10-2 給料・社会保険料・源泉所得税・法定福利費
給料とは
給料(きゅうりょう)とは、会社の従業員が受け取る労働の対価のことをいいます。
言い替えると会社の従業員、いわゆる「会社員」が受け取るお金です。従業員とは会社と「雇用契約(こようけいやく)」を締結した者です。
「労働の対価(ろうどうのたいか)」とは、会社のために働いたことであり「従業員が会社に対して労働というサービスを提供した」ということです。
そして労働サービスの対価として給料としてお金をもらうということです(労働とお金の等価交換)。
工場で働く工員に対する給料を「賃金(ちんぎん)」ということがあります。
給料の明細と控除項目(社会保険料と源泉所得税)
給料の仕訳を理解するには、給料の明細に記載してある項目を理解することが近道です。
【引用元】給与明細の中身と読み方を知る:nikkei4946(全図解ニュース解説) - 日本経済新聞
この給料明細(給与明細とも)では、給料の総額(「総支給額」欄)が24万円に対して控除項目が約3万8千円(「控除額計」欄)であり、差し引き約20万円(「差引支給額」欄)が、この従業員の預金口座に振り込まれます。
控除項目の明細(「③控除」の行)を見ると次の項目が記載されています。
- (1)健康保険 11,964
- (2)厚生年金 20,969
- (3)雇用保険 1,200
- (4)(源泉)所得税 4,630
(1)健康保険、(2)厚生年金、(3)雇用保険といった項目を、まとめて社会保険料(しゃかいほけんりょう)といいます。
<ポイント:健康保険>
- ・健康保険(けんこうほけん)
- →病院で提出する「健康保険証(病院への支払いが軽減される)」の基になる社会保険料
<ポイント:厚生年金>
- ・厚生年金(こうせいねんきん)
- →老後に年金を受け取るために支払う社会保険料
<ポイント:雇用保険>
- ・雇用保険(こようほけん)
- →会社を辞めた際に、国から失業保険を受け取るために支払う社会保険料
(4)(源泉)所得税は社会保険料ではありませんが、同様に給料から控除される項目です。
<ポイント:(源泉)所得税>
- ・(源泉)所得税(げんせんしょとくぜい)
- →従業員の給料の額の大きさ(所得)に応じて、従業員が国に納付する税金(所得税)を、会社が代わりに納付するために、従業員から預かった所得税のこと。
その他、ここには記載がありませんが、(5)生命保険、(6)社宅家賃の従業員負担、(7)従業員への貸付金の回収なども控除項目になります。
給料の仕訳
仕訳が複雑なため、1つずつ順番に解説します。
仕訳の基本
給料の総額(総支給額の24万円)を「給料(費用に属する勘定科目)」で借方に記入し、控除項目の金額を差し引いた残額を当座預金や普通預金などの勘定科目で記入します。
<給料の仕訳(基本まで)>
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
給料の支払 | 給料 | ××× | 当座預金など | ××× |
控除項目(※) | ××× |
(※)未完成の部分
控除項目1-社会保険料、源泉所得税
上記で説明した(1)から(3)の社会保険料は、「社会保険料預り金(負債に属する勘定科目)」を使って貸方に記入します。
次に(4)の(源泉)所得税は「所得税預り金(負債に属する勘定科目)」で記入します。
<給料の仕訳(社会保険料と源泉所得税まで)>
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
給料の支払 | 給料 | ××× | 当座預金など | ××× |
社会保険料預り金 | ××× | |||
所得税預り金 | ××× | |||
その他控除項目(※) | ××× |
(※)未完成の部分
控除項目2-生命保険料、社宅家賃
(5)生命保険と(6)社宅家賃の従業員負担は2つのケースを考えます。
<ケース1>会社が立替払いしている場合
もし、会社が給料日前に先に立て替えて、生命保険会社や社宅の大家さんに支払いを済ませていれば、その時に従業員負担分は「従業員立替金(資産に属する勘定科目)(立替金でも可)」で借方に仕訳しているはずです。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
従業員負担の立替 | 従業員立替金 | ××× | 現金預金など | ××× |
そして、給料明細には「生命保険」「社宅家賃」といった控除項目が記載されることになります。
従って、「従業員はこの分だけ給料から差し引かれる = 会社が立て替えたお金は会社に返済した」ということですので、給料日に「従業員立替金(または立替金)」を貸方に記入して、従業員立替金(または立替金)を減少させます。
<給料の仕訳(生命保険料と社宅家賃まで)>
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
給料の支払 | 給料 | ××× | 当座預金など | ××× |
社会保険料預り金 | ××× | |||
所得税預り金 | ××× | |||
従業員立替金(※1) | ××× | |||
