ヘッジ会計の有効性の判定方法(事後テスト)を解説(上級)
執筆日:2024年10月25日
※本記事は、2024年10月25日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
ヘッジ会計を適用するための要件には「事前テスト」と「有効性の判定(事後テスト)」があります。
本記事では、有効性の判定方法について具体例を挙げて解説します。
※「ヘッジ会計の概要」及び「事前テスト」の詳細は下記の記事を参照
ヘッジ会計の有効性の判定
ヘッジ会計を適用した取引については、「高い有効性」が保たれていることを継続的に確認しなければなりません。これを「事後テスト(有効性の判定)」といいます。
1.有効性の内容
「ヘッジ対象」と「ヘッジ手段」との間に次の相関関係を確認した結果、高い相関性が認められた間はヘッジ会計を継続して適用できます。
有効性の確認要素
- ・特定の相場変動
- ・キャッシュフローの変動
ヘッジ取引開始時に文書化した「事前テスト」で指定したリスクの内容によってどちらの要素を確認するかが決まります。
どちらの要素を確認するか?
- 例1:輸出取引の為替変動リスクを軽減する目的でドルの売り予約を行いヘッジ会計を適用する場合
- →ヘッジ対象及びヘッジ手段それぞれの「ドル為替相場の変動」の相関関係を確認する。
- 例2:借入金の金利変動リスク(すなわちキャッシュフロー変動リスク)を回避するために金利スワップを開始。ヘッジ会計を適用する場合
- →ヘッジ対象及びヘッジ手段それぞれの「キャッシュフローの変動」の相関関係を確認する。
2.高い相関性とは?
ヘッジ開始時から有効性の判定時までの間の上記要素の累計を算定した結果、「ヘッジ対象」と「ヘッジ手段」との変動額の比率が概ね80%から125%までの範囲内にある場合には、両者の間には高い相関関係があると認められます。
相関関係の計算例
- ※ヘッジ対象の変動を分母にして計算する
- 例1:ヘッジ手段の損失額=80 ヘッジ対象の利益額100
- →80/100=80%
- →相関性が高いと認められる
- 例2:ヘッジ手段の利益額=100 ヘッジ対象の利益額=75
- →100/75=133.3%(四捨五入)
- →相関性が高いとは認められない
3.実施時期は?
決算日には必ずヘッジ有効性の評価を行います。さらに少なくとも6ヶ月に1回程度の頻度で、有効性を判定する必要があります。
4.例題
<問題>
・当社は商品を輸出しているがドル相場の変動リスクを軽減するためにドルの為替予約(売り予約)を行うこととした。
・当該取引をヘッジ取引として指定しヘッジ会計を適用する。
・取引時の事前テスト及びリスク管理方針は適切に文書化されているものとする。
・決算日及び中間決算日に有効性の判定を行う。ドル相場及び取引時からの変動の累計(カッコ書き)は下記の通りとする。
項目 | 直物相場 | 先物相場 |
---|---|---|
取引時 10/1 | 100円 | 100円 |
決算日 3/31 | 95円 (▲5) | 96円 (+4) |
中間決算日 9/30 | 110円 (+10) | 115円 (▲15) |
<決算日の判定>
4/5=80% 高い相関性が認められる。
従って有効性が高いことから、ヘッジ会計を引き続き適用する。
<中間決算日の判定>
15/10=150% 高い相関性があるとは認められない。
従って有効性が高いと認められず、ヘッジ会計の適用を中止する。
<(補足)先物取引について>
「先物取引」は代表的なデリバティブ取引の1つ。先物取引を理解することが、ヘッジ会計を含むデリバティブの全ての論点を踏破するきっかけになります。
「直物と先物の違いを知りたい」「ドル安ドル高と損益の関係を理解したい」「仕訳を学習したい」という人は下記の記事を参照。
5.例外的な取り扱い
次の2つの場合では高い有効性が保たれているとみなし、有効性の判定を省略できます。
有効性の判定を省略できる例外的なケース
- 例外1.ヘッジ対象とヘッジ手段の重要な条件が同一である場合(「金融商品会計に関する実務指針」158項 参照)
- 例外2-特例処理の要件を満たす「金利スワップ」の場合
会計基準等
※2024年10月25日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
ヘッジ会計の仕訳を理解するために、はじめに「ヘッジ手段」として用いられる代表的なデリバティブ取引(先物/オプション/スワップ)の問題を掲載。段階的に難しい本論点を学習できます。PDCA会計の他の仕訳問題集と異なり、詳細な解説でデリバティブの仕組みを理解しやすくしました。