取得原価主義(原価基準)とは|会計用語をわかりやすく解説
執筆日:2024年2月22日
※本記事は「入門者対象」ですが、一部に「上級者・実務家対象」のコンテンツが含まれています。
「取得原価主義(原価基準)」は、原則的な資産評価基準です。定義・意義といった全体論以外にも、「低価法・減損損失との関係」「諸原則との関係」「取得原価の算定方法」などの各論といったように沢山の論点が存在します。
本記事では、「取得原価主義(原価基準)」について、会計学の入門者を対象にした論点を中心に、順を追って理論的にわかりやすく解説します。
取得原価主義(原価基準)とは|会計用語をわかりやすく解説
目次
「取得原価主義」とは、
「取得原価主義(原価基準)」とは、資産を「取得原価(取得に要した支出額)」に基づいて評価する考え方をいいます。
「取得原価主義」は、原則的な資産の評価方法として、「企業会計原則」に次の通り、定められています。
(引用)企業会計原則 第第三 貸借対照表原則 (資産の貸借対照表価額)
「五 貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならない。」
「原価基準」とは
「取得原価主義」に基づく資産の評価基準を「原価基準」といいます。
例えば、「重要な会計方針」に「棚卸資産など資産の評価方法」を記載する場合には、「取得原価主義」ではなく「原価基準」の方を使うといったように言葉を使い分けます。
意義
会計基準として「取得原価主義」が採用されている主な論拠(理由)は、次の通りです。
「未実現利益」の排除
「取得原価主義」によれば、一旦「取得原価」で資産評価した後は、評価額を変えません。これは「保有資産の評価益」を計上しないことを意味します。
「保有資産の評価益」の計上は「販売(売却)」前の収益計上と同義であり、「未実現利益の計上」に他なりません。
従って、「取得原価主義」の採用は「未実現収益」の排除に貢献するといえます。
評価額の客観性・検証可能性
取得原価主義によれば、外部との取引により生じた過去の支出額に基づいて資産評価することから「客観性」を具備しているため、「主観的な見積り」に頼ることなく資産計上できます。
また、当該金額は納品書・請求書などの証憑資料に基づいて伝票(又は仕訳帳)等の帳簿に記帳することから、後に過去の記録を検証する際にも、証憑資料の裏付けがあるため金額の信憑性を得られます。
(補足)資金的な裏付けある分配可能利益の計算
※上級者・実務家対象
「債権者保護」の見地から、会社法は「資本維持の原則」を前提とした「分配可能利益の計算」を定めています。
しかし、資金的な裏付けがない「保有資産の評価益」を「分配可能利益」として認めてしまうと、当該資産の売却価額が評価益を下回った場合には、実質的に資本金の社外流出となる場合を認めてしまうことになります。
従って、「基本維持の原則」に基づく「分配可能利益」の計算という観点からは、「保有資産の評価益」計上を認めない「取得原価主義」が求められるといえます。
(参考)低価法・減損損失との関係
※上級者・実務家対象
従来認められていた「低価法(低価基準)」や、現会計基準上で適用される「棚卸資産・固定資産の減損損失」では、「取得原価に基づく帳簿価額」が「時価情報から算定した使用価値・売却価額」を下回る場合に、「評価損(又は減損損失)」を計上します。
しかし、当該損失の計上は、必ずしも「時価主義」を論拠としているわけではなく、「取得原価主義」の枠内で捉えることができるとされています。
デメリット
「取得原価主義」を採用するデメリットとして、「資産評価額の適切性」が挙げられます。
すなわち、「取得原価主義」に基づいた場合には、期末日の資産評価額は過去の取得額に基づいた金額となることから、最新の時価情報を反映していないことになり、「適切な資産評価」の観点からは、妥当といえません。
取得原価の求め方
基本的には、「有価証券/棚卸資産/有形・無形固定資産などの取得原価」は、「購入代価」に「付随費用(副費)」の一部又は全部を加算して算定します。
「連続意見書」に基づいて、「棚卸資産」と「固定資産」について、取得資産の求め方の概要を掲載すると次の通り。
固定資産の取得原価
※上級者・実務家対象
取得形態 取得原価の算定 購入 (原則)購入代金 - 値引・割戻 + 付随費用(買入手数料/運送費/荷役費/据付費/試運転費等)
(正当な理由がある場合)付随費用の一部又は全部を加算しない額自家建設 (原則)適正な原価計算基準に従って計算
(稼働前の期間に属する建設に要する借入利子)取得原価に算入できる。現物出資 出資者に対して交付された株式の発行価額 交換 (自己所有の固定資産と交換)交換に供された自己資産の適正な簿価
(自己所有の株式ないし社債等と交換)当該有価証券の時価又は適正な簿価贈与 時価等を基準とした公正評価額 引用元:連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について
棚卸資産の取得原価
※上級者・実務家対象
取得形態 取得原価の算定 購入 購入代価 + 副費(附随費用)の一部又は全部
(含める副費の範囲)収益費用対応の原則、重要性の原則、継続性の原則等を考慮して、これを適正に決定する。生産 完成品 適正な原価計算の手続により算定された正常実際製造原価
※標準原価や予定原価も認められる。副産物等 適正な評価額 仕掛品 (未完成指図書)個別原価計算の手続により当該指図書に集計された製造原価
(総合原価計算による仕掛品)完成品換算量に基づき、先入先出法、平均法等を適用することにより算定された製造原価引用元:連続意見書第四 棚卸資産の評価について
諸原則との関係
※上級者・実務家対象
「取得原価主義」は「実現主義の原則」「費用配分の原則」と密接な関係を有しています。
実現主義の原則
上記『「未実現利益」の排除』で解説した通り、「取得原価主義」に基づく資産評価が「保有資産の評価益(未実現収益)」の排除につながることから、「取得原価主義」は「実現主義の原則」と表裏一体の関係にあるといえます。
費用配分の原則
過去の支出額である「取得原価」は「費用配分の原則」によって、「当期の費用」と、残りの「次期以降の費用」とに配分され、後者が「期末日の資産評価額」として貸借対照表価額になります。
収益費用アプローチ
このように、「取得原価主義」は、「適切な期間損益計算」を資産評価面から支える考え方であることから、「収益費用アプローチ」に基づく評価方法といえます。
この点において、「資産負債アプローチ」に基づく評価方法である「時価主義」と対照的です。
まとめ
以上、「取得原価主義」について、各論を解説しました。
<取得原価主義のポイント>
- ・意義:「未実現収益の排除」「客観性・検証可能性」など
- ・取得原価の算定方法(簿記論と関係)
- ・「収益費用アプローチ」の考え方と整合する評価方法
会計基準等・参考文献
会計基準等
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
・企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について(大蔵省企業会計審議会)
・企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書第四 棚卸資産の評価について(大蔵省企業会計審議会)
参考文献
・宇南山英夫 企業会計原則精解 中央経済社 1969年
・飯野利夫 財務会計論[3訂版] 同文館 1993年
・新井清光 新板財務会計論(第4版) 中央経済社 1998年
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。