ストック・オプションとは|会計用語のポイント解説
記事最終更新日:2023年12月9日
記事公開日:2022年7月2日
ストック・オプションは難しい論点の1つです。目的や理論的な背景も含めて会計基準に記載があります。
本記事では、ストック・オプションとは何かについて、会計基準上のポイントを用語や理論も併せて解説します。
ストック・オプションとは
ストック・オプションとは、自社株式オプションのうち、特に企業がその従業員等に、報酬として付与するものをいいます。
「自社株式オプション」とは、自社の株式(財務諸表を報告する企業の株式)を原資産とするコール・オプション(一定の金額の支払により、原資産である自社の株式を取得する権利)をいい、新株予約権が該当します。
新株予約権
新株予約権とは、株式会社が発行する権利であって、権利者が権利行使期間内に、権利行使価格を当該会社に出資することによって、当該会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます(会社法第2条21号)。
以上から、「新株予約権のストック・オプション」とは、企業が従業員等の報酬として付与する新株予約権をいい、「ストック・オプション」といった場合には新株予約権を対象としていると考えるのが一般的です。
ストック・オプションの目的
ストック・オプションは、会社の役員や従業員等に対するインセンティブ報酬として付与されます。すなわち、労働サービスの質量を高めるための動機付けとして採用されます。
会計基準制定の経緯
新株予約権は、日本では比較的新しい制度であり、平成13年11月の旧商法改正によって導入されました。
今後の新株予約権ストック・オプションの利用活発化が予想されること、及び海外でもストック・オプションの会計基準が整備されつつあったため、企業会計基準員会は「わが国におけるストック・オプション制度に関する実態調査」を実施するとともに、国際的な動向の調査も踏まえ、考慮すべき基本論点を整理した「ストック・オプション会計に係る論点の整理(以下、論点整理)」を公表し、広く意見を求め、審議を重ねました。
そして、以上の活動の結果、公開草案を経た後に平成17年12月に公表したのが「ストック・オプション等に関する会計基準」及び「同適用指針」であり、平成18年5月の会社法施行日以後に付与されるストック・オプション等から適用開始となりました。
以下、会計基準について解説します。
理論的な背景
当会計基準上において、最も重要な論点は「費用認識の要否」、つまり「従業員等に付与したストック・オプションを対価として、従業員等が企業に提供した労働等のサービス等を費用認識できるかどうか」です。
この点、次の4点に整理されます。
<費用認識の要否に関するコメント整理(まとめ)>
- (1)費用認識に根拠がある
- (論拠)従業員等は、ストック・オプションを対価としてこれと引換えに企業にサービスを提供し、企業はこれを消費している
- (2)費用認識の前提条件に疑問がある
- (論拠)そもそもの前提(ストック・オプションの対価性)に疑問がある
- (3)費用認識に根拠がない
- (論拠)新旧株主間で富の移転が生じるに過ぎず、また、企業には現金などの会社財産が流出しない
- (4)費用認識が困難又は不適当である
- (論拠)ストック・オプションの公正な評価額の見積もりに信頼性がない
以上のコメントを検討した結果、会計基準では「(1)費用認識に根拠がある」として、ストック・オプションの付与に応じて企業が従業員等から受けたサービス等を費用計上する、としています。
「(1)費用認識に根拠がある」を採用した理由
- ・企業に帰属するサービスの消費は財貨の消費と同様に費用認識するのが整合的
- ・財貨と異なりサービスをB/S計上しないのは、サービスの性質上、貯蔵性がなく取得と同時に消費されるからに過ぎない
会計基準上で挙げている他のコメントの問題点・反論・検討点)は次の通り。
<他のコメントの問題点・反論・検討点(まとめ)>
- (2)費用認識の前提条件に疑問がある
- ・合理的な経済活動を営む企業が見返りも無くストック・オプションを付与することは考えにくい
- ・実態調査の結果からもストック・オプションをサービス取得の対価として付与している
- (3)費用認識に根拠がない
- ・新旧株主間の富の移転と費用認識とは別の問題
- ・株式を時価未満で購入する条件付きの権利が対価であり、無償でサービスを受け取るわけではない
- ・償却資産の現物出資や贈与という財貨の無償受取りの場合であっても、減価償却として費用認識を行う
- (4)費用認識が困難又は不適当である
- ・公開企業(≒上場企業)については投資家に十分有用な情報を提供できる
- ・未公開企業に関する取扱いとして検討する
用語
代表的な関連用語を挙げます。
従業員等
企業と雇用関係にある使用人の他、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役並びにこれに準ずる者
行使価格
ストック・オプションの権利行使にあたり、払い込むべきものとして定められたストック・オプションの単位当たりの金額
