発生主義とは|バレンタインチョコの具体例でわかりやすく解説
執筆日:2024年2月19日
※対象:会計学の入門者
「発生主義」は「現金主義」「実現主義」と並ぶ「収益費用の認識基準」の1つですが、他の2つよりも関連用語が多く、様々な言葉で説明されること、解説書によって説明が異なる程度が大きいこと、及び「発生主義会計」の理解が難しいことなどの理由から、入門者にとって難しい論点の1つといえます。
そこで本記事では、「バレンタインチョコ」を具体例として、「発生主義」とは何かについて、意義やデメリットを中心に関連用語も含めて、わかりやすく解説します。
発生主義とは|バレンタインチョコの具体例でわかりやすく解説
目次
「発生主義」とは
「発生主義」とは、収益・費用の「認識基準」の1つであり、企業活動の中で経済的価値の増加時に収益を計上し、経済的価値の減少時に費用を計上します。
※「経済的価値」の増減が「収益・費用」の発生に該当します。
「発生主義」は、「企業会計原則」でも次の通り、定められています。
引用元:企業会計原則
第二 損益計算書原則「A すべての費用及び収益は、(省略)、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。」
収益・費用の「認識基準」の考え方
会社は「企業活動」を行うことで、取り扱うモノ・サービスの「付加価値(経済的価値)」を高めて利益を獲得しようとします。
この企業活動を、「仕入」「製造」「販売」など、複数の「企業活動活動」に区分し、どのプロセスのタイミングで収益・費用を計上することが適切かを考えることが、会計学のうち、収益・費用の「認識基準」の論点といえます。
「発生主義」の考え方
各活動プロセスの中から、「経済的価値の増加」「経済的価値の減少」となるタイミングを見つけます。「発生主義」に従った場合、前者であれば「収益の発生」、すなわち収益を計上するタイミングとなり、後者であれば「費用の発生」、すなわち費用を計上するタイミングになります。
(補足)認識基準
収益・費用の「認識」とは、「いつ計上するか」を表す会計用語であり、「いくらで計上するか」を表す「測定」とともに収益・費用の計上基準を学ぶ上で重要な会計用語です。
収益・費用の「認識基準」には、「発生主義」の他、「現金主義」や「実現主義」があります。
意義
後の「具体例」で分かりやすく解説しますが、モノ・サービスの付加価値(経済的価値)の評価が、企業の適切な業績評価(期間損益計算)につながります。従って、この点において、「発生主義」に基づく収益・費用の認識は、適切な期間損益計算に貢献します。
仮に「現金主義」に基づいた場合には、商品の販売後、現金回収プロセスの時点まで待ってから収益を計上します。しかし、「掛け取引」に代表される「信用経済」が発達した現代においては、収益計上のタイミングが遅いといえます。
この点、「発生主義」を純粋に適用した場合には、活動プロセスのうち、「製造」の段階で収益を認識することから、適時に企業の業績を評価できます。
デメリット
以上の通り、一見すると業績評価には最適と思われる「発生主義」ですが、特に「収益の経済的価値の測定」という点において、「主観的な見積り」にならざるを得ないケースが多いといえます(後の「具体例」でわかるように解説します)。この場合、計上した収益の金額には「客観性」がなく、「検証可能性」にも乏しい数字といえます。
現代の「所有と経営の分離」を前提とした株式会社の企業会計においては、経営者は、信頼関係が存在しない多数の「投資家(潜在的な株主・債権者含む)」からも信頼される「裏付けある客観的な数字」で作成した「財務諸表(B/S,P/Lなど)」を報告しなければなりません。
つまり、「発生主義」に基づいて計上した収益は、「タイミング(認識)」の点において、適時な業績評価には貢献するものの、「金額の評価(測定)」の点において、的確な業績評価には、まるで役に立たないといった場合があるため、この点が「発生主義」のデメリットといえます。
具体例(バレンタインチョコ)
以下、「バレンタインチョコ」を例に、複数のケースを示して「補足」も含めながら、「発生主義」に従った場合の収益・費用計上をわかりやすく解説します。
(ケース0)設定
A子さんは「バレンタインデー」に「手作りチョコ10個(友チョコ・義理チョコ)」を10人の男女に渡す企画を考えています。
「手作り」にするのは、見た目や味にこだわり「付加価値」をつけることで、「コスト以上の価値を得るため(ホワイトデーのお返し)」です。
(ケース1)「手作り」
次の通り。
費用の計上(補足あり)
「手作り」の際に消費した材料費や光熱費などは「原価計算」によって「チョコ1個あたりのコスト(製造原価)」を計算した結果、「1個あたり500円」と計算しました(チョコ10個で製造原価5,000円)。
材料や電気・ガスを消費する都度、材料代や電気・ガス代という「経済的価値」が減少することから、この段階で費用を計上します。
これらの金額は「客観的な金額」です。なぜならば、レシートや公共料金通知書に購入金額・ガス・電気代が載っているからです。
従って、A子さんが主観的に見積もることなく、誰からも信用される金額として、費用計上できます。
<補足>費用収益の原則
- ・「発生主義」だけに従えば、手作りチョコに要したコストは全て手作り時に費用計上することになります。
- ・しかし、会計基準上においては「費用収益対応の原則」に従って、チョコから収益が得られる時に対応して費用計上します(後の「発生主義会計」で解説)。
- ・従って、「費用収益対応の原則」に従う場合には、「手作り」時点では「仕掛品」、完成した段階で「製品」として資産に計上します。
<補足>研究開発費
- ・上記の「費用収益対応の原則」を適用する場合においても、もしもA子さんがレシピに載っていないような「新チョコ」を開発する場合には、「新チョコの試作品」が完成するまでにかかった材料費などのコストは全て「研究開発費」として費用計上しなければなりません。
