トライアングル体制とは|日本の会計制度を解説(入門)
記事最終更新日:2023年12月16日
記事公開日:2012年4月5日
「トライアングル体制」とは、「金融商品取引法」「会社法」「税法」のそれぞれで定める決算書が存在するという、日本の会計制度上の特徴を表す会計用語です。
現在の日本の会計の関心事は、「国際会計基準へのコンバージェンス」であり、下記に記載する通り、現在の日本では、これまでの取り組みの結果、三法それぞれから求められる決算書に差異は見られなくなり、「トライアングル体制」は過去の言葉となりました。
しかし、「トライアングル体制」は日本の会計制度の特徴を表す言葉として依然として重要な会計用語であり、さらに「金融商品取引法」「会社法」「税法」の各法律の目的と決算書の関係を理解することが「実務に役立つ会計」を学ぶことに繋がります。
そこで、本記事では、会計入門者を対象に、日本の会計制度の特徴を表す「トライアングル体制」という会計用語を解説し、金融商品取引法、会社法、税法の各決算書について、違いが分かるように解説します。
トライアングル体制とは|日本の会計制度を解説(入門)
目次
トライアングル体制と3種類の決算書
「制度会計」という言葉があります。制度会計とは、法に基づいた会計ルール、と覚えておけば差し支えありません。
日本には、主に「金融商品取引法(旧証券取引法)」「会社法(旧商法)」「税法」という3種類の法令に基づく制度会計が存在します。これらの相互に関係する3種類の制度会計が存在することから、我が国の会計制度を「トライアングル体制」といいます。
それぞれの法令に応えるため、それぞれの制度に対応した決算書が存在します。
このように
金融商品取引法:財務諸表
会社法:計算書類
税法:確定申告書
と3種類の決算書が存在することが分かります。
なぜ3種類の決算書が存在するかといえば、決算書を作る目的がそれぞれの法で異なり、目的に応じて決算書の内容も異なるものにする必要があるからです。
(補足)税法の決算書
税法にも「確定申告書」とは別に「税法の決算書」が存在し、「トライアングル体制」といった場合、厳密には、税法では確定申告書ではなく当該決算書を指します。
しかし、下記に示す通り、現在、税法の決算書は財務諸表(金融商品取引法上の決算書)や計算書類(会社法上の決算書)とほとんど違いがなく、また、税法の決算書には他のニ者のような決算書の個別の名称がありません。
本記事は入門者を対象としていることから、本記事では、他の二者と違いを分かりやすくするため、「確定申告書」を税法の決算書として解説しています。
(補足)トライアングル体制の現在
従来は、これらの決算書には会計学者・実務家を含めた関係者の間で論争になる程の違いが存在しました。
しかし、戦後、「企業会計原則」が制定された後に、これらの差異を調整・縮小する取り組みがなされ、旧商法の改正や会計基準等の改定を経た結果、現在では、三者にはほとんど差異が見られなくなりました。
法律の目的と決算書
それぞれの法令と決算書の関係について解説すると次の通り。
金融商品取引法と財務諸表
財務諸表は投資家(株主)を保護するために作成されます。
投資家は投資したい会社がどれだけ儲かっているのか(経営成績)や、お金がどれだけあるのか、借り入れがどれだけあるのか(財政状態)といったことを知りたいと思います。なぜならば、そういった情報を基準として株式を購入するかどうか、売却するかどうか判断したいからです。
しかし、会社が「ウソの決算書」を作る可能性があります。
つまり本当は儲かっていないのに儲かっているような決算書を作成している可能性があるわけです。
これを「粉飾決算(ふんしょくけっさん)」といいます。逆に儲かっているのに儲かっていない決算書を作ることを「逆粉飾決算」といい、脱税などに利用されます。
ウソの決算書が作られてしまえば、投資家は正常な判断をできるわけがありません。
そこで監査役や会計監査の専門家である監査法人(公認会計士)のチェック(監査)を受けないといけないとしています。
以上のことをただ単に「守りましょう」といっても、言う通りにするとは限りません。そこで、金融庁が「金融商品取引法」として会計ルールを制度化しています。
そして金融商品取引法のルールに基づいて作成する決算書のことを「財務諸表」といいます。
<財務諸表とその種類>
- ・個別財務諸表
- →「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「キャッシュ・フロー計算書」「附属明細表」
- ・連結財務諸表