付与日
ストック・オプションが付与された日。会社法上の募集新株予約権の割当日に該当
権利確定日
ストック・オプションの権利が確定した日。権利確定日が明らかでない場合、原則として権利行使できる期間の開始日
権利行使日
従業員等がストック・オプションの権利を行使して行使価格に基づく金額が払い込まれた日
公正な評価額
市場価格に基づく価額。市場価格がない場合には、ストック・オプションの原資産である自社株式の市場価格に基づき、合理的に算定された価額を入手できるといには、その合理的に算定された価額は公正な評価額と認められます。
会計処理
いくつかのポイントに絞って会計基準をまとめたものを記載します。
※ストック・オプションの仕訳処理については次の記事で解説しています。
適用範囲
企業が従業員等に対してストック・オプションを付与する取引に対して適用されますが、その他、企業が財貨又はサービスの取得において、ストック・オプション以外の自社株式オプションを対価として付与する取引にも当会計基準を適用します。
ただし、企業結合に関する会計基準等、他の会計基準の範囲に含まれる取引については、当会計基準は適用しません。
権利確定日以前
ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用計上し、対応する金額をストック・オプションの権利行使又は退職や権利行使期間の経過などによって権利不行使による失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上します。
<各会計期間の費用計上額(原則的な方法)>
- ・費用計上額 = 公正な評価額(※1) × 当会計期間の対象期間 / 対象勤務期間(※4)
- ※1 公正な評価額:公正な評価単価(※2) × ストック・オプション数(※3)
- ※2 公正な評価単価:付与日現在で算定し、原則としてその後の見直しは行わない
- ※3 ストック・オプション数:付与数から「失効の見積数」を控除して算定
- ※4 対象勤務期間:付与日から権利確定日までの期間
失効の見積数に重要な変動が生じた場合には、ストック・オプション数を見直します。見直した場合には、見直し後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、その期までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を見直した期の損益として計上します。
権利確定日後
従業員等からストック・オプションの権利行使があり、これに対して新株を発行した場合には、「新株予約権」として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えます。
権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を当該失効が確定した期の利益として計上します。
関連記事
注記
代表例を示します。
<ストック・オプションの注記事項例>
- ・本会計基準の適用による財務諸表への影響額
- ・各会計期間において存在したストック・オプションの内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等)。
- ・ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法
- ・ストック・オプションの権利確定数の見積方法
- ・ストック・オプションの条件変更の状況
- ・その他
表示
「新株予約権」は貸借対照表上、純資産の部に「株主資本」とは別の区分に「新株予約権」として独立表示します。
ストック・オプションを対価として企業が取得するサービスを費用計上した場合の損益計算書上の区分については会計基準上、明文がありません。しかし、取得したサービスの性質に応じて適切な区分に表示すべきと考えられます。一般的には従業員等から取得するサービスは労働(人件費)であり「販売費及び一般管理費」の区分に表示します。
権利不行使による失効が生じた場合に生じる利益は、原則として特別利益に計上し、「新株予約権戻入益」などの科目名称を用いることが適当と考えられます(会計基準の「結論の背景」より)。
会計基準等
※2022年7月2日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・ストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第8号)
・ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第11号)
・貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(企業会計基準第5号)
・貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針(企業会計基準適用指針第8号)
・会社法(平成十七年法律第八十六号)