明瞭性の原則とは|企業会計が要求する開示情報を具体的に解説

会計書類と監査

記事公開日:2024年2月15日

※本記事では、著者(須藤恵亮)の表現よって条文の解釈を行っています。

※対象:上級者・実務家

「明瞭性の原則(Grundsatz der Klarheit)」は、「公開性の原則(Principle of disclosure)」や「公正表示の原則(Principle of fair presentation)」ともいわれ、「企業会計原則」の「一般原則」として、財務諸表の明瞭表示を定めています。

本記事では、「明瞭性の原則」が何を意味しているのかについて、具体的に分かりやすく解説します。

「明瞭性の原則」とは

明瞭性の原則」とは、「企業会計原則」のうち「一般原則」の1つであり、企業に関する利害関係者の適切な判断に必要な会計事実を「財務諸表」として明瞭に表示・開示することで、企業の経営成績及び財政状態に関する利害関係者の判断を誤らせないことを要求する、「財務諸表」による報告行為を規定する原則をいいます。

意義

以下に説明する通り、「明瞭性の原則」は「企業会計原則」の最高規範である「真実性の原則」を体現し、企業会計が果たす「情報提供機能」及び「利害調整機能」を報告面から支える重要な原則といえます。

「情報提供機能」との関係

すなわち、現代の「所有と経営の分離」が前提となった上場企業では、経営者(受託者)と株主(委託者)との間には「情報の非対称性」が存在することから、株式市場が正常に機能するためには、経営者が株主に対して企業の判断に資する「有用な情報」を報告することで、受託責任を果たさなければなりません。

さらに「有用な情報」であるためには、経営の専門家ではない株主にも企業の状況に関する事実が的確に伝わるように、「財務諸表」として明瞭に表示することで、株主をはじめとする利害関係者の判断を誤らせないようにしなければなりません。

以上から、「明瞭性の原則」は「企業会計」の「情報提供機能」に欠かせない規定といえます。

「利害調整機能」との関係

また、以上の「有用な情報」を経営者が外部利害関係者に報告することは、「経営者が、例えば過大な経営者報酬など自らの利益を優先し、株主の利益を犠牲にする可能性がある」という、経営者と株主との間の利害関係に代表されるような、様々な利害関係者間の問題を負の方向に促進させてしまう「コミュニケーションギャップ」を抑える働きが期待できます。

従って、「明瞭性の原則」は「企業会計」の「利害調整機能」にも資する規定といえます。

「真実性の原則」との関係

「真実性の原則」は「企業の財政状態及び経営成績に関する真実な報告」を要請しますが抽象的な内容にとどまっており、「明瞭性の原則」に規定される報告を行うことが「真実な報告」の裏付けとなります。

求められる「明瞭性」の内容

「明瞭性の原則」の条文を解釈すると、次の通り、考えることができます。

必要かつ十分な会計事実の報告

条文にある「必要な会計事実」とは、「利害関係者の的確な判断を促す情報」でなくてはならないことから、数学でいう「必要条件」ではなく、「必要十分条件」を満たす情報と考えるべきです。利害関係者の判断に関する情報が不足してはいけないし、かといって、情報が多すぎて利害関係者の混乱を招くような報告であってもなりません。

概観性

「必要かつ十分な会計事実」がインプットに関する要件であれば、「概観性」はアウトプット、すなわち形式面の要件といえます。

例えば、貸借対照表は「運用形態と調達源泉」とが明らかとなるように、左側に「資産」、右側に「負債と資本(純資産)」が表示されます。また、資産や負債を「流動性配列法」によって、上から「流動→固定」の順番に表示することで、短期に回収・返済する資産・負債に投資家の目にとまりやすくしています。

このように「明瞭な表示」とは、利害関係者の関心事に着目した概観を具備しなければなりません。

「重要性の原則」との関係

以上の通り、「明瞭性の原則」は、利害関係者の判断を誤らせないようにすることを目的の1つとしているため、会社の規模からは重要でない会計事実については、「重要性の原則」を適用して、原則的な方法とは異なる、より簡便的な方法に依ったとしても、「明瞭性の原則」に反しません。つまり、両者の原則は共存します。

具体的な開示の例

「明瞭性の原則」によって、例えば、次のような開示が求められています。

会計基準等・参考文献

会計基準等

・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)

参考文献

・宇南山英夫 企業会計原則精解 中央経済社 1969年
・飯野利夫 財務会計論[3訂版] 同文館 1993年
・武田隆二 最新財務諸表論〈第5版〉中央経済社 1995年

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<関連書籍>

□書籍紹介
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。
□書籍紹介
固定資産及び棚卸資産の重要論点のほとんどは「企業会計原則」と「連続意見書」に記載があります。「連続意見書」は企業会計原則の定めをより深く理解するための考え方が記載されており、本試験でも度々出題されます。実務でも「付随費用」「低価法」「棚卸資産の範囲」等の各個別論点が社内会議や監査法人・税理士等とのコミュニケーションで登場することもあれば、「固定資産の減損会計」「棚卸資産の評価に関する会計基準」を中心とする各種の会計基準等を深く理解するための前提知識としても連続意見書の知識は必要といえるでしょう。
□書籍紹介
経理実務や会計監査で財務諸表を作成・監査する場合の表示規則。新しい取引が発生した場合や会計基準の改定等の際には必ず確認します。簿記1級以上の試験範囲であることは勿論ですが、経理実務では財務諸表の開示担当者として活躍するための入口として必読の条文。会計監査でも各科目の表示の妥当性や総括の表示チェックとして、監査法人の入所後に改めて詳細を学ぶことになる分野です。

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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著者プロフィール

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