正規の簿記の原則とは|誘導法や会計帳簿の要件を解説(考察あり)
記事最終更新日:2022年7月11日
記事公開日:2022年2月15日
企業会計原則の一般原則のうち、正規の簿記の原則について解説します。
誘導法や会計帳簿の要件、及び単式簿記は正規の簿記の原則を満たすのか、など参考文献に基づいて解説するとともに、実務に役立つ考察・コメントをフリーランス会計士が行っています。
正規の簿記の原則とは|誘導法や会計帳簿の要件を解説(考察あり)
目次
正規の簿記の原則とは
正規の簿記の原則とは、正確な会計帳簿の作成を求める、企業会計原則の一般原則の1つをいいます。
引用元:企業会計原則
第一 一般原則「二 企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。」
企業会計原則上の位置付け
正規の簿記の原則は企業会計全般に関する基本原則である「一般原則」の1つとして、記録について規定する役割を担っています。
っして他の一般原則や個々の会計基準とともに、最高規範である「真実性の原則」を担保します。
会計帳簿
正確な会計帳簿の作成と日々の帳簿記録を求めています。
我が国の会計帳簿については、仕訳帳(又は伝票)と総勘定元帳を主要簿とした帳簿組織が普及しています。
取引に応じて現金出納帳、得意先元帳、固定資産台帳といった補助簿にも記録します。
簿記手続き
- 取引(会計事実)→仕訳帳・伝票→総勘定元帳→補助簿
<考察>日本の会計帳簿の普及について
- ・会計帳簿の具備を当たり前のように感じてしまう点ではありますが、日商簿記検定や税理士・国税庁の貢献による所が大きい、と本記事を書きながら感じています。
- ・監査法人は、財務諸表の表示に対して意見形成すべく監査します。従って、私の経験では勘定科目や日々の記帳には職業柄、あまり言及しません(ただし過去にはなかった取引の発生などの際に積極的に言及することは少なくありません)。
- ・一方で、後述する通り「検証性」を具備しているとはいえない帳簿は、大企業であっても少なくありません。
- ・財務諸表視点を重視していると、私たち会計士は正規の簿記の原則という視点を軽視しているかもしれません。この原則の視点から、全体的な会計記録の指摘を行うことは効果的かもしれない。
- ・最近の日商簿記3級では、納品書や請求書といった「証ひょう」が出題される傾向にあります。正規の簿記の原則と大きく関係するところであり、日商簿記を学習した経理人には期待しています。
誘導法
日々の取引を記帳した会計帳簿に基づいて、財務諸表を作成する方法を「誘導法」といいます。
<コメント>誘導法
- ・日本では誰もが知っている当たり前のやり方です。
会計帳簿が具備する要件
正規の簿記が要請する、会計帳簿が具備する要件は「網羅性」「検証性」「秩序性」とされています。
網羅性
条文に「すべての取引につき」と記載されている通り、会計帳簿に記録すべき事実を漏れなく正確に記録すること( = 網羅性)が求められます。
言い換えると、「簿外資産・簿外負債を認めない」ということです。
ただし後述の通り、重要性の原則に従って記帳した場合には容認されます。
検証性
検証性とは、取引事実を裏付ける客観的な証拠に基づいて、会計帳簿に記録することをいいます。
例えば、販売取引であれば、納品書控えや請求書控えをはじめとする証憑資料に基づいて記帳する、ということです。
<考察>検証性について
- ・大企業であっても、裏付け資料が添付されていない仕訳帳や伝票を提出されてしまい、会計監査が遅々として進まなかったケースは少なくありません。
- ・大企業の場合、取引先との力関係から、ほとんど全ての取引が自社システム帳票で揃えることから、紙面印刷して会計記帳を揃える意義を感じていない傾向はある、と感じるケースはあります(クライアントと監査法人の力関係も多分に感じてしまう場面でもあります)。
- ・他にはIT系やコンテンツ系のベンチャーでは、取引慣行の未成熟さからか、契約書や検収書をはじめとした証憑資料が揃わない会社は沢山存在しました(揃っている方が珍しい)。これは会計監査だけでなく経理部長・スタッフとして働いていた時にも実感しています。おそらく現在も変わらない傾向なのでしょう。
- ・裏付け資料が揃ってこそ検証性の要件を満たすものと考えるのが、普通の考えだと思います。
- ・仕訳帳・伝票の承認行為とともに、より具体的な検証性の要件として主張したいところです。
秩序性
秩序性とは、会計帳簿への記録を一定の法則に従って秩序正しく行うことをいいます。
<考察>秩序性
- ・会計データ上では、有名会計パッケージソフト内の秩序性は無論問題ありません(適切な設定・運用を行っていれば)。
- ・ただし紙面での秩序性は税理士指導や社内意識の程度に依拠する部分が大きいと思います(大企業も同じ)。
- ・システム間の連携も考慮した月次・年次決算の内部統制がどの程度有効に機能しているかどうか、会社の管理体制の成熟度を観る際には多いに参考にしています。
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複式簿記と単式簿記
日本で一般的に採用している複式簿記は、正規の簿記の原則を満たすといえます。
ただし、単式簿記であっても正規の簿記の原則を満たし得ます。
すなわち、「複式簿記」は「正規の簿記の原則を満たす」の十分条件であるが必要条件ではない、ということです。
会社法との関係
会社法では432条1項に会計帳簿の作成に関する条文があります。
引用元:会社法
432条1項「株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。」
重要性の原則
網羅性を解説しましたが、企業会計原則では重要性に応じた会計処理を認めています。この限りにおいて、例外的に簿外資産・簿外負債は許容されます。
まとめ
正規の簿記の原則を改めて学習すると深さを感じます。他の一般原則を含めて現代でも必ず学習すべき会計基準であることは言うまでもありません。
フリーランスとなってから日商簿記の学習WEBサイトや書籍を書いていますが、同様に改めて学習して発見できること・定着することは少なくありません。
参考文献
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
・会社法(平成十七年法律第八十六号)
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。