- ・理由は「新チョコ」によって、収益(ホワイトデーのお返し)が獲得できるかどうか不確実だからです。
- ・もしかすると大ヒットするかもしれませんが、「既存チョコ」と比較すると損失となるリスクが大きいため、現在の会計基準では、発生時(消費時)の費用とします。
- ・つまり、「研究開発費」は「発生基準」に従った費用計上の方法といえます。
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収益の計上(補足あり)
A子さんはチョコの手作り中、チョコのお返しに期待を膨らませ、「このチョコには1個当たり1,000円の経済的価値があると思うから、同額のお返しがありそう」と見積もりました。
従って、「発生主義」に従えば、チョコが完成したタイミングで「1個1,000円」の収益を計上します(チョコ10個で10,000円の収益計上)。
この結果、「手作り」の時点で、利益5,000円が計算でき、業績評価できてしまいます。
ただし、この収益10,000円はあくまでもA子さんの「主観的な見積り」による金額であるため、本当に10,000円のお返しがあるかどうかは分かりません(不確実の程度が大きい)。
従って、現在の企業会計においては、「役に立たない数字」といえます(「発生主義」のデメリット)
<補足>受注生産の場合
- ・もしも、手作り段階で既に次の通り、契約を交わし対価が確定している場合には、このチョコ作りは「見込み生産」ではなく、「受注生産」ということができます。
- (1)既に男女10人からホワイトデーの見返りについて「総額10,000円」の約束を取り付けていた場合
- (2)A子さんがお菓子作りの名人であり、他の女子から「1個1,000で10個の手作りチョコ」を依頼されていた場合
- ・この場合、収益10,000円は「A子の主観」ではなく、「契約に基づく客観性ある金額」であるため、会計基準上でも10,000円に応じた収益の計上が認められます(つまり、「発生主義」に従って収益計上できる)。
- ・例えば、期末日までの段階でチョコ完成までの進捗度が70%の場合には、10,000円の70%である7,000円を収益計上します。
- ※厳密には「収益認識会計基準」という会計基準に従って判断します。
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(ケース2)「手渡し」(補足あり)
バレンタインデー当日、A子さんは10個のチョコを10人の男女に手渡しました。
「発生主義」に拠れば、「手作り」のタイミングで「費用5000円」及び「収益10,000円」を計上しているため、手渡しのタイミングでは費用・収益どちらも計上しません。
<補足>見込み販売(実現主義の適用)
- ・もしも、A子さんがビジネスでチョコを店頭販売していた場合、この「チョコの引き渡し」の段階でお客から現金1,000円を受け取ります。
- ・会計基準上では、この「引き渡し」のタイミングで収益を計上します(「実現主義」)。
- ・また、費用も、収益計上のタイミングで計上するため、この引き渡しのタイミングで「1個あたり500円」を費用計上します(「費用収益対応の原則」)。
- ※どちらも後の「発生主義会計」を参照
(ケース3)回収(補足あり)
待ちに待ったホワイトデーの日になりました。
さて、A子さんは目論み通り、10,000円分の見返りを得ることができるでしょうか?
<補足>主観的な見積り
- ・「見返り」を目的に、チョコを作るため、どうしても「期待値」が高くなります。
- ・従って、ほとんどの場合において、「主観的な見積りによる収益10,000円」を下回ることになります。
- ・たとえ、上場企業でも計画通りに収益を獲得するのは簡単ではないのです。
発生主義会計
以上の通り、「発生主義」には「主観的な見積りによる計上」というデメリットがあることから、会計基準上において、収益は、原則として「実現主義」に従い、販売のタイミングで計上しなければなりません。つまり、収益計上においては原則として「発生主義」は認められず、「手作り」の段階では収益計上できません。
また、「収益=成果」と「費用=貢献」という「対応関係」を損益計算書上に反映させるため、「費用」は「製造(具体例の「手作り」)」の段階では計上せずに、収益計上のタイミングである「販売」の段階で計上します(「費用収益対応の原則」)。
以上の収益・費用計上に基づいた会計を「発生主義会計」といいます。
収益・費用ともに「発生主義」に依った場合と比較すると、「発生主義会計」では「販売」タイミングでの業績評価となるため、「適時性」という点においては「発生主義」に劣ります。しかし、「収益・費用」ともに「客観的な金額」であるため、「発生主義」と比較して、会社外部の投資家に遥かに信頼される報告になり、総合的に優れています。
<発生主義会計>
- ・収益計上:「実現主義」
- ・費用計上:「発生主義」&「費用収益対応の原則」
まとめ
以上、「バレンタインチョコ」を例に、「発生主義」を具体的にわかりやすく解説しました。
<発生主義のポイント>
- ・「発生主義」のメリット・デメリット:「経済的価値(付加価値)」「業績評価」「主観的な見積り」「検証可能性」といった言葉で理解する。
- ・「発生主義」と「発生主義会計」の違いを理解する。
会計基準等・参考文献
会計基準等
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
参考文献
・スタンダードテキスト財務会計論I(基本論点編)(第9版) 中央経済社 2015年
・桜井久勝 財務会計講義(第12版) 中央経済社 2011年
・新井清光 新板財務会計論(第4版) 中央経済社 1998年