その他控除項目(※2) | ××× |
(※1)立替金でも可。問題の指示に従う。
(※2)未完成の部分
<ケース2>会社が立替払いしていない場合
もし、給料日には会社が生命保険会社や社宅の大家さんに、まだ支払いを済ませていない(立替払いしていない)のであれば、これらの項目は「従業員預り金(負債に属する勘定科目)」、
または「預り金」で貸方記入します。
<給料の仕訳(生命保険料と社宅家賃まで)>
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
給料の支払 | 給料 | ××× | 当座預金など | ××× |
社会保険料預り金 | ××× | |||
所得税預り金 | ××× | |||
従業員預り金(※1) | ××× | |||
その他控除項目(※2) | ××× |
(※1)預り金でも可。問題の指示に従う。
(※2)未完成の部分
従業員預り金は、その後、会社が生命保険会社や社宅の大家さんなどに支払います。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
従業員預り金の支払 | 従業員預り金 | ××× | 現金預金 | ××× |
控除項目3-従業員貸付
最後に(7)従業員への貸付金の回収は、「従業員貸付金(資産に属する勘定科目)」を貸方に記入します。従業員に貸し付けているお金を給料と相殺する、ということです。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
給料の支払い | 給料 | ××× | 当座預金など | ××× |
社会保険料預り金 | ××× | |||
所得税預り金 | ××× | |||
従業員預り金(※1) | ××× | |||
従業員貸付金 | ××× |
(※1)預り金でも可。問題の指示に従う。
従業員への貸付時の仕訳は次の通り。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
従業員への貸付 | 従業員貸付金 | ××× | 現金預金など | ××× |
<補足1>社会保険料や源泉所得税を給料から控除する場合の勘定科目について
社会保険料や源泉所得税は、会社が従業員より預かってから国に納めます。従って立替金ではなく預り金です。
<補足2>社宅家賃給料から控除する場合の勘定科目について
上述の社宅家賃の仕訳では、「支払家賃からマイナス処理する」「雑収入として仕訳する」など、複数の仕訳パターンが考えられます。
実務では契約内容や取引の実態から判断しますが、ここでは代表的な仕訳を掲げました。出題された場合には問題の指示に従って仕訳しましょう。
給料の仕訳(まとめ)
以上、給料の仕訳をまとめると次の通り。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
給料の支払い | 給料 | ××× | 当座預金など | ××× |
社会保険料預り金 | ××× | |||
所得税預り金 | ××× | |||
従業員預り金(※1) | ××× | |||
従業員貸付金 | ××× |
※1:預り金勘定でも可。なお、生命保険や社宅家賃を会社が先に支払っていた場合には、従業員立替金(立替金も可)になります。
法定福利費
社会保険料には、従業員から預かる部分(従業員負担といいます)だけでなく、会社が負担する部分も存在します(会社負担といいます)。
会社の従業員として働くと、社会保険料を全額支払わずに、約半分を会社が負担してくれるのです。
すなわち上に掲載した給料明細のうち、「健康保険料11,964円」「厚生年金20,969円」「雇用保険1,200円」といった社会保険料は、本来の社会保険料の約半分の金額ということです。
残りの半分は会社が費用として負担して、従業員から預かった社会保険料と一緒に国に納付します。
この会社が負担する従業員の社会保険料のことを法定福利費(ほうていふくりひ)といいます。
法定福利費の仕訳
「社会保険料預り金」「法定福利費(費用に属する勘定科目)」「未払法定福利費(または未払費用。負債に属する勘定科目)」および現金や預金などの勘定科目を使用して仕訳します。
※「未払法定福利費(未払費用)」は、「10-7 経過勘定科目」で解説します。
次の2つの方法があります。
(方法1)社会保険料の納付時に法定福利費を計上する方法
<補足1>で説明しましたが、社会保険料は会社が従業員より預かって国に納付します。
この時に、会社負担分である法定福利費も一緒に納付します。
従業員から預かった社会保険料は、給与を支払った時に「社会保険料預り金(負債に属する勘定科目)」を貸方に記入して仕訳しています。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
給料 | ××× | 当座預金など | ××× |
社会保険料預り金 | ××× | ||
所得税預り金 | ××× | ||
従業員預り金 | ××× | ||
従業員貸付金 | ××× |
