資本取引・損益取引区分の原則とは|会計基準の逐条解説

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記事公開日:2022年7月9日

企業会計原則を現在の会計基準と関連付けて解説。

本記事では「資本取引・損益取引区分の原則」とは何かについて、会計基準や事例を紹介しながら解説します。

資本取引・損益取引区分の原則とは

資本取引・損益取引区分の原則とは、資本取引と損益取引、並びに資本剰余金と利益剰余金との区別を求める、企業会計原則の一般原則の1つをいいます。

2つの区分

本原則は2つの区分を規定しています。

資本取引と損益取引

期首株主資本と期間損益との区別を意味します。

すなわち、「適正な期間損益計算」を行い当期純損益を算定するために、損益取引とそれ以外の資本取引を明確に区別する必要があることを表しています。

資本剰余金と利益剰余金

貸借対照表上の資本剰余金と利益剰余金との区別を意味します。

両者を混同すると、維持拘束される資本と処分可能性ある留保利益とが把握できず、配当によって資本が社外流出してしまう可能性があります。従って、両者を明瞭に区分する必要があります。

資本取引の範囲

資本取引の範囲には、増資などのように、株主からの払込資本を増減させる取引に限定する「狭義説」と、払込資本だけでなく、贈与資本や評価替資本も資本と捉える「広義説」の2つの考え方が存在します。狭義説は「資本主理論」と整合し、広義説は「企業体理論」と整合します。

現行の会計制度では、例えば国庫補助金や工事負担金などの受贈益を損益取引とすることからも分かる通り、狭義説の立場を採用しています。

資本剰余金と利益剰余金の混同の禁止

企業会計原則公表のおよそ20年後である平成13年に旧商法が改正された結果、現在の会社法では、資本金及び資本準備金の減少によって剰余金に組み入れた金額は配当可能額として社外流出できます。

しかし、無制限にこの振替を認めると本原則の意義が達成できない事態を招くことから、旧商法改正以降に公表した会計基準(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」)にて、資本剰余金と利益剰余金を混同してはならない旨を改めて定めています。

評価・換算差額等

現代の取引では、企業会計原則公表時には存在しなかった「その他有価証券評価差額金」や「繰延ヘッジ損益」「為替換算調整勘定」といった「評価・換算差額等(連結B/Sでは、その他の包括利益累計額)」がB/S表示されることになったことから、「株主資本(資本取引及び損益取引)」と「評価・換算差額等」との区分も含めて本原則の意義と捉えると考えるべきでしょう。

従って、B/S、P/Lの他、株主資本等変動計算書(S/S)及び包括利益計算書(C/I)も併せて、各書類の意義や関係性を確認する必要があります。

事例による本原則の確認

冒頭に引用として掲載した企業会計原則の注2には、「新株発行の払い込み(資本取引)」と「新株発行費用(損益取引)」とを区別すべき、と例示しています。

それ以外にも本原則に関係する例を3つ挙げます(詳細は関連記事を参照)。

自己株式

自己株式は以前は資産として他の有価証券と同様に扱っていましたが、現在では「資本の払い戻し」として「資本取引」と捉え、株主資本の控除科目として表示します。

一方で自己株式の取得等に要した付随費用は財務費用であり「損益取引」として扱っています。

資本連結

資本取引を「支配力基準」と結びつけて資本連結の各取引を捉えることで、資本連結の各取引を資本取引及び損益取引と理論的に整合した考え方で区分して捉えることができます。

例えば、支配獲得時の投資と資本との差額は「のれん」として計上し、その後の償却は「損益取引」としてP/L計上し、支配が継続する子会社株式の「追加取得」や「売却」取引は、のれんではなく「資本剰余金」を計上し、「資本取引」として捉えます。

非支配株主持分

非支配株主持分は制度上、純資産ではありますが、株主資本の外に表示します。これは「親会社説」と整合します。

しかし、「経済的単一体説」によれば、非支配株主持分は株主資本に含まれることになり、資本取引・損益取引区分の原則の範囲内の取引として捉えることになります。

会計基準・参考文献

※2022年7月9日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。

・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
・会社法(平成十七年法律第八十六号)
自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第1号)

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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