継続企業の前提とは|GC注記・用語など会計基準を解説
記事公開日:2022年7月17日
財務諸表の作成における重要な項目の1つに「継続企業の前提」があります。
本記事では、継続企業の前提について、注記や用語(疑義)を併せて会計基準のポイントを解説します。
継続企業の前提とは|注記・用語(疑義)など会計基準のポイントをを解説
目次
継続企業の前提とは
継続企業(ゴーイングコンサーン Going Cocern)の前提とは、企業が将来にわたって事業活動を継続するとの前提をいいます。
「継続企業の公準」は、会計公準の1つにもなっています。
意義
「継続企業の前提」といっても、現実の企業は様々なリスクにさらされながら事業活動を営んでいるため、将来にわたる継続的な活動には不確実性が生じることになります。
そこで、継続企業の前提に関する有用な情報を、投資家をはじめとする利害関係者に提供することを目的として「継続企業の前提」に関する開示を行います。
財務諸表との関係
財務諸表は「継続企業の前提」を基礎として、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されます。
売掛金などの資産は、将来にわたってキャッシュとして回収され、借入金も将来に向けて返済します。このように財務諸表は「将来にわたる企業活動を前提として」作成されています。
以上から、仮に継続企業の前提が成立しない場合には、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成された財務諸表は、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況を適正に示していないことになります。
経緯
制度化の背景を説明します。
1990年代後半の日本では、企業破綻の事例が相次いて起きましたが、その中には、監査人が監査報告書にて適正意見を表明していた直後に倒産する会社も存在したことから、継続企業の前提に対する会計監査の期待が高まりました。すでに米国や国際監査基準では、継続企業の前提に関する監査制度が導入されていました。
以上の動向を検討した結果、企業会計審議会は2002年1月に公表した「監査基準の改訂に関する意見書」にて、継続企業の前提の監査に係る規定を導入し、2003年3月決算の財務諸表監査から適用することになりました。
その後、サブプライム・ショックなどの経済不況などに対応する形で現在の制度に至っています。
ニ重責任の原則
二重責任の原則とは、監査用語の1つです。財務諸表の作成責任は経営者にあり、財務諸表の適正性に関する意見表明責任は監査人にある、とする財務諸表監査上の責任分担の原則をいいます。
二重責任の原則の下では、経営者が継続企業の前提に関する注記について評価・検討を行い、監査人が適正性を監査する、といった形で責任を分担することになります。
評価と開示の手続
経営者は次の通り、継続企業の前提を評価・開示します。
<継続企業の選定-評価・開示手続ポイント>
- ・評価期間の設定(1年以上)
- ・継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の確認
- ↓存在する
- ・当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応
- ↓不確実性が認められる
- ・継続企業の前提に関する注記
評価期間の設定
継続企業の前提に関する評価は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況を解消し、又は改善するための経営者の対応策を含み、合理的な期間(少なくとも貸借対照表日の翌日から1年間)にわたり、企業が事業活動を継続できるかどうかについて、入手可能なすべての情報に基づいて行います。
継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況
貸借対照表日において、単独又は複合して継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事業又は状況の例を示します。
<重大な疑義を生じさせる事象・状況の例>
- 1.財務指標
- ・売上高の著しい減少
- ・継続的な営業損失の発生又は営業キャッシュフローのマイナス
- ・重要な営業損失、経常損失又は当期純損失の計上
- ・重要なマイナスの営業キャッシュフローの計上
- ・債務超過
- 2.財務活動
- ・営業債務の返済の困難性
- ・借入金の返済条項の不履行又は履行の困難性
- ・社債等の償還の困難性
- ・新たな資金調達の困難性
- ・債務免除の要請
- ・売却を予定している重要な資産の処分の困難性
- ・配当優先株式に対する配当の遅延又は中止
- 3.営業活動
- ・主要な仕入先からの与信又は取引継続の拒絶
- ・重要な市場又は得意先の喪失
- ・事業活動に不可欠な重要な権利の失効
- ・事業活動に不可欠な人材の流出
- ・事業活動に不可欠な重要な資産の毀損、滅失又は処分
- ・法令に基づく重要な事業の制約
- 4.その他
- ・巨額な損害賠償金の負担の可能性
- ・ブランドイメージの著しい悪化
※例示であること、金額的重要性や質的重要性を加味して判断することなどに留意します。
解消又は改善するための対応策
継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合には、「当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策」が財務諸表作成時現在計画されており、効果的で実行可能であるかどうかについて留意しなければなりません。
<解消・改善例1>
- (疑義)借入金の契約条項の履行が困難
- (対応策)
- ・企業が保有する有価証券若しくは固定資産等の資産の処分計画
- ・新規の借入、借換え、新株発行等の資金調達計画
<解消・改善例2>
- (疑義)重要な市場又は得意先の喪失
- (対応策)
- ・他の同等な市場又は得意先の開拓などの計画
※その他、「継続企業の前提に関する開示について(監査・保証実務委員会報告第74号)」の付録(注記の参考文例)も併せて参照のこと。
開示・注記事項
解消・改善策を講じたとしても、依然として継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合には、継続企業の前提として次の事項を財務諸表に注記します(「GC注記」といいます)。
<注記事項>
- (1)当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
- (2)当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
- (3)当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
- (4)財務諸表は継続企業を前提として作成されており、当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映していない旨
後発事象
会計期間内ではなく、「期末日後(貸借対照表日後)」において重要な疑義を生じさせる事象又は状況が発生し、解消・改善策を講じても、なお重要な不確実性が認められ、かつ、翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況に重要な影響を及ぼす場合には、「重要な後発事象」として、上記「開示・注記事項」の(1)から(3)と同様の内容を財務諸表に注記します。
財務諸表以外の開示
上記の手続きの結果、財務諸表に注記するには至らない場合であっても、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合には、「企業内容等の開示に関する内閣府令」において、有価証券報告書の「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況の分析」に、その旨及びその内容等を開示することを求めています。
財務諸表にGC注記を行った場合であっても、当該事象又は状況が発生した経緯、及び経過当について、「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況の分析」に記載します。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2022年7月17日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・継続企業の前提に関する開示について(監査・保証実務委員会報告第74号)
・継続企業(監査基準委員会報告書570)(注)
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
・企業内容等の開示に関する内閣府令
(注)リンクをクリックすると、zipファイル(複数の監査基準委員会報告書含む)をダウンロードします。
参考文献
・スタンダードテキスト財務会計論I 基本論点編(第14版) 中央経済社 2021年
簿記1級の穴埋め問題や公認会計士試験(短答式)を中心に出題されます。経理実務では開示担当者として活躍したい人が押さえておくべき論点です。