そこで、社会保険料を納付する際には、社会保険料預り金(負債)が減少するので、「社会保険料預り金」を借方に記入します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
社会保険料預り金 | ××× |
会社負担分の社会保険料は、「法定福利費」を借方に記入して費用計上します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
社会保険料預り金 | ××× | ||
法定福利費 | ××× |
最後に、社会保険料の総額(従業員から預かった分 + 会社負担分)を現金や預金で貸方に記入します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
社会保険料預り金 | ××× | 現金預金 | ××× |
法定福利費 | ××× |
(方法2)給料の支払い時に法定福利費を計上する方法
(方法1)は、社会保険料を納付する時に法定福利費を費用として計上する方法です。
これに対して「給与を支払った時に法定福利費を計上する方法」もあります。
この場合には、上で解説した給与支払いの仕訳に追加して、借方に「法定福利費」、貸方に「未払法定福利費(未払費用)」を記入して仕訳します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
給料 | ××× | 当座預金など | ××× |
社会保険料預り金 | ××× | ||
所得税預り金 | ××× | ||
従業員預り金(※1) | ××× | ||
従業員貸付金 | ××× | ||
法定福利費 | ××× | 未払法定福利費 ※ | ××× |
※「未払費用」も可
社会保険料を納付する時には、社会保険料預り金と一緒に「未払法定福利費(未払費用)」を借方に記入して仕訳します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
社会保険料預り金 | ××× | 現金預金 | ××× |
未払法定福利費 ※ | ××× |
※「未払費用」も可
法定福利費・社会保険料の納付の仕訳(まとめ)
以上、法定福利費の計上と社会保険料の納付の仕訳をまとめると次の通り。
方法 | 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
未払法定福利費を使用しない方法 | 社会保険料の納付 | 社会保険料預り金 | ××× | 現金預金 | ××× |
法定福利費 | ××× | ||||
未払法定福利費を使用する方法 | 給与の支払 | 法定福利費 | ××× | 未払法定福利費 ※ | ××× |
社会保険料の納付 | 社会保険料預り金 | ××× | 現金預金 | ××× | |
未払法定福利費 ※ | ××× |
※「未払費用」も可
仕訳問題
- A社は給料日を迎え、給与総額から控除項目を差し引いた金額を当座預金から各従業員の口座に振り込んだ。
- ・給与総額1,000万円
- ・社会保険料150万円
- ・源泉所得税80万円
- ・生命保険20万円
- ※生命保険はA社が生命保険会社へ立て替え払い済み。この時に「(借方)従業員立替金 20万円 (貸方)普通預金 20万円」と仕訳している。
- ・会社が負担する社会保険料を計算した結果、150万円となった。
- ・給料日の翌月に社会保険料を普通預金口座より振り込んで納付している。
- (問題1)法定福利費を社会保険料納付時に計上した場合の(1)給料支払い時の仕訳と(2)社会保険料の納付時の仕訳を示しなさい。
- (問題2)法定福利費を給料支払い時に計上した場合の(1)給料支払い時の仕訳と(2)社会保険料の納付時の仕訳を示しなさい(「未払法定福利費」を使用すること)。
<問題1>社会保険料の納付時に法定福利費を計上する場合
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
(1)給料の支払 | 給料 | 10,000,000 | 当座預金 | 7,500,000 |
社会保険料預り金 | 1,500,000 | |||
所得税預り金 | 800,000 | |||
従業員立替金 | 200,000 | |||
(2)社会保険料の納付 | 社会保険料預り金 | 1,500,000 | 普通預金 | 3,000,000 |
法定福利費 | 1,500,000 |
<問題2>給料の支払い時に法定福利費を計上する場合
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
(1)給料の支払 | 給料 | 10,000,000 | 当座預金 | 7,500,000 |
社会保険料預り金 | 1,500,000 | |||
所得税預り金 | 800,000 | |||
従業員立替金 | 200,000 | |||
法定福利費 | 1,500,000 | 未払法定福利費 | 1,500,000 | |
(2)社会保険料の納付 | 社会保険料預り金 | 1,500,000 | 普通預金 | 3,000,000 |
未払法定福利費 | 1,500,000 |