- →「連結貸借対照表」「連結損益計算書」「連結包括利益計算書」「連結株主資本等変動計算書」「連結キャッシュ・フロー計算書」「連結附属明細表」
会社法と計算書類
会社法の目的は「債権者の保護」です。債権者には銀行などの金融機関(会社側からは借入金)や仕入先などが存在します。
これらの会社債権者を保護するため、安易に会社財産が社外流出しないように、会社法では、資本金や資本準備金を減少させる取引や、剰余金の配当について株主総会決議などの厳格な手続きを求めています。
そして、資本金や資本準備金を配当金として社外流出しないよう、会計制度では資本取引と損益取引を明確に区分することを定めています。
もう一つ重要な論点は、資産の財産性です。すなわち会社法では、換金価値のある資産を計上することを求めています。
なぜならば、もし換金価値のない資産を決算書に表示させた場合、決算書を読む会社債権者は会社財産がどれだけあるのか把握するのが難しくなるからです。会社債権者を保護する会社法としては、このようなケースを防止しなければなりません。
そこで、これらの目的から、計算書類では、純資産の部で資本取引と損益取引が明確に区分されるよう表示されます。
また、換金価値のない繰延資産は限定列挙し、会計基準で許可された科目のみ資産計上を認めています。
<計算書類とその種類>
- ・計算書類
- →「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「個別注記表」
- ※計算書類以外の書類:「事業報告」「附属明細書」
- ・連結計算書類
- →「連結貸借対照表」「連結損益計算書」「連結株主資本等変動計算書」「連結注記表」
税法と確定申告書
税法の目的は「課税の公平性を担保する」です。
会社が収める税については、利益から政策上の目的などから調整する加算項目、減産項目、その他の調整項目が存在します。
そこで、これらの計算の過程が明らかになるように、通常の決算書とは別に確定申告書を作成します。
そして、課税の公平性を担保するために、税金の専門家である税理士がチェックします。
決算書の具体的な種類と内容、閲覧方法など
以上のように目的が異なるため、決算書の内容や情報量も異なってきます。
EDINET
一番情報量が多いのが金融商品取引法の財務諸表です。
上場会社が内閣総理大臣(金融庁)に提出した財務諸表は「EDINET」というインターネットサイトで過去5年分いつでも見ることができます。
参考情報(外部リンク)
投資家を保護するだけあって、その情報量はかなりのボリュームになります。
しかし、投資家のうち、実際にこの情報を活用できているのはわずかな人だけです。
従って、財務諸表を隅から隅まで理解して読めるようになれば会計分野では「会計に関する相当な知見(ちけん)がある」といえるでしょう。
皆さんの1つの目標としてもいいかもしれません。
決算公告
次に、計算書類の要約をまとめた「決算公告(けっさんこうこく)」があります。
決算公告は株式会社などの事業会社であれば、上場していない会社も一般公開する必要があります。
一般公開の方法は、官報や新聞広告、会社のホームページなどです(会社が決めます)。
財務諸表と似た情報も多いですが、ボリューム自体は財務諸表とは比べ物にならない程簡素なものであり、必要な情報を簡潔にまとめています。
確定申告書は非公開
最後の確定申告書ですが、これは自社のものでなければ通常は見ることができません。
国税庁のホームページやインターネット検索で確定申告書のフォーマットや解説しているサイトはたくさんあります。また、書籍もたくさんありますので興味のある方は探してみて下さい。
その他の決算書について
上記以外にも会計ルールは存在します。例えば中小企業を対象とした会計ルール「中小会計要領(ちゅうしょうかいけいようりょう)」があります。
参考情報(外部リンク)
「中小企業の会計に関する基本要領」は、非上場企業である中小企業を対象とした会計ルールです。
実務上の要請に応じて、上場企業の会計ルールである金融商品取引法と比較して、大幅に簡素化された会計ルールになっています。
中小企業向けのスタンダードな会計ルールとなるよう、金融庁及び中小企業庁が中心となり、中小企業金融機関、税理士、公認会計士などと連携して普及活動を進めています。
その他、自治体や学校法人などについても、それぞれ法に基づいた会計ルールが存在し、上記とは異なる決算書を作成するよう要求されています。
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。