減損会計の割引率とは|計算方法などをわかりやすく解説(上級)
執筆日:2024年11月16日
※本記事は、2024年11月16日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
※本記事には公認会計士試験等では一般的には出題されない内容が含まれています。
※本記事は会計基準等の全てを解説しているわけではありません。実務では会計基準等もご参照ください。
減損会計の手続きにおいて「割引率」は使用価値の算定に利用されます。
実務上の具体的な適用の仕方や計算方法は「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に記載がありますが、文書が膨大なため、理解するのに時間がかかります。
そこで本記事では、減損会計における「割引率」とは何か、概要や具体的な計算方法について、会計基準等に基づき解説します。
減損会計の割引率とは|計算方法などをわかりやすく解説(上級)
目次
割引率とは
「割引率」とは、現在価値を算定する際に、将来キャッシュフローを割り引くために使用される率(割合)をいい、通常はパーセンテージ(%)で表します。
減損会計では、「減損損失の認識」及び「減損損失の測定」の手続きにおいて、「使用価値」を計算するために割引率が用いられます。
減損会計の手続き
- 1.資産のグルーピング
- ↓
- 2.減損の兆候
- ↓
- 3.減損損失の認識
- ↓
- 4.減損損失の測定
- ↓
- 5.会計処理・表示
減損会計における割引率の役割
減損損失の処理において、固定資産又は資産グループの帳簿価額から控除するために算定する「回収可能価額」は、「正味売却価額」又は「使用価値」のうち高い方とされています。
このうち「使用価値」には、現在から将来にわたる資産又は資産グループの回収可能性を反映させる必要があります。
このため、減損損失を測定する際に算定される使用価値は、今後生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローを、現在時点の割引率を用いて割り引いた現在価値とすることが適当であると考えられます。
以上の理由から、減損会計において割引率が必要とされます。
全体的な留意点
減損会計において割引率を用いる際の留意点について会計基準等の定めをまとめると次の通りです。
(1)割引率の構成要素
割引率は「貨幣の時間価値」と「資産又は資産グループに係る将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスク(リスク・プレミアム)」から成ります。
ただし、後者を割引率ではなく、将来キャッシュフローに反映させた場合には、割引率は「貨幣の時間価値」のみから構成され、この場合には国債の利回りを割引率として用います(会計基準(注6)、適用指針46項 参照)。
(2)数値
減損損失の測定にあたり、使用価値を算定する際に用いられる割引率は、減損損失の測定時点の割引率を用います。
また、将来キャッシュ・フローが税引前の数値であることに対応して、割引率も税引前の数値を用いる必要があります(以上、適用指針43項)。
(3)計算の単位
実務上、単一の割引率を使用することが考えられます。
しかし、将来キャッシュ・フローの見積期間のうち異なる期間においては、「リスクプレミアム」や「貨幣の時間価値」が相違します。そこで、異なる期間について異なる割引率を見積る場合には、当該割引率を用いることができるとしています(適用指針44項)。
(4)計算方法の適用
割引率は、原則として、翌期以降の会計期間においても同一の方法により算定します(適用指針43項)。
(5)連結上の取り扱い
連結財務諸表においては、連結の見地から、個別財務諸表において用いられた資産のグルーピングの単位が見直された場合には、原則として、使用価値の算定に際して用いられる割引率も資産のグルーピングに応じて見直されます(適用指針47項)。
※「連結会計上の資産のグルーピングの見直し」については下記の記事で解説しています。
具体的な計算方法
適用指針44項には、割引率の計算方法として次の方法が記載されています。
(1)資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率
内部管理目的の経営資料や使用計画等、企業が用いている内部情報に基づき、当該資産又は資産グループに係る収益率を算定します。
具体例
- ・類似した設備投資の意思決定を継続的に「ハードル・レート」を用いて行っている場合
- ・事業部別資本コストを活用している場合
- →これらを基礎として、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報に照らし修正を加え、当該収益率を計算
- ※適用指針126項
計算例
- ・ある資産に類似した資産の投資意思決定に用いているハードルレート:10%
- ・上記数値に目標数値3%が含まれる場合
- →割引率=10%−3%=7%
(2)資本コスト
資本コストは、借入資本コストと自己資本コストを加重平均した資本コスト(WACC)を用いることが適当であるとしています。
計算例
- ・リスクフリーレート(国債利回り):1%
- ・上場市場の期待収益率:5%
- ・同市場のβ値:1.2
- ・借入資本コスト:3%
- ・自己資本比率:70%
- ・実効税率:40%
- (計算)
- 自己資本コスト=1%+1.2✕(5%−1%)=5.8%
- WACC=3%✕30%+5.8%✕70%/(1−0.4)=7.66...→7.7%(四捨五入)
(補足)非上場企業のWACCの求め方
非上場企業のWACCについてはβ値の算出が問題になりますが、この点、類似の上場企業のβを代用して算出する方法が存在します。
・本記事の最下部に掲載の「参考文献」に示したPDF文書や書籍には、WACCの理論的な解説も含めて具体的な計算方法が記されているため、IPO準備企業の実務において割引率の算定方法としてWACCを採用する場合に役立ちます。
<非上場企業のβ値の計算式>
引用元:「企業価値評価ガイドライン(日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第32号)」52ページ
(3)類似の収益率
当該資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率。
例えば賃貸用不動産における還元利回りなどのように、市場数値が入手可能な場合に用います。
(4)ノンリコースの利率
当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積られる利率。
適用指針では、一般の借入れについての追加借入に対する利子率を割引率として用いることはできないとしています(127項 参照)。
しかし、当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積られる利率が得られる場合には、当該利率を用いて割引率を算定することができるとしています(適用指針45項(4) 127項 参照)。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2024年11月16日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(固定資産の減損に係る会計基準 及び同注解を含む)(企業会計審議会)
・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(移管指針第6号)
参考文献
・企業価値評価ガイドライン(日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第32号)
・グロービス・マネジメント・インスティテュート MBA ファイナンス ダイヤモンド社 1999年
固定資産は取得原価主義や費用配分の原則をはじめ、伝統的な論点が多い分野。会計理論と併せての学習が効率的です。