真実性の原則とは|実務家フリーランス会計士が解説
記事最終更新日:2022年7月11日
記事公開日:2022年2月14日
企業会計原則の一般原則のうち、真実性の原則について解説します。
先人達の知恵(参考文献)に基づきながらも実務家フリーランス会計士としての自らの経験を活かして考察しています。
真実性の原則とは|実務家フリーランス会計士が解説
目次
真実性の原則とは
真実性の原則とは、企業会計の財務報告に対して真実な報告を求める、企業会計原則の一般原則の1つです。
引用元:企業会計原則
第一 一般原則「一 企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。」
企業会計原則の最高規範
企業会計の全領域に対して影響を及ぼす、包括的な原則ともいえます。
対象
「財政状態及び経営成績」という文言から分かる通り、規定当初の対象は貸借対照表と損益計算書でした。
しかし、現在の会計制度下では、主要な財務諸表であるキャッシュフロー計算書(キャッシュフローの状況)に関する真実な報告も要請するものといえます。
<考察>真実性の原則の対象範囲
- ・現在の複雑・多様な取引かつITが発達した状況にあっては、より広範囲に真実性を適用すべきではないだろうか。
- ・CFだけでなく、他の財務諸表(株主資本等変動計算書や包括利益計算書)への適用
- ・J-SOX制度(内部統制報告制度)にも真実性の原則は適用されるべきと考える。
- ・後述する「表現の忠実性」「中立性」を考えると、例えば有価証券報告書の財務諸表以外の文言や企業WEB上の適時開示情報にも真実性の原則は影響を及ぼす、と考えてよいのではないか。
真実性の意味
真実とは「本物」「本当」「絶対的な正しさ」といった言葉を連想します。
これに対して真実性の原則での「真実性」とは、「会計基準の遵守」「不正がないこと」「粉飾決算がないこと」を意味します。
相対的真実性
真実性の原則は「相対的真実性」といわれます。
時代
時代によって企業会計に求める真実は異なります。
「動態論と静態論」、「取得原価主義と時価主義」、「個別会計と連結会計」といった比較となる視点でも一方が是とされた時代もあれば、他方が正しいとする時代も存在します。
国
日本の会計基準(日本GAAP)と国際会計基準(IFRS)とでは異なるルールが存在するが、それぞれの会計基準を遵守すべき企業が遵守している上において、真実性の原則を満たしているといえます。
会計処理
会計基準には複数の会計処理が認められる場合がありますが、要件を満たしている限り、どの会計処理を適用しても真実性の原則を果たしていると考えます。
また、貸倒引当金に代表される、将来に関する見積もりが介在する会計処理についても、企業の判断が伴うことから相対的な真実性にならざるを得ません。
以上の理由から、真実性の原則は相対的なものであると考えられます。
<考察>相対的真実性について
- ・後述の通り、相対的真実性には社会的に認められる妥協範囲が存在し、理想の相対的真実性には遠く及ばないといえます。
- ・会計業務に割り当てられる企業資源(人、モノ、カネ、情報)の制限、内部統制を無効化する要因(権力者の存在、共謀、人の能力の限界など)による限界、人の考えの相違なども含めて相対的な真実性にならざるを得ない、といえます。
条件
真実性の原則を満たすべき条件には次のような要素があると解されます。
基準準拠性
文字通り、企業会計原則をはじめとする会計基準に準拠していることを意味します。
<考察>基準準拠性について
- ・財務諸表を作成するためのルールが会計基準であること、違反することは粉飾を意味することであり、この条件は常識者であれば異議のない点といえます。
表現の忠実性・中立性
「表現の忠実性」とは、財務諸表が会計事象を忠実に表現し、不正や虚偽があってはならないことをいいます。
「中立性」とは、特定の利害関係者の利害に偏向することなく、企業会計における不偏性を保つことをいいます。
<考察>表現の忠実性・中立性について
- ・基準準拠性と比較すると、現在社会では建前では是とされつつも、現実では必ずしも遵守されていない、浸透していない考えだと思います(闇になりやすい領域)。
- ・例えば、法令の条文に従っていれば良しとする考えや、判例に載っていないから、訴訟リスクは低いから良しとする考えは普通に存在します。法の妥当性には踏み込めない会計監査も当たり前に存在する。
- ・J-SOX制度は不正や虚偽の防止・発見に一定の効果はある。しかし、J-SOXは財務報告の信頼性を目的としており、会計が全ての会計事象を忠実に表現できているかといえば、限界があると言わざるを得ない。営業取引にしろ、人事総務業務にしても適切に会計に反映するためには会計領域以外の法令遵守が必要であり、また、特定の利害関係者に偏向してはならないが、そこまで実態を把握しきれていない。
- ・権力ある業界・団体の利害に偏向しやすいが、是正ができていない場合が少なからず存在する。
- ・「理想の相対的真実性」には遠く及ばない現実が存在するが、妥協も含めての「相対的真実性」と言わざるを得ないのが現実の姿
まとめ
最高規範であるからこそ、実際の社会で真実性の原則を満たすことは難しいといえます。
議論されなくなった論点ではありますが、複雑な現実社会だからこそ、再考する余地が大いにある原則といえるでしょう。
参考文献
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)