳簿データが検索できることが含まれる、と考えるべきです。売上データであれば仕訳帳(伝票)と売上証憑(納品書控え、請求書控え、検収書など)の対応関係が容易に検索できなければいけない。
- ・電子帳簿保存法の帳簿保存要件が、実務的なスタンダードとなり慣習として浸透していくことを、過去に会計監査人として資料依頼に苦労した者の立場からも望みます。
その他の留意点として、会計データの対象範囲があります。例えば、会計データのうち、販売データや仕入データについては連携した販売・仕入業務システムと連携した「月次でまとめた集計データ」として会計システムに反映されている場合には、会計システム上のデータだけでは個別取引が検索できないことから、「販売システムや仕入システム、及び関連マスタDB」も電子帳簿保存法の対象に含める必要があります。
この点も国税庁のHPに事例として掲載されているため参考にしましょう。
(区分②)スキャナ保存
自社発行や取引先からの授受に関わらず紙媒体の会計関係書類をいいます。
<ポイント>スキャナ保存の対象
- ・自社発行した資料(納品書控え、請求書控え、領収書控えなど)の紙媒体
- ・取引先が発行し授受した納品書、請求書、領収書などの紙媒体
スキャナ保存の留意点として「タイムスタンプ」があり、保存要件として「一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプ」を付すことが規定されています。
しかし、例えばクラウドサービスなどによって「訂正削除履歴が残る(もしくは訂正削除できない)」機能を有したシステムを利用した場合には、タイムスタンプの付与に代替できます。
といっても訂正削除の訂正削除時の時刻が残る機能だけでは代替できません。ワークフローをはじめとするシステム選定は後述する運用上のポイントと併せて留意する必要があります。
(区分③)電子取引
スキャナ保存で例示した取引先からの書類を、紙媒体ではなく電子データとして授受した場合が該当します。
<ポイント>電子取引の対象
- ・取引先が発行し電子メールやEDIなどにより授受した納品書、請求書、領収書などの電子データ
スキャナ保存と同様、タイムスタンプが留意点になります。
タイムスタンプ以外の代替も存在し、スキャナ保存で紹介した「訂正削除履歴が残る(もしくは訂正削除できない)」機能を有したシステム利用以外にも、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規定」を定めて運用する方法などもあります。
運用上のポイント
電子帳簿保存法の運用上のポイントを内部統制上の視点から解説します。
※ポイントの例示であって網羅ではありませんのでご留意ください。
法令の理解
法律・施行令・施行規則が存在します。法律に定義が示され、施行規則に上述した具体的な要件などを定めています。
ただし、他の法令と比較しても「ものすごく読みにくい」部類に入ります。法令だけ読んでも、まず理解できません。
国税庁の電子帳簿保存法のサイトにある「改正点」や概要、3種類の1問1答などを読むとともに、下に掲載した弥生会計のサイト情報を読むとポイントが把握できます。
<考察>電子帳簿保存法の理解
- ・法令を理解するには3区分と条文(法律)の対応関係を理解することが大事です。
- ・下のポイントを参照(弥生会計のサイトを参考しました)。この対応関係が分かれば条文を読み込めます。
- ・本記事も併せて参考にすることは言うまでもありません。
3区分と電子帳簿保存法(法律)の対応関係は次の通り。
<ポイント>3区分と法令の対応関係
- ・区分①のうち、「国税関係帳簿(仕訳帳、元帳など)」→法4条1項
- ・区分①のうち、「決算書類」→法4条2項
- ・区分②のうち、「スキャナ保存(自社発行)」→法4条2項
- ・区分②のうち、「スキャナ保存(取引先発行)」→法4条3項
- ・区分③「電子取引」→法7条
参考情報
コロナ支援金
コロナ禍に伴うリモートワーク対応ということでコロナ関係の支援金の対象になり得ます。
システムの選定
保存要件を満たすかどうか以外にも、内部統制やセキュリティ視点から利用するシステムを選定する必要があります。
<考察>セキュリティ視点のシステム選定
- ・セキュリティ視点ではクラウド or オンプレミスの選択。リモートワークとの関係で重要です。
- ・クラウドにするのであれば、委託先管理がオンプレミス以上に重視される(セキュリティ依存度が高くなるため)。「アクセスコントロール」とログ監視が重要です。
- ・委託先管理はIT統制(全般統制)に該当。単にJ-SOX対応という視点ではなく、セキュリティを含めたより大きな経営視点で取り込みたいところ。
- ・オンプレミスの場合には委託先管理ではなく自社管理体制がより重要に。VPN接続が一般的ですが、「ゼロトラストネットワーク」の視点から、この手法はセキュリティ上の問題も指摘されつつあります。クラウドと同様に従来のセキュリティ施策以外にもアクセスコントロールやログ監視を重視した体制整備と運用が求められる傾向にあります。
<考察>内部統制視点のシステム選定
- ・経営管理視点からは、電子帳簿化に取り組むだけでなく「一元管理」を意識して取り組むべきところ。
- ・「対象範囲を広くして取り組む」「承認行為や資料作成責任者」「改ざん防止」という視点も含めて取り組むなど。
- ・単なる電子帳簿保存法といった視点だけで取り組むのは、経営企画室長として経営管理体制を構築・運用に貢献した経験上、センスがない会社と言わざるをえません。もしくは内部統制を考えていない会社。そういった社風。
- ・私であれば、会計監査上でも以上のような視点で会社の統制環境上のリスクを検討します。
まとめ
以上、電子帳簿保存法を解説しました。
会計帳簿の電子化は、様々な意識改革が行われる可能性のあり、やりがいのある取り組みだと思います。
辛口コメントもありますが、参考にして頂けると幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
- ・電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成十年法律第二十五号)
- ・電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行令(令和三年政令第百二十八号)
- ・電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(平成十年大蔵省令第四十三号)
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。