正常営業循環基準・一年基準とは|会計用語の解説(入門)
記事最終更新日:2023年7月23日
記事公開日:2012年4月14日
「正常営業循環基準」と「一年基準」は、貸借対照表の資産・負債の「流動・固定」の表示区分を判定するための基準であり、会計学を学ぶ際の重要な用語の1つです。
従って、この2つの用語を理解することで、B/S表示の理解を深めることができます。
本記事は会計入門者を対象として、「正常営業循環基準」と「一年基準」の概要を解説した後に、いくつかの表示科目について具体的に解説します。
正常営業循環基準・一年基準とは|会計用語の解説(入門)
目次
正常営業循環基準とは
正常営業循環基準とは、会社の主目的たる営業取引によって発生する科目かどうか」という視点による資産・負債の区分基準をいいます。
「営業取引」とは、会社が事業として扱う製品・商品の仕入れから販売して代金回収するまでの一連の取引をいいます。
主な営業活動のサイクルと科目は次の通り。
営業活動 | 資産・負債科目 |
---|---|
仕入 | 買掛金・商品 |
製造 | 材料・仕掛品・製品 |
販売 | 売掛金 |
一年基準とは
一年基準とは、「貸借対照表作成日の翌日から起算して1年以内に代金回収・返済又は費用化・収益化されるかどうか」という視点による資産・負債の区分基準をいいます。
B/S表示区分との関係
貸借対照表の表示区分には、複数の階層に分かれて存在します。
「正常営業循環基準」と「一年基準」は、B/Sの表示区分のうち、「流動資産と固定資産」「流動負債と固定負債」を区分する際の判断の基準になります。
※表示区分を含むB/Sの見方は下記の記事で解説しています。
流動・固定区分の判定
次の通り、2段階で判定します。
判定1-正常営業循環基準
対象の資産・負債が営業活動によって発生した場合には、流動資産・流動負債になります。
上記以外の資産・負債は、次の一年基準の判定に進みます。
判定2-一年基準
対象の資産・負債が貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に代金回収予定又は返済予定の場合には、流動資産・流動負債になります。
そして、どちらの判定によっても流動資産・流動負債にならない場合には、固定資産・固定負債になります。
趣旨
会社はビジネス(営業活動)を通じて利益を得ることを目的としています。従って、B/Sに表示している資産・負債が正常営業循環基準の観点から、営業活動サイクルで発生したかどうか、という視点は言うまでもなく重要です。
また、会社の投資家(株主)や債権者、そして他人資本(借入金)を提供する金融機関にとっては、B/Sに表示の資産・負債が将来、いつ回収又は返済されるのか、という情報も重要です。
貸借対照表は年度単位で作成して開示することから、一年基準によって判定し、一年以内に代金回収・返済予定の資産・負債を「流動資産・負債」として表示区分することが、会計情報の開示として大きな意義を持つことになります。
会計基準への適用
「企業会計原則」は、日本の企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであり、日本の会計基準の根幹といえるものです。
この企業会計原則の「注16」は「流動資産・負債と固定資産・負債を区別する基準」を規定しています。この規定には「正常営業循環基準」「一年基準」という用語の記載はありませんが、上記で解説した判定を反映した内容になっています。
そして、企業会計原則を具体化し、上場企業が作成する財務諸表(金融商品取引法)の表示基準である「財務諸表等規則」にも、正常営業循環基準と一年基準による流動固定の表示区分が反映されています。
具体例
例えば、「受取手形」「売掛金」は、製品や商品の販売の結果、生じる資産です。
従って、営業活動サイクルで発生することから、正常営業循環基準で判定した結果、流動資産に区分します。
金融機関からの「借入金(負債)」や建物・備品といった「有形固定資産(資産)」は、営業活動によって発生したものではないことから、正常営業循環基準では流動固定が確定しません。
そこで次の一年基準で判定すると、借入金のうち貸借対照表日から起算して一年以内に返済予定のものは「流動負債」とし、返済までに一年を超えるものは「固定負債」になります。
また、有形固定資産は、長期保有目的で使用することを前提として取得することから、「固定資産」としてB/S上、区分表示します。
まとめ
以上、会計用語である「正常営業循環基準」と「一年基準」について解説しました。
まとめ
- ・正常営業循環基準:会社の主目的たる営業取引によって発生する科目かどうか」という視点による資産・負債の区分基準
- ・一年基準:「貸借対照表作成日の翌日から起算して1年以内に代金回収・返済又は費用化・収益化されるかどうか」という視点による資産・負債の区分基準
- ・表示区分の判定:「正常営業循環基準→一年基準」の順に判定し、どちらかに該当すれば「流動資産・流動負債」。どちらにも該当しなければ「固定資産・固定負債」
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。